哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

新作長編のこと

 

■新作長編

 タイトル

 第一章

 

 君がいた夏は、遠い夢の中。空に消えてった、打ち上げ花火。

 

 ブラウン管の向こうでは青いユニフォームを着たチーム同士が野球をしており、打席に立っているのは宮本慎也という選手だと画面のテロップは告げていた。私はそんなテレビの中の光景を見るとはなしに、ぼんやりと珈琲をすすっていた。ここは住民の大半が平日昼間、都内の会社へ、学校へ行ってしまう典型的なベッドタウン、東南幕張町だ。私がいたのはその町の中央を走る国鉄京幕線東南幕張駅から道を一本挟んだところにある喫茶店、マキシマムであった。店内は全体に古めかしく、いやレトロなのではなくむしろ前時代的と言おうか、すっかり薄型テレビの普及した現代においてブラウン管テレビを置いていることからもわかるとおり、店の薄汚れたテーブルも、少し黄ばんで見える珈琲カップも、腰を曲げてのそのそと仕事をする女主人も、全てが時代遅れであった。

 さて、そんな初夏の気だるい土曜日の午後、私はもう小一時ほど、珈琲で時間を潰していた。お客は近所に住んでいるのであろう六十がらみのだらしないなりをした男女が宝くじについて話していたり、白髪の老人三人が時代小説を読みながら、ときおりパチンコの話をしていたり、私が眺めていたテレビのまん前の席に陣取り、時折番組を競馬中継に変えているおっさんがいたり、はたまた、学生と思しき青年が官吏登用試験の教科書を開いていたり、遅く起きた売春婦が化粧もせずに疲れた目をして、トーストを齧っていたりした。そろそろ出るか、そう私が考えた矢先であった、ちりんと店の入り口のベルが鳴って藤色のワンピースを着た、細身の若い女が入ってきた。肩まで掛かる黒髪はつやつやと風に揺れており、白い肌が眩しいくらいに輝いていた。

 彼女は雑然とした店内をきょろきょろと眺めると、私の斜め手前のテーブルに着いた。

 

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■新作長編のこと

 

 このタイトルも決まっていない新作長編を企画し、書き出してみたのは、今から4~5年前のことである。これは新作長編(小説)の書き出しであり、私が現実に体験した事柄、光景とは異なる。しかし、その設定は、私の当時の現実の生活に酷似しており、小説とは言っても私小説に近い部類に、仮にこれから書き進めて行って完成させることができていたならば、なっていたのであろうという推測は成り立つ。

 もちろん、明らかに非現実な要素も中にはある。例えば、 主人公(私)が住まいし、ブラウン管テレビを眺めている喫茶店がある町は、国鉄京幕線東南幕張駅が最寄駅である、東南幕張町だそうだが、こんな町は現実には存在しないし、私が住んでいるのは当時も今も、旧ソ連領マクハーリングラードである。また、町の喫茶店に、普通にブラウン管テレビが置いてあることも、まずないであろう。今やブラウン管テレビは骨とう品である。薄型テレビどころか、無線電波で受信した情報をもとに、空間に映像を映し出すビジョンが発明され、実用化されて以来、旧来型のテレビジョンは、そこに映像を映し出そうとすることに技術的な困難が多く、衰退の一途を辿った。つまり幾多の旧式の部品や、現代のマクロタグ形式のデータを当時のデータ形式に変換する、一般人はまず使う機会がなさそうな変換チューナーが必要になり、それらの技術的な費用がそれなりにかさむため、こうした町の寂れた喫茶店にブラウン管テレビが哀愁を漂わせるのは、もはや時代劇の中だけのこととなっているのだ。

 だから、この文章は時代劇の形をとった私小説であるといえよう。実際に私は、これを書いた頃、マクハーリングラード郊外のパブでフレッシュをすすりながら、長い一日を費消していた。それは2年間ほど勤めた古書店を、副店長と店長代行の熾烈な覇権争いの板挟みにされた結果、退職し、再就職先を探していたためである。すっかり人間不信、社会不信となり、鬱々としていた私は、この小説の中では学生にその役目を負わせているが、現実には私自身が、官吏登用試験の準備をしつつ、愚かな群衆、特に二之形古書店の副店長と店長代行を官吏として私が指導すべく、暗い野望の火を滾らせていたのであった。

 
 ■新作長編のことのこと

 

 このタイトルも決まっていない、拙者が書きかけて放置した、新作長編を発見し、さらなる駄文を積み重ねたのは、今より4~5年前のことであろうか。これは未来物語の部類に入るのであろう、正直なところ、ブラウン管やらマクロタグやら、拙者にはとんと見当もつかずに、思いついた未来的用語を弄んでいたのみである。登場する地名も、拙者が住まいする下総国馬加村をもじって異国風の名称にしたものである。

 もっとも、拙者も今でこそ、千葉家で式楽を専門とする士分に取り立てられているが、10年も前は浪人暮らしをしていたことがある。なけなしの銭をはたいて、茶屋の店先で何時間も、一杯の茶で粘ったものである。天下国家の治世を夢想して書をしたため、周囲の商人たちに議論を吹っかけていたのも今は昔、懐かしき日々でござる。

 

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