哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

2018年の読書のこと

●2018年に読んだ本ベスト5

 なぜ人間はベスト5に心地よさを感じるのであろう。 

 例えば、なぜベスト6ではいけないのであろうか。あるいはベスト9ではいけないのだろうか。これは人間が片手で数えることができるのが、5つまでだからではないだろうか。あるいは、ベスト10の半分だからではないだろうか。しかし、待て、それならばベスト10の方に私は強い心地よさを感じる。これはおそらく10進法を当然と考える人間の文化的帰結であり、そしてそもそも、人間が10進法を採用したのは、人間の指が片手に5本ずつある、もちろん例外はある、生まれつき指が4本や6本の人や、後天的に指を欠損する人もいる、ただし、この世の人間の多くの人が、腕を2本、各腕の先に指を5本ずつ持っているわけで、つまるところ、2×5=10なのである。かくして、10新法が採用され、私はここでふと、角度の一周が360°なのは何故だろうかとか、時間が60進法なのは何故だろうとか、そういう下らない疑念が湧いてくるのを、脇に追いやらねばならないわけであるが、とにかく、その10進法の指導の下、ベスト10とベスト5はずぶずぶの癒着関係になることで、ベストなんちゃら界のベスト3に入っているのである。そうなのである、よくよく考えると、ベストなんちゃら界の一位は、多分ベスト3であり、ベスト10とベスト5は、多分二位、三位なのである。であるならば、ベスト3は何故こうまでの権勢を得たのだろうかと考えるに、もちろんオリンピックの表彰台が金、銀、銅の3人用だからであり、長嶋の背番号だからなのであろう。

 

■第5位:僕とツンデレハイデガー

  過去の西洋哲学者たち(デカルトスピノザ、バークリ、ヒューム、カント、ヘーゲルニーチェハイデガー)を、萌えキャラ化し、彼女らのいる学園に紛れ込んだ主人公が、自分探しをしながら哲学を学ぶ、という内容。

 はっきり言って、その物語はかなり陳腐であるし、そこで語られる哲学の知識も、駆け足であり、代表的な用語にさらっと触れた、というあっさりしたものである。

 それでも、著者による言い換え、現代への置き換えにより、哲学者たちがこういうことを言おうとした、問題意識を持っていた、という理解のきっかけは得られる本であるし、そこで関心を持った哲学者について、きちんと専門書を読んで正しい知識を得たり、原典に当たって掘り下げればよいのかな、と思う。

 私が気になったのは、スピノザ。オランダのユダヤ人であり、この世界全体が神と考えていた。キリスト教プラトンイデアデカルトらが考えていたような、絶対的な善悪の存在を否定し、この世はそれが有益か否かで人間が善悪を決めているだけと主張していた。それゆえに、ルールのない世界を恐れる、聖職者、支配者、そして民衆らに徹底的に嫌われたとのこと。しかし、そんな彼が、人間は他人に自慢することで自己肯定感が高まる一方、相手からは妬まれるから、人間の敵は人間である、と考えながら、なおも人間同士の付き合いのメリットを説いていたことが面白いと感じた。

twitter.com

 

■第4位:チーム・バチスタの栄光

  言わずと知れた、海堂尊のデビュー作である。この作品自体も、とても面白い。田口と白鳥という登場人物のキャラクターが上手く立っていて、文章もさっぱりしていて、とても読みやすい。しかし、それだけでなく、すごいのはこの作者の作品が、一つの世界を作っていることである。私は恥ずかしながら、海堂尊を、10年くらい食わず嫌いしていたのだが、二宮和也主演のドラマ版ブラックペアンを機会に、今年、何作か集中的に読んで、この作者に出会えてよかったと思う。

 キチンと物語の中の歴史があり、このバチスタの脇役が別の作品では主役だったり、バチスタの何年前、何年後の物語、同時代の別の場所の物語と、その世界観に奥行きがある。一つ一つの作品は、医療ミステリーと構えて読むと拍子抜けする、エンタメ小説であり、物語の流れも何だこりゃという、ご都合主義のものも多いが、その海堂ワールド全体として、すごいなあと思うし、そういったキャラ一人一人の人生を考え、一つの世界を作ってしまう、しかも医師であり、その背景には死亡時画像病理診断の重要性と社会制度への導入を訴えるという目的もある、そんな海堂尊才能に脱帽したのである。

author.tkj.jp

 

■第3位:ほぼ命がけサメ図鑑 
ほぼ命がけサメ図鑑

ほぼ命がけサメ図鑑

 

  世界にただ一人というシャークジャーナリストによる著作。サメは人を襲うとか、サメは美味しくない、といった誤解を丁寧に解消してくれる。温厚な種類が多くて、タッチプールで触れ合うこともできるのだそう。

 ネコザメの卵が変ならせん状ということは知っていたけれど、それが弾力のある卵殻だということは初めて知った。サメの多くが胎生ということも、これを読むまで知らなかった。ダルマザメが噛みついて丸くあいた穴のことや、ラブカの異様な姿、ジンベエザメの用途不明の歯、たくさんのことをこの本で知って、私のシャーキビリティは格段に上がった。

