哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

フェンシングのこと

東京2020 オリンピック・パラリンピックに寄せて

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 2020年(令和2年)7月24日(金)東京は千駄ヶ谷の新国立競技場では、華々しくオリンピックの開会式が行われた。狂言師野村萬斎さんのプロデュースによる日本の伝統芸能とマンガ・アニメといった新しい日本文化を融合し、最新の映像技術も交えながら一つの舞台に表現したパフォーマンスには、先日来、華々しく襲名披露興行を行っていた、十三代目市川團十郎(旧名:市川海老蔵)ら多くの著名人が出演し、各国から来日した人々は日本の贅を尽くしたおもてなしに、肩を組みながら大いに楽しんだようである。私は自宅のテレビの前で、釘付けになってこの開会式の模様を観ていた。

 そんな熱狂の開会式の夜から1週間程が過ぎた8月1日(土)夜、私は千葉県千葉市にある幕張メッセBホールにいた。フェンシングのフルーレ男子団体の決勝を観戦するためである。私はこのオリンピックに開催の1年以上前から始まったチケット申し込みにおいて、メイン会場で行われる陸上や、趣味で乗馬をやっていることから世田谷区の馬事公苑で行われる馬術を中心に申し込みをしていたが、唯一当選したのが、地元千葉市での開催だからという理由で登録したフェンシング(B席1名6,500円)であった。フェンシングというスポーツが西洋騎士の決闘の様なものだということは知っていたが、ルールも何も知らない私は、事前に多数のフェンシング大会を観戦し、この日をとても楽しみにしていた。

 自国での夏のオリンピック開催は、恐らく一生に一度、あるかないかの大イベントである。アジアで初のオリンピックとして東京で一度目のオリンピックが開かれたのが1964年であり、2020年の今回は56年ぶり、次はないかもしれないのだ。

 そんな私にとって初めてのオリンピック観戦は期待通り、大興奮であった。防具に身を包んだ選手たちからは、見ているこちらにも異常なまでの熱、闘志が伝わってきて、探り合うように触れ合った剣先が、瞬きをするほどの間に、きらめきながら相手の体をとらえる様は、野生動物の狩りを見るような、かっこよいものであった。恐れていたルールに対する理解不足も、予習したことも助かり、また電光掲示板で有効打等を逐一教えてくれるので、存分にオリンピックの感動を楽しむことができた。

■フェンシングのこと

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 という、記事を書くつもりでいたのだが、その願いは叶わなかった。2019年末から今年にかけての新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大を受けて、市川海老蔵さんの團十郎襲名とそれに伴う披露興行は延期となったし、2020年3月24日(火)に日本の安倍晋三内閣総理大臣国際オリンピック委員会IOC)のバッハ会長との電話会談により、東京大会の延期(2021年7月開催)が決定した。同感染症は現在(2020年8月2日(日))もまったく終息の気配を見せず、延期したオリンピックが本当に行われるのかは謎であるが、今回はフェンシングについて書こうと思う。

●フェンシングの歴史

 フェンシングとは西洋の騎士たちの剣術が元になっており、これは火器の発達により次第に実用性が薄れたが、上流階級の間で嗜みとして行われていたそうだ。この辺りは江戸期の武士が型としての剣術の稽古に励んでいたこと、その伝統が現代の剣道に脈々と受け継がれていることに似ているかもしれない。

●フェンシングのルール

 原則的には種目ごとに定められている有効面を、攻撃(剣で突く等)することでポイントを獲得して勝敗を決める。フルーレ、エペ、サーブルの三つの種目では有効面が異なる他、剣の種類や攻撃権の有無等のルールの違いがある。
 例えばフルーレは軽い剣を使用し、攻撃は突きのみ、有効面は四肢や頭部を除いた、胴の両面である。先に攻撃したほうに攻撃権があるので、防御側はまず自分の身を守り、パラード(相手の剣をはらうことを)して攻撃権を奪ってから、反撃する必要がある。

●フェンシングの選手

 2008年の北京オリンピックで男子フルーレ個人銀メダル、2012年のロンドンオリンピックで男子フルーレ団体銀メダルの活躍を残し、現役引退後は日本フェンシング協会会長を務める太田雄貴さんが有名。他に2016年リオデジャネイロオリンピック男子エペ個人6位入賞の見延和靖さんや、2018年ワールドカップアルジェリア大会女子フルーレ2位の東晟良さん等がいる。

 今回、フェンシング選手について調べていて、私が抜群に面白く感じて興味を持ったのが、三宅諒さんである。ピスト(フェンシングの試合場)の上の哲学者の名前の通り、大学在学中は哲学を学んでいたそうで、三宅 諒の履歴書 - YouTubeを拝見するに、音楽やアニメ・ゲーム等、興味の幅の広い方である。
 彼もまたロンドンオリンピック男子フルーレ団体準優勝時のメンバーであるので、オリンピックメダリストであるのだが、コロナ以後、大会がない中、どんなに頑張っても優勝することができないから、その状況でスポンサーからの支援を受けるのは自分にとって負担と考え、支援を保留してUber Eatsでアルバイトをして、トレーニングも兼ねて活動費を得ている、とのことである。
 無名の選手が、ではなく、世界で活躍している選手がこういうことをできる、というのは凄いことだと思うし、その背景についてもYoutubeでお話されていたが、マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を引きながらの説明で、とびぬけた発想をする方だなと、興味を抱いた次第である。

■ちょっと関連

philosophie.hatenablog.com fencing-jpn.jp