哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

月亭太遊師のこと

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月亭太遊師のこと

 先日、縁あって上方落語家で、ネオラクゴ家を自称する月亭太遊師の独演会にお邪魔した。東京都墨田区錦糸町駅からすぐのカフェバー、シルクロードカフェにて催された、「ネオラクゴ・シルクロード」である。とても素敵な会で楽しかった。

 会場はカフェのテーブル・椅子を、店の奥に設けられた高座を見やすい形に移動させたもので、開演前・上演中・終演後と、自由にカフェのメニューを飲食できる。18時半頃に開場して、開演は19時45分であった。私は仕事を終えて伺ったので、19時過ぎにお店に到着、すぐにやってきた友人とともに、食事をとりながら、開演を待つ。

 今回は、その友人が誘ってくれたおかげで、初めて師の高座を拝見することができた。異国情緒あふれるカフェの雰囲気と即席の高座が、激しい音の出囃子とともに登場した、師の飾らない雰囲気とよく似合っている。月の満ち欠けが刻まれたお洒落な見台をぽんぽこ叩いて見せて、かつてはこうやって京都や大阪の路地で、人々の目を引いて噺をしていた。だから、リヤカー(デパンダンス号)で高座を曳いていって、野外で口演をする活動もしていると、そんなことをおっしゃっていた。

 さて、肝心のネタであるが、全て新作、一つ一つが数分程度とコンパクトにまとまっており、聞きやすいネタばかりである。特に歌ネタが多く、CD屋さんのネタやメタル落語等、本当に短時間でちょっとした発想で笑いを誘う。このあたりは元々はNSCを卒業してお笑い芸人をなさっていたそうなので、ショートコントの要素を落語の様式に落とし込んだような印象であろう。

 すこし長く作りこんだものとしては、二人の男が連れ立ってテーマパークに出かける「山城ヨチムーランド」や、ある村の住民がそこの風習について語る「来て!観て!イミテイ村」等、どれも面白く、そしてどこか影のある不思議な世界を描いている。その発想、舞台設定は、古典落語が描き出す江戸の世界と異なっており、私には見慣れない世界である。しかし、その世界にあっさりと入り込んで、楽しむことができたのは、師の演技によるものである。噺家さんにこういう称賛で良いのかはわからないのだが、非常に演技の上手な方で、生き生きとしたキャラクターが目の前に登場するのだ。

 師は、上演中にどんどん写真や動画を撮って、SNSにアップしてバズらせてほしいと仰っていた。このあたりも、その他の落語家とまるで違う。しかし、現代の落語家、特にこれから評価・知名度を上げていくであろう若手はこうあるべきなのではないかと思う。落語を含め、能・歌舞伎・文楽といった古典芸能の問題点は、それを知らない人が目にする機会が少ない、ということである。落語といっても、笑点大喜利は見たことがあっても、いわゆる落語を通して聴いたことがない人は多いであろう。その他の古典芸能はなおさらだ。

 近年、能楽界では狂言方野村萬斎さん、歌舞伎界では片岡愛之助さんや市川右團次さん、そして落語界でも立川談春さん、春風亭昇太さんを、テレビドラマやバラエティー番組で姿を目にする機会がたくさんある。これはこれで、とてもよいことである。しかし、一方でこれにより、野村萬斎という一人の人間の名前は売れても、もう一歩、彼がやっている狂言とはどんなものだろう、と踏み込むステップが、(能楽の普及のためには、)必要となる。

 その点、太遊師の取り組みは進んでいる。ネオラクゴと称して(新作落語とさえも一線を引き)、落語そのものを、新しい形(ひょっとすると、古典よりも現代人に分かりやすい形)に、変換してしまう。その上でその古くからある落語の技を使って新しく産み出した芸そのものを、自らやその支持者により、YouTube等で公開することで、月亭太遊その人に加えて、その芸さえも無料で誰にでも閲覧可能にしてしまう。

 しかし、映像とライブは絶対違う。特に落語は、その日の会場の空気感も含めてのネタである。だから、YouTubeで己を知った人が必ず自らの支持者になって、ネタを聴きにやってくる、きっと太遊師にはそういう自信があるのであろう。

 そして彼の口演を聴き、それだけの、金と時間をかけて聴きに行く価値のある芸だと、私は確信している。

月亭太遊SNS等 

twitter.com

note.mu

www.youtube.com

月亭太遊師の次回の関東でのご出演は、以下の多摩センター近傍で行われるイベントNEWTOWNでの、落語てびらき(9/20)だそうです。

newtown.site

●今回のネオラクゴ・シルクロードの会場、錦糸町シルクロードカフェです。

Silkroad Cafe‐シルクロードカフェ
〒130-0012 東京都墨田区太平3-2-8
2,000円(平均)1,000円(ランチ平均)

●ネオラクゴ・シルクロードの模様


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