 何より、自分の好きなサメを追って、こうして出版までしてしまう著者の生き方にも興味を持った。是非、手に取って、気になるサメの項だけでも読んでみていただきたい一冊である。

twitter.com

 
■第2位:ビブリア古書堂の事件手帖~扉子と不思議な客人たち~

   昨秋には黒木華主演で実写映画化された、ビブリア古書堂の事件手帖の外伝的な作品。本編の後日譚であったり、脇役目線の物語を描いてくれている、ファンには嬉しい作品。栞子と娘の扉子のやり取りがなんとも微笑ましく、シリーズ通して知っている人たちの昔話を聞くような、現実感、安心感がある。

 本編同様に古書にまつわる謎を巡る物語が中心であり、章ごとに1冊の本を取り上げる。私が今回気になったのは、佐々木丸美の『雪の断章』。とにかく優しさに包まれた世界観が大好きで、なんかまともに文章にならない。鎌倉行きたい。

 

twitter.com

 

 ■第1位 :朗読者
朗読者 (新潮文庫)
朗読者 (新潮文庫)
 

  これも多分、10年前に読んでおくべきだった作品。10年前、私がまだ汚れなき大学生で、書店でバイトをしていた時に、よく売れていたのがチームバチスタとこれだった記憶がある。そのころ、これを原作にした、映画『愛を読むひと』をやっていたんだろう。

 青年と年上の女性の初々しい恋愛と、その後を描いた作品。第二次大戦後のドイツが舞台であり、やがて物語はユダヤ人の強制収用にまつわる、ナチスの戦犯裁判が関連してくる。タイトルは、主人公が女性に、本を朗読して聞かせたことにちなみ、原題はDer Vorleser。

 描かれる当時の世界は美しいし、彼らの関係は決して一般的なものではないが、一人一人の思いは純粋だと感じる。綺麗な世界に、戦争や人間関係によって闇が落とされるが、それでも美しくあろうとしたのが主人公のミヒャエル・ベルクであり、ハンナ・シュミットである。彼らの行動には得心できない部分も多くあるが、それでも、美しく、そして、悲しい物語だなと感じた。 

movies.yahoo.co.jp

 
■対象書籍

 私が2018年に読了した書籍の一覧。 

 太字のものが、読了直後に高評価を付けたもの。

 赤字が、この記事でベスト5に選んだもの。

 あくまでも対象は私が2018年中に読んだことであり、出版年などは関係ないので、悪しからず。

タイトル 作者 出版社
ペンギンの世界 上田一生 岩波書店
シャーロックホームズの思考術 マリア・コニコヴァ 早川書房
やさしくできる傾聴術 中村有 秀和システム
インザプール 奥田秀朗 文藝春秋
エピソード魔法の歴史 ジュニングス 社会思想社
ケルベロス 鋼鉄の猟犬 押井守 幻冬舎
人生に疲れたらスペイン巡礼 小野美由紀 光文社
MBAマーケティング グロービス ダイヤモンド社
ストレスと適応障害 岡田尊司 幻冬舎
スピノザ神学政治論を読む 上野修 筑摩書房
とっぴんぱらりの風太郎 万城目学 文藝春秋
嫌われる勇気 岸見一郎・古賀史健 ダイヤモンド社
はじめて学ぶデザインの基本 小島トシノブ ナツメ社
空中ブランコ 奥田秀朗 文藝春秋
パノラマ島奇譚 江戸川乱歩 春陽社
パンク侍、斬られて候 町田康 角川書店
ブレイズメス1990 海堂尊 講談社
おかわりもういっぱい 椎名誠 新日本出版社
チームバチスタの栄光 海堂尊 宝島社
ナイチンゲールの沈黙 海堂尊 宝島社
ジェネラル・ルージュの凱旋 海堂尊 宝島社
螺鈿迷宮 海堂尊 角川書店
数学的思考法 芳澤光雄 講談社
戦後落語史 吉川潮 新潮社
論理トレーニング101題 野矢茂樹 産業国書
トヨタの問題解決 OJTソリューションズ 中経出版
ペンギン・ハイウェイ 森見登美彦 角川書店
スリジエセンター1991 海堂尊 講談社
ブラックペアン1988 海堂尊 講談社
情報生産者になる 上野千鶴子 筑摩書房
スタンフォード式最高の睡眠 西野精治 サンマーク出版
朗読者 ベルンハルト・シュリンク 新潮社
これならわかる、能の面白さ 林望 淡交社
三島由紀夫レター教室 三島由紀夫 筑摩書房
ほぼ命がけサメ図鑑 沼口麻子 講談社
コーピングのやさしい教科書 伊藤絵美 宝島社
夢見る黄金地球儀 海堂尊 東京創元社
マンガでやさしくわかるNLP 山崎啓支 日本能率協会マネジメントセンター
恋する能楽 小島英明 東京堂出版
扉子と不思議な客人たち 三上延 KADOKAWA
僕とツンデレハイデガー ヴェルシオン・アドレサンス 堀田純司 講談社

 

■参考:ペンギン・ハイウェイ 
ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

 

 2018年に読んだし、一番面白かったし、とても素敵な話なのだが、再読であるし映画のことで触れているので、除外した。

philosophie.hatenablog.com