哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

スーパー歌舞伎Ⅱ「新版オグリ」のこと

【紹介している動画の公開期間の関係で4/19 22:00分の記事を先行して公開しております】


【南座】スーパー歌舞伎Ⅱ『新版 オグリ』好評発売中!
4月13日(月)16:00から、南座 スーパー歌舞伎II(セカンド)『新版 オグリ』舞台収録映像の無料配信が始まります。

■詳細
松竹チャンネル、南座 スーパー歌舞伎II(セカンド)『新版 オグリ』舞台収録映像を本日より公開|歌舞伎美人

■配信期間
2020年4月13日(月)16:00~19日(日)23:59:59

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   (画像は2015年4月の南座京都市))

スーパー歌舞伎Ⅱ「新版オグリ」のこと

 終わりの見えない新型コロナウィルスの感染拡大を受け、2020年4月7日には政府による緊急事態宣言が発令された。私自身も仕事が在宅勤務に切り替わり、家ですごす時間が増えている。各地で予定されていた舞台公演等のイベントも続々と中止や延期が決定しており、その分、そうした中止イベントの無観客収録映像や、過去の公演記録映像をインターネット上で視聴できるよう、劇場や主催者は努力をしているし、こうして家ですごすことが増えた今だからこそ、普段触れることのない芸能に触れる良い機会であると、私自身は楽しむことができている。 中でも松竹が4/13~4/19の期間限定でYoutubeにて公開している、3月に京都南座で開催予定であったスーパー歌舞伎Ⅱ「新版オグリ」、がとてもよかったのでここに感想を記す。

 そもそもスーパー歌舞伎とは、1986年に三代目市川猿之助(現猿翁、香川照之の父)が始めた、歌舞伎の古典的な演出を離れて派手な動きやセットを使い、現代人にも平易に伝わりやすい題材を脚本化し、また多ジャンルの要素・出演者を取り入れた現代版の歌舞伎である。2014年からは四代目市川猿之助(先代の甥)が引継ぎ、スーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)として取り組んでおり、2015年に漫画ワンピースを題材として上演したことは、記憶に新しい。

 この新版オグリはワンピースに続いて、1991年に先代が梅原猛とともに作り上げた「オグリ・小栗判官」を当代がリメイクしたものである。

 そもそも小栗判官とは、伝説上の人物であり、常陸国茨城県)小栗城主、小栗満重・助重らがモデルと言われているそうであるが、とにかく神奈川県の各地に様々なバリエーションをもって伝わる伝説では、妻の照手姫の親(親族)である横山太郎らに(毒で)殺されたオグリ(藤原正清)が、地獄の閻魔大王の計らいで蘇るが、その姿は餓鬼阿弥(辞書では「餓鬼のようにやせおとろえ、耳鼻も欠け落ちて生気のない者」とある。癩病ハンセン病)のイメージで観ていたが、必ずしもそうではないらしい。土葬されたオグリの腐りかけの身体に魂を戻したとも)であり、遊行上人(時宗のトップ、開祖一遍のことかと思って観ていたが、十四代太空とも)により助け出され、車に乗せられて多くの人に(妻照手が身を落とした女中小萩にも)引かれて熊野に行き、湯治を行うことで復活し、照手と再会する(そして、(本作では描かれないが、)横山一門へ復讐をする)等と語られている。

 基本的には仏教(熊野を聖地としていたという時宗)万歳の物語であり、時宗総本山清浄光寺遊行寺)のある藤沢市や、それと並ぶ時宗寺院である無量光寺のある相模原市に多く伝説が残るようであり、それらの伝説をもとにした説教節が有名であるとのこと。

 そんなわけで本作の物語としては、一度殺された小栗判官が多くの人の手を借りて何とか復活することで、自分の無力さや他人を幸せにすることの大切さを学んでいき、大団円を迎える点が主題であり、特に車引きの中で、女中小萩や巡礼の老人が引いている際に、野盗らに襲われるシーンはハラハラするし、武士や貴族でない、力のない庶民たちの物語ということが感じられて良い。オグリや彼を助ける人々も力のない庶民であり、同時に彼らを弄る欲にまみれた盗賊達も、結局はその世界の下層で生きる力のない者たちであり、そこから超越した場所にいたはずのオグリがそうした下層をうごうごしている、と言うのは、なんとも感情を揺さぶられる。

 また、この作品で凄いのは、なんといってもその舞台装置等の演出。台詞は原則的に現在の日本語で分かりやすいし、背景は鏡や映像をふんだんに使って目を引く。メインテーマの音楽が決まっていて繰り返し流されるのだけれど、それもどこか懐かしく、異国情緒を感じさせる、良い曲である。途中、オグリが鬼鹿毛という暴れ馬を乗りこなすがその馬のぎんぎらに輝いた馬体はかっちょいいし、オグリとテルテが宙乗りする際の天馬も良い。テルテが月をバックに川に流されるシーンや、地獄でのオグリ党と閻魔大王の戦闘シーンも、そして最後の歓喜のシーンも、どれもこれも見ごたえのある、派手な作品であった。

 恐らく歌舞伎の見得等に代表される、一瞬一瞬のかっちょよさや見栄え、そうした歌舞伎のエッセンスを、現代の技術でやったらこうなる、歌舞伎の形を古典として受け継ぐのではなく、魂を引き継いでモノとしては新たに作り上げる、と言うのがスーパー歌舞伎なのでしょう。

 この機会に、是非ご覧下さい。

原作  梅原 猛
脚本  横内謙介
演出  市川猿之助
演出  杉原邦生
スーパーバイザー  市川猿翁
スーパー歌舞伎II(セカンド)  新版 オグリ
   

藤原正清 後に

小栗判官/遊行上人

市川 猿之助(交互出演)

藤原正清 後に

小栗判官/遊行上人

中村 隼人(交互出演)
照手姫 坂東 新悟
小栗一郎 中村 鷹之資
小栗二郎/山賊 市川 男寅
小栗三郎 市川 笑也
小栗四郎/山賊 中村 福之助
小栗五郎 市川 猿弥
小栗六郎/あかね 中村 玉太郎
升岡兵衛/銀鬼大将/商人 市川 弘太郎
ひば爺 市川 寿猿
大納言の妻/閻魔夫人 市川 笑三郎
横山修理太夫/長殿 市川 男女蔵
鬼王 大谷 桂三
鷹乃/薬師如来 市川 門之助
   
石橋 正次
お福/女郎屋女将 下村 青
鬼次/赤鬼中将/女郎千早 石黒 英雄
横山家継/鬼頭長官 髙橋 洋
高倉久麿/黒姫/女郎蒲公英 嘉島 典俊
閻魔大王 浅野 和之

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