哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

敷設のこと③「贅沢な読書会 第四十六回」村山由佳×瀧井朝世

■「贅沢な読書会 第四十六回」村山由佳×瀧井朝世のこと

20201014_風よあらしよ
有楽町の三省堂で求めたサイン入りの『風よあらしよ』

「贅沢な読書会 第四十六回」村山由佳×瀧井朝世

課題図書の作家ご本人をお招きする「贅沢な読書会」。
第四十六回のゲストは『風よ あらしよ』 著者の村山由佳さん!
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▼詳細・ご予約はこちらから▼

http:// https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01zkm86z2f811.html

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新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、BUKATSUDO会場ではなく、 ビデオ通話アプリ「Zoom」を使用したオンライン開催(前後編/全2回)といたします。

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 一冊の本を通して、多くの人と触れ合うことのできる「読書会」。本を読んだ感想を語らうことは、それぞれの価値観や感性、さらには、これまでの人生を分かち合うこともできる貴重なひとときでもあります。 でも……。そんなにも濃密で素晴らしい時間を仲間と過ごし、共に語り合ったことが、作者本人に届いたら、もっと素敵だと思いませんか? そこでBUKATSUDOでは、「贅沢な読書会」をほぼ毎月開講中です。

 モデレーターにお迎えするのは、数々の雑誌やメディアで、作家インタビューや書評、対談企画などを担当されているフリーライターの瀧井朝世さん。 一冊の課題図書をめぐる「読書会」は、2回にわたって開かれます。
 前編は、モデレーターの瀧井朝世さんと参加者でのスタンダードな読書会。瀧井さんから作者の作風や、実際にインタビューされた話などを伺いながら、課題図書への理解をより深めるとともに、作者の方に質問したいことを皆で考える重要な回です。
 そして後編では、いよいよ課題図書の作者ご本人をお迎えし、読書会で語り合った話をもとに、瀧井さんと作者を囲んでのトークを楽しみます。

 「贅沢な読書会」46回目にお迎えするのは、小説家の村山由佳さん。 課題図書は、2020年9月に集英社より刊行された『風よ あらしよ』です。

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村山由佳『風よ あらしよ』(集英社) 明治・大正を駆け抜けた、アナキストで婦人解放運動家の伊藤野枝。 生涯で3人の男と〈結婚〉、7人の子を産み、関東大震災後に憲兵隊の甘粕正彦らの手により虐殺される――。その短くも熱情にあふれた人生が、野枝自身、そして2番目の夫でダダイスト辻潤、3番目の夫でかけがえのない同志・大杉栄、野枝を『青鞜』に招き入れた平塚らいてう、四角関係の果てに大杉を刺した神近市子らの眼差しを通して、鮮やかによみがえる。 村山由佳さん渾身の大作です!
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 日曜の昼間、本を通してかけがえのない仲間に、そして作家に出会うことのできる贅沢なオンラインでの2時間を、どうぞお楽しみ下さい。

【日時】 10月18日(日)14:00-16:00 瀧井朝世さんと参加者による読書会
    10月25日(日)14:00-16:00 村山由佳さんを囲んでの読書会
    ※両日程ともオンライン(ビデオ通話アプリ「Zoom」使用)開催です。
     音声・カメラを原則ONにしてご参加いただきます。
    ※村山由佳さんのご出演は10月25日(日)のみとなります。
    ※2日間セットでの講座です。両日参加できる方のみご応募ください。
【出演】 ・村山由佳(小説家) ・瀧井朝世(ライター)
【受講料】 全2回 5,000円(税込)
【定員】 12名

 

 初めて読書会なるものに参加したので、その感想を述べる。

●なぜ読書会なのか

 そもそもなぜ私が読書会に参加したのかという話である。私が本好き、読書好きということで、社交の場として読書会をと勧めてくれる人は何人かいて、つい最近も友人から、参加してみればという勧めはもらっていた。

