哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

東北・船弁慶のこと

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 先日、矢来能楽堂で行われた円満井会定例能を拝見した。その時の演目について、思ったことと学んだことを記す。(注連縄が張ってありました、お正月だからでしょう)

■東北のこと

 すべで津軽弁で上演される、珍すいお能。東北地方出身の僧がいわぐありげな梅ば眺めでらど……。(参考:恋する方言変換 | BEPPERちゃんねる )閑話休題。このタイトルは決して東北地方のことを言っているわけではなく、そもそも”とうほく”ではなくて”とうぼく”と読む。平安京の東北(陰陽道の鬼門の方角)に置かれた東北院(上東門院)というお寺に咲く名梅と和泉式部に纏わる曲。

  • 逆縁の御利益:わからない。調べると逆縁とは悪行が却って仏門に入るきっかけになることや、敵同士が弔うこと等の意味であるようだが、能ドットコムのストーリーペーパーでは、ささやかなご縁、程度に訳されている。と言うか、これ全部能ドットコムを読んで解決でいいような気がしてきた。ネット、便利。ところで、亡夫の兄弟(亡妻の姉妹)と結婚することを逆縁婚(レビレート婚/ソロレート婚)と言うらしい。一番興奮する奴だ!
  • 臥所:ふしど。寝所。
  • 久方の:枕詞。「天 (あめ・あま) 」「空」「月」「雲」「雨」「光」「夜」「都」などにかかる。
  • 天霧る:雲や霧で空が雲ること。
  • げに:なるほど。いかにも。本当に。
  • 道芝:道端の芝草。
  • そも:いったい。そもそも。それにしても。
  • 夕紅:夕方の空が紅色に染まること。
  • 読誦:どくじゅ。御経等を声に出して読むこと。
  • 譬喩品:法華経の教えをわかりやすく伝えるための七つの例え(法華七喩)のことで、「三車火宅の譬え」が有名。燃えているマイホームの中で火事のことを知らずに遊ぶ息子に対して、ヴィッツとパッソとファンカーゴをやるぞと叫んで息子を呼び出し、出てきた息子に対してミニクーパーを与える、みたいな話。より簡単な教えをその人のレベルに応じて使い分けて、でもより良い教え(法華経)はその全てを網羅しているぜ、的な例え話だそう。
  • 御堂関白:藤原道長
  • 妙文:霊妙な経典。すぐれた文章。
  • 冥感:冥応(知らないうちに神仏が感応して加護や利益を得ること)と同意。

船弁慶のこと

 私は何の因果か、金春流船弁慶を生で見るのが三度目(内、一度は半能)である。そんなの大したことないよ、と言うご意見もあろうが、今記録を確認すると、私が能を見始めたのはこの一、二年で、これまで二十演目程度しか、生で観た能(半能含む)がない中での三つが、である。ちなみに20分の3が船弁慶、同じく20分の3が羽衣(観世流二度、金春流一度)である。別に好きだからこんなに船弁慶ばかり見たわけではないのだけれど、でも、船弁慶は動きが多くて好きな曲である。

 話は飛ぶが、この船弁慶の作者は世阿弥の甥音阿弥の第七子である観世小次郎信光だそうである。調べていたら、能の屈指の大曲、道成寺の下となった鐘巻の作者でもあるそうで、道成寺もやはり私は好きである。ウィキペディアによると、時代背景もあって、彼が華やかな作品を多く残したことが記されており、能にもそういった作家性であったりスタイルがあり、作者に注目してみると面白そうだな、と感じた次第である。(参考:観世信光 - Wikipedia )

  • 西塔:比叡山延暦寺西塔のこと。
  • 大物の浦:兵庫県尼崎市の淀川旧河口の港。義経屋島の戦いに出兵した地。
  • 雲居:雲がなびいてかかっているところ。高く遠いところ。宮中。
  • 石清水:言わす、と掛かっている? 源氏の氏神石清水八幡宮だそう。
  • 潮:うしお。憂しと掛かっている。
  • さん候:さようでございます。
  •  諚:おおせ。
  • 事々し:大げさである。
  • 木綿四手:ゆうしで。木綿(ゆう)で作った̪四手(紙垂)。紙垂とは注連縄や玉串、祓串、御幣などにつけて垂らす、特殊な断ち方をして折った紙。
  • 武庫山颪:むこやまおろし。
  • 知盛:清盛の四男。壇ノ浦にて自害。

■ところで舞台の感想であるが……

 私は鬘物が苦手なのでは、ということが、観能中に起きた私のとある生理現象によって発覚した。今回は事前に勉強する時間がなく、舞台を観終えてから、こうして詞章を紐解いてみているのだが、なかなか逐語訳をしていって、曲の全体を理解することが難しい、と言うのを感じた。途中、枕詞や掛詞が多く、単語の意味を理解するだけでは、それを今の日本語に変換するのに不十分だからだ。そういうわけで、和泉式部にはもう少し動いていただきたい……。その点、船弁慶の、特に後場の知盛はかっこよく、そして調伏された後の、お手上げの状態でくるくる回る動きがコミカルだ。武将の亡霊であるのに、可愛らしくさえある。

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