哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

2020年6月の読書のこと「ヒットの設計図 ポケモンGOからトランプ現象まで」

■ヒットの設計図 ポケモンGOからトランプ現象まで(デレク・トンプソン/早川書房)のこと

 なぜヒットするのか、ということについて、目新しく、しかし、馴染みがあるものがいいよね、と言った趣旨で、様々なジャンルの事例を紹介しながら、説明してくれる書籍。

 例えば レイモンド・ローウィ のMAYA(Most Advanced Yet Acceptable)について「「思い切ったデザインでありながら、すぐに理解できるような製品に人は惹きつけられる」ということだ。~この考え方は、それ以来100年の間、多くの研究によって実証されてきた。~この状態は「美的アハ」と呼ばれる」(p64、人気と心理)と記している。

 こうしたヒットに対する考え方に対して、複数の具体例をあげながら理論を説明してくれるので、分かりやすいが反面、情報量が膨大過ぎて、この本を通して何が主張されているのが、私の脳の容量では把握しきれなかった。そのため、断片的に関心を持ったところを紹介するにとどめようと思う。

 「キング・フィーチャーズ・シンジケート社が「ジョン・カーター」の版権を買い取ろうとしたが、バローズはそれを拒絶した。それで~独自に作り出した。それが「フラッシュ・ゴードン」である。それから数十年後、ジョージ・ルーカスが、「フラッシュ・ゴードン」の映画化権を買おうとして拒否され、その結果「スター・ウォーズ」が生まれた。~黒澤の「隠し砦の三悪人もまた、~黒澤の別の映画「虎の尾を踏む男達」を大まかに土台に~その映画は、有名な19世紀の歌舞伎の演目「勧進帳」を下敷きに~「勧進帳」はさらに古い能の演目「安宅」を、歌舞伎にアレンジ~「安宅」の登場人物は、源義経~に関する語り伝えから~もし「スター・ウォーズ」が黒澤映画の子どもであるなら、それは日本神話の、ひい、ひい、ひい、ひい孫である。」(p148、人気と心理)ここでは、ヒット作から要素を借りてきて次のヒット作を生み出すことを説明していて、ジョージ・ルーカスの「スター・ウォーズ」を題材にしている。同氏が黒澤映画の影響を受けていることは知っていたが、それを遡っていくと、歌舞伎や能と言った、日本の伝統芸のにたどり着く、ということは考えたこともなかったので、感心したのである。また、同じく同作が「フラッシュ・ゴードン」の影響を受けているというのは全く知らなかった。「フラッシュ・ゴードン」については、私はそもそもどんな作品なのか存じていないが、映画化に際して、あのクイーンが音楽を担当したことは知っている。クイーンのベスト盤を聴いていて、一番スキップしたくなる曲だ。

【参考】 能・演目事典:安宅:あらすじ・みどころ

 「話者は会話の中で平均2ミリ秒の沈黙があると、自分が口を開いていいと感じるという。この「理想的な空白」の認識は、イタリア語~日本語~などの社会で調査したところ、すべて同じだったそうだ。」(p285、SNSと虚栄心)幕間の脱線の中で記されていたこの話に、私は関心を抱いた。2ミリ秒はほんのわずかな時間だ。1秒の1000分の2ということであろう。私は特に複数人で話している時、自分が発言するタイミングが見つからずに、困惑することがしばしばある。それもそのはずであろう。人々はこんな短時間で、自分が発言してよいと判断しているのだから。私には到底無理である。

 「フェイスブックは10億通りの紙面」(p332、人気と市場)こういう考え方をしたことはなかった。なるほどと思う。新聞はそれを購読する人は皆、同じ紙面を見る。その新聞の購読者の最大公約数に向けたニュースや娯楽、広告を目にする。その紙面の編集方針を、細分化していき、ついに個人個人に対して最適な、関心を持ちやすいであろう話題や広告を表示するのが、フェイスブックのニュースフィードなのか。なるほどである。それ故に、本書ではフェイスブックについて、「ソーシャル(1対少数)」でもあり、「ブロードキャスト(1対多数)」でもあると論じている。「2013年に、 マーク・ザッカーバーグ も、同じようなことを語っている。「目標は、10億(以上)の読者に対して、完全に各人の好みに合った新聞を作ることだ」(メディアの100年史)

 「「規模のパラドックス」という言葉があるが、これは大ヒット作品の多くが、明確に定義された小集団を対象に作られたものであることが多いということだ。」(p354、人気と市場)つまりスター・ウォーズは子どもを、フェイスブックはハーバードの学生たちを、ブラームスの子守歌は一人の女性をターゲットとした。「狭く対象を絞った作品のほうがかえって大きな成功につながることが多いが、それはおそらく、的を絞ることによって作品の質が高いものになり、ネットワークの質もいいからだろう」(同上)とある。これは例えば、このブログもそうなのかもしれない。私はこれまで、あまりこのブログの読者層を想定せずに、書きたいことを書いてきたが、本当はきちんとどんな人に読んでもらうのかを意識しながら書いた方が、結果として広くの人に関心を持たれやすいのではないか、と思った。

 その他にも多くのヒットの裏側が、具体的に描かれれている。ルノワールやモネ等の印象派のヒットの裏側にいたギュスターヴ・カイユボットの話や、ビル・ヘイリー・アンド・ヒズ・コメッツの「ロック・アラウンド・ザ・クロック」がヒットに至る奇跡等が。ヒットについてはもちろん、こうすれば必ずヒットするという法則はない。ヒットになりうる質の作品がたくさんある中で、それがヒットするかどうかは、「新しいもの好き」と「新しいもの恐怖」の間の力関係であったり、発信者のネットワークであったりで決まる。つまりどうすればいいのか。

 

 それはよくわからないけれど今後このブログは、清純派の女子高生をターゲットにしよう。

 

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