 同時に、人と本にまつわる何か(書店経営なのか、文芸創作なのか、別の何かなのか)に携わりたいという気持ちをいだきつつ、本やネットで情報を見るにつけ、赤坂の「双子のライオン堂」さんをはじめ、多くのナウな独立系書店が読書会に手を染めていることを知った。

 そういうわけで、いずれは読書会への参加をと思い、調べている中で、私にとって大切な作家さんの一人である村山由佳さんの最新作である『風よあらしよ』を題材にした読書会があり、しかも作家本人と同席できるという、本当に「贅沢な読書会」の告知があり、参加を決意した次第である。

 村山さんについては、私は『楽園のしっぽ』(文藝春秋)というエッセイ集を15年程前に読んだのが、出会いだったと思う。表紙の写真の、窓の外から部屋の中を覗く馬が、当時から(今も)乗馬が趣味である私を呼んでいた。そのエッセイ集に描かれていたのは、村山さんと当時の(一人目の)旦那様が、鴨川で馬を飼い、猫や家畜に囲まれながら、活き活きと生活する様であり、村山さんは好きな作家の一人となった。またその後に読んだ、村山さんの出世作である『天使の卵』(集英社)に描かれる、若者の甘く切ない恋に衝撃を受けた高校生の私は、村山さんの母校である立教大学文学部への進学を決意し、同時に歳上の女医に惹かれる美大の浪人生である主人公という構図に影響され、歳上のお姉さん全般への仄かな憧れを募らせるようになったのであった。

 村山さんは白村山・黒村山と表されるように、ある時、作風ががらっと変わっている。私が高校生・大学生当時熱中したのは、若者の真っ直ぐな恋愛や青春を描いた、白村山の頃である(もっともこの当時から、年の差カップルという設定が多く、ただの若者の恋愛を描いていたわけではない)。一方で、この10年ほどは黒村山とされる作品が多かった。2009年に発表された『ダブル・ファンタジー』(文藝春秋)が契機とされるが、以来大人の男と女を題材としたムーディかつアダルティな話をよく書くようになる。

 村山さんご自身の離婚(今は三人目の旦那様と軽井沢にて幸せに暮らしている)、作風の転換があったことと、私自身が社会人になって生活が変わったこととが、重なったか、私はしばし村山作品を読まなくなった。私はこの問題作である『ダブル・ファンタジー』をまだ読んでいないし、以後の多数の作品の中で読んだものは、知人に勧められた『放蕩記』(集英社)と、馬術(エンデュランス)をテーマとした青春小説『天翔る』(講談社)、そして猫についてのエッセイである『猫がいなけりゃ息もできない』(ホーム社)のみであった。

 さて、そんな中で来たるべき読書会に向けて読み始めたのが、『風よあらしよ』(集英社)である。

●風よあらしよ(村山由佳/集英社)のこと

 人はこの単行本を紅い鈍器と呼んだ。寝ながらこの本を読んでいて、寝落ちして頭に落下した本で命を落とした善男善女が、後を立たないという。

 それくらい分厚い。はじめは自宅でのみ読んでいた私も、読めども読めども終わりの見えないネバーエンディングストーリーに痺れを切らし、この鈍器を持ち歩いて通勤中も読むようになった。それでも話は終わらない。650頁である。長い。長過ぎる。

 とはいえ、長くて辛かったというわけではない。この作品は伊藤野枝の評伝小説であり、基本的には伊藤野枝に関する資料・史実を元に構成されている。こんなに熱意に溢れた一生を送った人がいたのかと、山あり谷ありの人生は興味深く、集中して読んだ。ただ、集中して集中して集中して読んでも、まだ半分とかしか進んでおらず、驚愕した程度のことである。

 伊藤野枝は1895年生まれの作家・婦人運動活動家で、平塚らいてふの『青踏』に参加、無政府主義者大杉栄の妻(野枝にとっては3番目の夫)であり、夫妻と6歳の甥は、関東大震災直後の甘粕事件において、当時陸軍憲兵大尉であった、甘粕正彦により捕らえられ、満足な裁きもなく殺される。私はこれらのことを、本書を読んで知った。伊藤野枝については名前しか知らなかった。

