■続々々・最近見たもののこと
今年、2020年は1月下旬より、新型コロナウィルスの世界への蔓延が始まり、現在も世界中でこの感染拡大の終息の目途が付かない。日本でも政府・各地方自治体が住民に対して外出自粛を訴える異常事態である。
感染拡大を防ぐという名目で、多くのコンサートや演劇等のイベントや美術館の展示等が、開催中止や延期となる中で、それらの出演者が無観客で上演したものをライブ配信したり、Youtube等でミニライブを配信したりと、活動している。こうした自宅やその周辺以外から動けないとき、現代は便利な世の中になったと思う。ネット環境さえあれば無料で視聴できるYoutubeないしSNS等で、そうしたミュージシャンたちの配信を見ることができるし、アマゾンプライムビデオのように、比較的安価に過去の映画をネット経由で視聴できるサービスもある。もちろん本を読む、CDを聴くと言った、昔からある自宅でのすごし方もあるが、それ以外にも選択肢が広がっているのは、良いことである。
私も先々週・先週と不要不急の外出を控える中で、多くの時間を自宅ですごすことになったので、これらの動画配信サービスを使って、下記の映画などの動画を拝見した。ここにその感想を記すものである。
●ID : INVADED
舞城王太郎原作による全13話のアニメである。アマプラで拝見した。舞城というと、10年程前に、私がまだ大学の文学部で文学青年をやっていたとき、私の書いた小説を読んだゼミの同窓が、舞城の『好き好き大好き超愛してる』に似ていると指摘してくれ、確かにそれはそうであったのだけれど、ともかくそれ以来舞城にハマってよく読んでいた。そんな舞城作品に触れるのはなかなかに久しぶりであったが、本作はとても面白かった。
舞城は名探偵が登場するミステリーという世界観を使って、全然別の主題を語ることや、またその物語世界の中にもう一つ以上の物語世界を作って、各世界の構造がどうなっているのかよくわからなくさせる書き方が上手いと記憶している。それは『九十九十九』で強く抱いた印象であるので、舞城の特徴なのか、同書が清涼院流水のJDCシリーズのスピンオフ故かは不明であるが。とはいえ、一つの作品が一つの世界観に収まらないというのは、『好き好き……』や『阿修羅ガール』でも同様であったはずなので、舞城自身がそうした傾向の持ち主であることは事実であろう。（それらの舞城作品を読んでいたのが前述の通り10年程前のことなので、間違いがあったらご指摘ください）
本作はそうした彼（女）の世界がうまく映像化されテンポよく表現されていたので、とても懐かしく、面白く感じた次第である。
主人公鳴瓢秋人は名探偵酒井戸として、犯罪者の殺意が作り出す異世界イドに入り、（現実世界の鳴瓢秋人としての記憶は全て忘れて、）どの井戸でも必ず死んでいて、彼に酒井戸という名前と名探偵という職業を思い出させるカエルちゃんの死の謎を解く。そこには名探偵と名付けた以上彼は名探偵であり、名探偵が登場するからこれはミステリーである、という確固たる信念が感じられ、（いわゆる、本格）ミステリーで展開される名探偵による（まっとうな）謎解きを期待しても、そんなものは欠片も提供されず、ミステリーの枠を借りた別の物語を見せられることになる（この点はアニメの後半で、名探偵が同一世界に複数人登場することになった際、作中人物自身が矛盾（二人の名探偵の内必ず一人は、名探偵でありながら、推理を間違えざるをえないこと）を指摘するシーンがあり、この物語が（いわゆる、本格）ミステリーではありえないという主張がなされる）。
JIGSAWED バラバラの世界
JIGSAWED II バラバラの世界
SNIPED 滝の世界
EXTENDED 燃えさかるビルの世界
FALLEN 落ちる世界
CIRCLED 円環の世界
THUNDERBOLTED 雷の世界
DESERTIFIED 砂の世界
INSIDE-OUTED
INSIDE-OUTED II
STORMED
CHANNELED
CHANNELED II
各話のサブタイトルは上記の通りである。英単語の過去分詞（受動の意）がつけられており、これはそれぞれその物語で酒井戸やその他の名探偵が潜るイドの世界を象徴している。例えば第一話はいきなり酒井戸が穴空きのイドに潜っているところから始まるが、そこはジグソーパズルのように、家や土地がバラバラになった世界であった。
