哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

風邪のこと

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■風邪のこと
philosophie.hatenablog.com

  風邪を引きました。ということで、書き始めた先週の記事である。「かぜをひく」と言うが、「ひく」は「引く」で合っているのか、ふと気になってしまって調べてみたところ、「風邪をひく」とは、人間に悪い影響を与える邪気を運ぶ風を身体の中に引き込んでしまうこと、という意味であるらしく、漢字で表記するなら「引く」で合っているらしい。

●風邪のこと

 風邪を引きました。それはつまり、先週から完全には状況が変化(良化)していない、ということである。今回、高熱は出ておらず、ねばねばした鼻水と、中途半端に登場する咳に苦しめられている一週間である。先週の金曜日(11月22日)の夜であるが、仕事帰りに多少悪寒を感じたことを覚えている。翌土曜日は、とはいえなんともなかったので、予定していた外出をして、しかしこの日は朝から冷たい雨が降っており、その中で出かけたことが良くなかったのか、悪寒の気がより一層強まった。そして、明けて日曜日、9時に美容院を予約していたのだが、起きたら9時半だった。ベッドの上から謝罪の電話をして、11時に予約を取り直して、起き上がったら鼻水が、ひゅーららと垂れた。風邪である。鼻水、鼻づまりの影響で、寝ている間、口呼吸をしていたのか、喉も痛い。とりあえず、マスク着用で美容院に行ったが、鼻水が垂れてくる。困った。そして美容院まで行って、帰ってきて、想像以上に自分が風邪であることがはっきりしたので、その日はその後の予定をすべてキャンセルして、寝ることに努めた。私は常日頃から、寝ることに努めているが、より一層、寝るに努めた。

 翌日の月曜日は仕事の予定であったが、休みを取って病院に行った。身体が重く、また鼻水と喉の痛みが相変わらずで、新たに咳も出ていたが、熱はなかった。とはいえ、時期が時期だけに、仕事を休んで静養に励みつつ、インフルエンザでないことを医師に問いただす必要があった。インフルエンザではなかった。今にして思うと、インフルエンザであれば、大手を振って自分のベッドに引きこもって有意義な一週間をすごせたのであるが、そう世間は甘くなかった。非インフルエンザ罹患者の烙印を押された私は、火曜日から普段通りに勤めに出た。マスクをして、薬を飲みながら働いた。

 そう、この世界はいつの間に、こんな風になってしまったのだろう。東京が江戸と呼ばれていた時代、人々はもっとおおらかであった。仕事は休み休みであったし、体調に異変があれば、一日ゴロゴロしていることもできた。そうした判断を、労働者が自分の責任で下すことができたし、仮にそれで、生活の糧が尽きたとしても、隣近所から食事を分けてもらうことができた。今思えば非常に平和な時代であった。

 その後、世界の二極化が進んだ。そう、きっかけはインフルエンザ罹患者の出現である。インフルエンザ罹患者は神に近い存在として崇め奉られ、仕切りをした寝室が設えられ、優遇された。インフルエンザに罹患している間はその体内に神を内包していると考えられ、その神の息吹の気高さが、身体に収まりきらずに外にあふれ出る時に、高熱を発する、とされた。対照的に非インフルエンザ罹患者、大多数の一般平民は劣等人種と見なされ、ちょっとやそっとの体調不良で、仕事の手を休めることは、死を意味するようになった。1%のインフルエンザ罹患者はますます特権を行使し、99%の非インフルエンザ罹患者はマスクで己の苦悩を隠し、薬を打って心と身体の痛みに蓋をしながら、インフルエンザ罹患者が貪るための富を生産するようになった。

 そんな非インフルエンザ罹患者にはめられた枷から解き放たれたい、その一心で私はインフルエンザ罹患者を目指した。インフルエンザに罹患するためには、身体の免疫力を下げて、しかる後に、インフルエンザのウイルスを体内に取り込むことである。考えてみてほしい、自身の免疫力、つまり心の壁を取っ払うことは、ATフィールドを放棄し、自他を隔てるものを無くすこと。ウイルスの注入とは多様性を持ったホモサピエンスに、インフルエンザ罹患者という均質な特徴を付与すること。この世は自分と他人との境があって、さらにそこに優劣が存在するから争いが起こるのであって、自他境界が取り払われ、全人類がインフルエンザ罹患者として均質化された場合、そこには完璧なる調和が訪れ、安定した平和な世界が誕生するはずである。その人類補完計画の第一歩として、自らがインフルエンザ罹患者というニュータイプに進むために、昨日(11月30日(土))、趣味の乗馬に行った。

 御殿場は快晴で、富士山が大きく見えた。約30分×2鞍騎乗した。前回乗ったのは2月ころだから、半年以上ぶりの乗馬である。自宅のある千葉市から、御殿場まで、新宿でロマンスカーふじさん号)に乗り換えて、トータル3時間程度で到着するので、まあ快適である。駅から徒歩15分ほどのこの乗馬クラブは、おおらかな馬が多く、銜を操作すると嫌がる馬が多いので、リラックスしながら騎乗して、自身の脚の使い方を中心に練習した。お陰でいまだ、鼻水と咳は止まらないが、鞍で擦れた尻の痛みと全身の筋肉痛で、風邪の諸症状がどうでもよくなった。残念ながら、インフルエンザに罹患した様子はない。明日(12月2日(月))もまた、私は勤めに出る予定である。