■能楽と動物のこと
能楽に関する記事と、動物に関する記事が、やや少なくなっている。文章を書くにあたって、やはり、鮮度のあるものだと、良いと思う。その点、何か展示を観に行ったとか、舞台を観に行ったとなると、文章にしやすいと思うのだが、生憎とここ最近、能の舞台を観ていないし、珍しい動物と触れ合う機会も持てていない。先日、皐月賞ではサートゥルナーリアが強い勝ち方を見せたことで、記憶に新しいのであるが、私は中山競馬場で現地観戦のつもりが、うっかり風邪をひいてしまい、この千葉県民が例年二番目に盛り上がるイベントをふいにしてしまった。ちなみに、千葉県中が例年最も燃え上がるホットなイベントは、有馬記念である。
そういうわけなので、この度、能楽と動物に関するまとめを行い、カテゴリー間のバランス均衡の一助としたい。
●能楽器たち
能楽とは、そもそも、能と狂言の総称であり、能は西洋でいうオペラ等同じく歌舞劇であり、幽玄や美しさを重視する芸能である。一方で狂言は、能の前半と後半(前場と後場)の間に演じられる間狂言と、一つの独立した演目として演じられる本狂言とがあり、滑稽さ、おかしみを重視したコメディである。そして能の演目では、通常、四拍子と呼ばれる、バックミュージックが登場し、それが笛(能管)、小鼓、大鼓、太鼓、である。これに謡をつけると、雛飾りの五人囃子となる。
さて、その内、打楽器である小鼓、大鼓、太鼓には、桜の木等の木製の部分と、打って音を出す、皮の部分とがあるわけであるが、その皮には、小鼓と大鼓には馬の皮が、太鼓には牛の皮が使われている。このあたりが、楽器というものの解せないところである。三味線に使われている猫もそうであるが、可哀想でないか……、と思ってしまうのだ。
その他、能面のうち、男性や神様の面の、髭や毛髪に使用されている毛は、馬のたてがみや尾なのだそうだ。また一方で、女面には髪が描かれているが、女面をかける際に使用する蔓は、やはり馬毛(ばす)とよばれる馬の毛を、演者に合わせて結い上げて、女性の長髪を表現するのだという。
また他に、能の小道具の中では、鳥の羽根を用いるものもある。例えば能『鷺』に登場する鷺冠や、『鞍馬天狗』に登場する羽団扇である。これらは、かつては日本の豊かな自然に育まれ、野生の鳥たちの羽根を使っていたのであろうが、近年はその確保が困難になってきており、飼育されている鳥類から落ちた羽根を収集する等の工夫をし、江戸時代から使われている道具を修繕しつつ、使っているようである。
●演目と動物
さて、そんな色々な所で、動物の毛、皮、羽根が、舞台道具として使われる能楽であるが、もちろん、演目の中の登場人物(キャラクター)の一つとして、舞台に上がる動物たちも多くいる。狂言の家では、「猿に始まり、狐に終わる」ということが言われているそうだ。狂言師の家に生まれた子どもは、『靭猿』の子猿役で初舞台を踏み、大曲『釣狐』をつとめるにあたり、一人前となるということだそうだ。
また、私は馬が好きなので、馬が登場する能楽をということで調べたら、真っ先に出てきたのが、狂言『止動方角』であった。画像を見てみると、妙な風体の馬が舞台に上がっている。咳をすると暴れる馬を題材にした、主人と家来の滑稽な物語であるが、なんとも馬の姿が珍妙である。
先の猿や狐には専用の面(狂言面)が存在するが、止動方角の馬など、その他の動物を表すのによく使われるのが、「賢徳」という面だそうだ。なんともユーモラスな雰囲気の狂言面であり、他にも『蟹山伏』の蟹もこの面を使用するらしい。
●まとめ
こうしてみてみると、日本の自然、動物たちが能と狂言に、普通に存在していることがよくわかる。それも、能が成立した室町時代から戦国、江戸時代の動物たちが、舞台の上に反映されている。そういった観点から、能楽を見てみるのも、おもしろいかと感じる次第である。