このアニメは一回通して観ただけでは、分からないところが多い。例えばアニメで登場する機器（システム）にミズハノメとワクムスビと言うものがあるが、これはざっとWeb検索をすると『古事記』においてイザナミがカグツチを生んで陰部を火傷した際に尿から生まれた神であるそうだが、そこからとったネーミングと言うのが、どのような繋がりがあるのか、検討したい。
また墓堀りに纏わって登場する井波七星という女性、彼女は普通であるようで相当ゆがんだ愛情・思考の持ち主であり、その謎の一端はCIRCLEDの彼女のイドで明らかにされるわけなのだけれど、アニメの最終盤にも登場して謎の行動をとる。ああいうの、私は理解できないから、あれ要るかあ、と思ってしまうのだけれど、要るんだろうな、きっと。
物語ががぜん面白くなるのは、INSIDE-OUTEDあたりからである、これは押井守の映画「アヴァロン」で、主人公がゲームをクリアした先の裏ステージに進んだ世界を見た時の衝撃に、似ている。後は物語全体通して、なんか赤い液体の描写とか、イドに入るためのコックピットとか、エヴァにも似た雰囲気を感じるところがあるが、こちらの方がアニメとしてきちんと完結している点で、エヴァより、個人的には良作に思われる。アニメ後半のシリアスになりがちなシーンで、名探偵穴井戸というのを活躍させ、彼のキャラを活かしているのも良い。
とりあえず、もう一回、観たい。それくらい良いアニメでじっくり考えたい作品であるし、またその他の舞城の作品も、再読したい気持ちになった。
●翔んで埼玉
埼玉県出身の知人が一時期、埼玉ポーズがどうとか、コロナで首都封鎖がささやかれ始めて時に、通行手形がどうとか、埼玉が感染るとか、はしゃいでおりアマプラでその元ネタである「翔んで埼玉」を拝見した次第である。
埼玉を中心に、東京・千葉・茨城・群馬・神奈川等の関東地方各県の小ネタがちりばめられた、凄い作品である。その知人は埼玉県内の映画館で本作を観たようで、場内が沸いており楽しかったと言っていた。
物語はある埼玉在住の一家が娘の結納のために車を走らせ、そのカーラジオで流れてきた伝説として、本編が進行する。GACKT演じる麗が、白鵬堂学院へ転校してきたことから始まる。同校は都知事への近道とされる官僚養成学校であり、現都知事の”息子”である百美（二階堂ふみ）が生徒会長を務めている。都会指数と言われる、どれだけ都会で生活しているかの数値が重要視される世界で、東京都に入るために、埼玉県人や千葉県人は、通行手形が必要であるなど、差別の対象とされている。
非常に壮大なスケールの物語を、海なし埼玉県などの小ネタで繋ぎ、最後上手く大団円を迎える、そんな作品。関東の埼玉および周辺各都県の立ち位置が分かる人には、ただただ面白い。
●月亭太遊のおはなしの館「ムーンパレス」へようこそ
最期に紹介するのは、Youtube上で、「事態が終息するまで自宅で毎日新作落語をネタおろし続ける男」と称して、毎日新作落語のネタを作って口演する、落語家（ネオラクゴ家）月亭太遊である。
彼は大分県出身で、お笑い芸人として活動した後、上方落語家の月亭遊方に師事、原則的に新作（本人曰くネオラクゴ）しかやらない落語家として活動している。
こうした事態になる以前から彼はYouTubeでの活動（ネタの公開等）を積極的に行っており、また彼の主催の舞台は写真撮影・録画・録音OKで、どんどんSNS等にアップしてくださいと言う、独自のスタイルを持っていらっしゃった。
今回のこのコロナによる外出自粛を受けた一連のネタにも、まさにYouTuberを題材にしたものであったり、ご自身の趣味であるRPG（彼はこのところテーブルトークRPGにも熱心に取り組んでいるようである）のキャラクターを使ったものなど、これまで落語で取り上げていなかったものを扱っている。
自宅でやることがない人や、これまで落語を聴いたことがなく落語のスタイル（ネタのテーマは奇抜であるが、噺家が一人で左右を見（上下を切り）ながら、対話を進める落語の様式はきちんと守られている）を観てみたいという人は、是非オススメのチャンネルであるため、是非ともチェックされたい。
■ちょっと関連
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