哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

はしもとみおの木彫の世界のこと

 

■どうぶつ郵便局へようこそ!~はしもとみおの木彫の世界~のこと

●郵政博物館に行ってきた

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 先日、東京スカイツリータウンソラマチの9階にある、郵政博物館に行ってきた。お目当ては、動物を木彫でリアルに表現する、彫刻家はしもとみおさんの企画展を拝観するためである。企画展示は常設展示の奥のスペースで行われていたけれど、そこへ至るまでも、郵便の馬車や電車の模型に、ちびい動物たちがいたりと、どうぶつゆうびん局ムード満載である。

 ちなみに私は、郵政博物館自体初めての来館であったが、常設展もプロジェクションマッピングや模型、ゲームを通して、郵便のことを知ってもらいたい、という熱意が伝わってきて、とてもよい博物館だと思った。世界各国の切手が年代ごとに並べてパネルで展示されていて、そういうものを通して違う国、違う時代を想像するのも、楽しい時間である。

 

www.postalmuseum.jp

 

www.postalmuseum.jp

 

彫刻家はしもとみおホームページ

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 企画展示の会場には、くまのシュウくんをはじめ、羊、山羊、オランウータン、犬、猫、ツチノコ、色々な動物たちがいる。シュウくんは、限定で膝に乗って、写真を撮ったりもできるらしい。大きい、こんな大きなくまを人の手が作り出している、というのがすごいと思う。

 会場には無地の紙が用意されていて、気に入った動物にメッセージを書いて、会場内のポストに投函すると、霊長類が郵便局員になって、仕分けをして、その動物のもとへ届けてくれる、という趣向のよう。手紙を書く、メッセージを考えるということは、相手を想像することになるので、来館者が動物たちに対してイマジネーションを広げやすくする、とても素敵な試みだと感じる。

 

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 さて私が最も気に入った動物は、猫のチグリスくん。このでっぱったお腹と、だらけた姿勢が最高である。動物たちは、ツチノコのように種名で表現されているものもあるけれど、その多くが固有名詞で展示されている。

 作者のはしもとさんは子供のころから動物が好きで、獣医になりたかったそう。ところが、阪神淡路大震災を経験し、動物たちの命がたくさん失われていくのを目の当たりにし、自身の生活も大変であったそう。そんな中で、医学で救えない動物たちを、彫刻として残す大切さに気付き、美術への道を進んだようだ。

 動物たちの展示の多くに、ひとつひとつ、モデルの子の名前がついているのは、そういうことなのだろう。きっとはしもとさんは、猫を彫りたかったんではなくて、この一瞬のチグリスを彫って残しておきたかった。

 

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 そういった作者の思いは、このスケッチからも伝わった。野良猫と出会ったときにつけているメモなのだそう。猫たちの外見的な特徴だけでなく、性格やなつき度まで、細かく書いている。

 素晴らしいなあと思う。動物たちひとりひとりときちんと向き合っている。動物好き、芸術家、そんな言葉で語る、くくることができない人だと思う。きちんと動物たちとお話をして、とっても良い瞬間を、きちんと物語としてとどめておいてあげる、そんな動物たちの、いうなれば友達なのだろうと思う。

 これからもたくさんの作品を生み出してほしいなと思う作家である。

 

千葉工業大学東京スカイツリータウンキャンバスに行ってきた

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 一つ下の8階には、千葉工業大学による、なんか近未来的な展示があるのである。入場無料なので、ふらっと寄ってきた。でっかいマクロスの何かがある。マクロスと言えば、なんか歌うやつという認識ない。だから作品名がマクロスなのか、この機械がマクロスなのか、幕張ロス略してマクロスなのか、よくわからない。わからないものは書いてはいけないのだが、書こうとするとこんな感じになる。

 

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 こちらは、たくさんある写真集などのなかから、写真やイラストを選んで、それを機械でスキャンすると、それが何の花(に最も近い)かを判別してくれる、という展示である。面白い。上のように、クラゲを読み込ませて、それに近い花を答えさせるという意地悪をすることもできる。

 ここの展示では、千葉大の学生か研究者なのか、色々と解説してくれるのが良い。一人、白人の美女がいた。その人も研究者なのだろうか。日本語は拙かったが、なんだか懸命に説明をしてくれた。是非、美女が好きな皆さんは、足を運んでみるとよいのでは。

千葉工業大学東京スカイツリータウン®キャンパス

 

●魂の在処

 閑話休題。はしもとみおさんの展示の話に戻る。果たして、こうして彫刻として描かれた動物たちは、そこに生き残っているのだろうか。もちろん、生身の動物が死んで、そのまるごと代わりを彫刻が務めることはできない。それは当然である。

 しかし、先日鑑賞したルーヴル美術館展においても、古来より、亡くなる人の面影を留めるために、肖像を描いた、という解説がなされていた気がする。写真を見て、故人を思い出す。それは普通のことだ。

 動物においても、写真や絵に収めることで、ペットの面影を大切にすることは、しばしばあることである。一方で、彫刻とするという方法は、メジャーではない。理由は何であろう。もちろん、彫刻をきざむことができる人が少なく、手間がかかる、というのは考えられる。

 しかしもしかすると、本人の似姿として、あまりにも似すぎている、というのはあるのかもしれない。いや、私は今回の展示で、モデルとなった動物たちを知らないのだから、この作品たちがどれほど彼らに似ているのか、それはわからない。しかし、リアルであることははっきりと分かった。リアルすぎて、生きているのではないか、魂が宿っているのではないか、そう思うほどに。

 本人が死に、似姿が残されたとき、彼らの魂の在処はいったいどこなのであろうか。