哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

小田原北條五代祭りのこと

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■小田原北條五代祭りのこと

 去る、令和元年5月3日、神奈川県小田原市で毎年開催されている、小田原北條五代祭りに行ってきた。私の参加は2年連続2回目である。このお祭りでは、北条早雲以下北条家と家臣に扮した行列のパレードが行われる。多くの家臣、姫たちは徒歩で行列するが、武将たちが7騎、馬にまたがっての行列となる。

 私はさるご縁があり、昨年と今年と、馬を引くお手伝いをした。朝、辰の下刻、小田原城下に参上せよ、という指令を受ける。下総国に住まいする私としては、いささかキツい。総武線東海道線を乗り継いで行くことになるのだが、寝坊や交通トラブル等の遅刻、寝不足による体調不良を防ぐため、早々に前泊を決め、小田原宿のビジネスホテルを手配する。

 前日、予定通り小田原に着いた私は、しばし観光を楽しんだ。海鮮丼を食べ、文学館を拝観し、天守閣に登る。

 当日、集合場所に向かう。馬方たちが、三々五々に集まってくる。ちなみに当たり前だが、馬たちは馬運車という、トラックでやってくる。行列の出発点は城内になるため、馬たちや、その他必要な資材、飼葉やバケツ等をえっちらおっちら運んでいく。馬に装着する鞍は、馬たちの背に乗っけて運んでもらう。待機所に到着、馬たちを繋いで落ち着くと、今度は馬方一同、ぞろぞろと近隣の小学校に移動し、体育館に向かう。ここで、着付けのプロフェッショナルの人々が待ち構えているので、我々は彼らの着せ替え人形になって、足軽の扮装に仕立ててもらう。参加者は皆それぞれに、馬に関しては技術と知識を持っているが、別に和装で馬に乗っかっている訳ではないので、こうなると衣装屋さんの言いなりである。脱げ、と言われれば、脱がねばならない主従関係が発生する。SMである。

 そんなこんなで、この令和の世に、二十数名の即席の足軽が誕生する。実は一番楽しいのは、この瞬間である。小田原城を背景に、イキった足軽おじさんたちが、記念撮影をする様は、平和の象徴である。馬の近くに戻って、各自、馬に触るなり、あそこが苦しいだのここがキツいだの不満をこぼす。ここからが長い。二刻程の待機が始まる。そうなのである、行列前にさっと参上し、さっと着替えて、さっとパレードするのであれば、話は簡単なのであるが、人の少ない朝一で馬を入城させ、着替え場所が混む前に速やかに着替えを済まし、と考えると、そこから膨大な待ち時間が発生する。

 周囲では音響の調整や、太鼓のリハーサルや、鉄砲の試し撃ちが始まる。馬たちはこの時間で、少しずつ音に慣れて、ああ、今年も小田原の仕事かと理解し始めるため、彼らにとっては、この長い待ち時間も無駄ではない。乾草を咥えつつ、来る労働への心構えをするのだ。一方、人々は、一部の優秀な馬方たちが着々と馬に装着する道具を用意し、馬たちの準備を進める中、我々凡人は、日陰に隠れて、遠巻きに馬たちを眺め、早すぎる昼食の弁当をつつきながら、腹が縛られてて苦しいなあと愚痴をこぼしたり、マイ地下足袋を自慢したりする。

 そして昼過ぎ、未の上刻である。行列は出発する。北条某に扮した偉い人を背に乗せた馬たちを、我々、くたくたの足軽たちが引っ張っていく。沿道には、人がわらわらいる。四方八方から迫る臭い、音に、馬たちはいつも以上にピリピリしたり、フラフラしたりする。我々はと言えば、ただひとつ、無事に半刻のパレードが終わりますようにと、それだけである。どんなに訓練された馬でも、音に驚いてパニックになれば、乗り手を振り落としたり、観客に突っ込んで怪我をさせたり、そういう可能性はあるのだから。

 そういうわけで、馬方一同、細々と苦労しつつ。近くで発生する、発砲や太鼓の音、大音響のマイクからの声、写真を撮りに駆け寄ってくるお客さん、そういったもろもろを多少は気にしつつも、馬たちはみんな、頑張ってくれた。人馬共に大きな、怪我や事故はなく、今年も無事に終えることができた。

 私が今回、チームを組んだかんたくんは、和種である寒立馬や重種ブルトンの血をひく、サラブレッドよりもずっと身体が大きく力も強い馬。しかもまだ、4歳とやんちゃなところがある子なのだけれど、ちゃんと頑張ってくれたし、前に立って止めなきゃいけないシーンで、私は一回だけ踏まれたのだけれど、そのときも鉄入りの安全地下足袋のお陰でノーダメージ。帰り際、またねぇ、と言わんばかりに、馬運車から顔を出して、みんなに愛嬌を振り向くかんたくんは、おうちのある御殿場へ、この日のために集まった馬方たちも、バラバラと散っていったのでありました。いちごぽーんとさけた。

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