 福岡の田舎の出身であった野枝が、文字を読むことや勉学が好きで、ものすごい向上心を持って、東京に住む叔父(代準介)に繰り返し手紙を出し、進学を訴え、上野高等女学校に編入する。こうした自分の未来を切り開いていく野枝の行動力には、素直に感心し、見習いたいと思う。

 野枝は女学校を卒業後、一度は親戚が決めた相手と結婚するがすぐに出奔、上野高等女学校の恩師で英語教師であった辻潤の家に転がり込む。辻とは2児を設けるが、その後辻を捨てて、大杉栄の許へ走る。大杉は自由恋愛を主張し、野枝以外に妻である堀保子と、新聞記者の神近市子と、3人の女性と関係を持っていた。経済的に自立し男女ともに、互いを縛らない関係を志向したようである。彼は正直な人というか、ある女性に問い詰められれば、別の女性とすごしたことを素直に白状してしまう人だったようで、私としては、多くの女性に惹かれてしまう大杉が、それを隠し通すほど割り切れない自分に折り合いをつけるための、詭弁としての自由恋愛の主張のように感じた。実際、自由恋愛の実験は破綻し、日蔭茶屋事件において大杉は神近に殺されかけ、その後、野枝とは互いに唯一の存在として認め合い、同志となっていくわけだが、いずれにしても、私はこうした大杉の馬鹿正直さ、重度の吃音に自身でも悩みながら、それでも緻密に計画し、行動し、主張する大杉に対しては、自由恋愛という暴論を掲げ、しかもそのルールを自ら破っていく弱さを、補って余りある魅力を感じてしまうのだ。

 また私は、行動できずに理屈をこね回し、最後は社会活動への考え方も野枝と対立して捨てられる辻潤に対して嫌悪感とともに親近感を覚え、反面教師にしなければと感じた。足尾銅山鉱毒事件で苦しむ人々に対して、何とか手を差し伸べたいともがく野枝の努力を、貶めるように否定してしまう辻潤の姿は、自分より下位の者として慈しんでいた愛妻が、成長して羽ばたいていくのを必死に阻止しようとする男の矮小さに満ちており、そしてその卑小さが私自身の中に確かにあるのを感じてしまったのである。

 というわけで、ざっと気にかかるシーンをピックアップして紹介した。良書である。

風よ あらしよ (集英社文芸単行本)

風よ あらしよ (集英社文芸単行本)

 
 ●贅沢な読書会のこと

  さて、そんなわけで開催の2日前にようやく課題図書を読了し「贅沢な読書会」前半を迎えた。私を含め9名の参加者、主催者、企画の木村綾子さん、そして進行役、フリーライターの瀧井朝世さん、12名をZOOMで繋いでの読書会である。

 事前に瀧井さんによるレジュメがデータで配布されていて、そこで感想を話す際に参考となる論点と、後半の部で自己紹介とともに発表するように、村山さんからの質問が示されていた。

 そんなわけで、前半の部では各自村山さんへの思いも含めた自己紹介をし、瀧井さんから簡単に作品・作者の紹介を伺い、レジュメで挙げられた論点も参考としつつ、作品の感想を発表する、あっという間の2時間であった。

 今回、日本全国のみならず海外からの参加者もいらした。そういう方と、趣味を通してお話できるというのことも、とても貴重な機会だ。本来、この読書会はみなとみらいのBUKATSUDOという施設で開催されているそうだが、それが新型コロナウイルスの影響でオンライン開催となっている。直接顔を合わせられないのは残念なことだが、その分、多様な人が参加できるようになったのは、オンラインの利点だと思う。

 また作品について、私自身は大杉栄のことをショボい奴だなぁと思いつつも、どこか憎めない感触でいたのだが、本当に何言ってんだこいつ、許せん! という意見の方も多く、多数決をとったところ半々であった。一人で読書をしただけではこうした作品や人物の見え方の違いには気がつけないものである。おもしろい。

 前半終了から程なくして、1Lの麦茶の入ったポットをひっくり返した。悲しくなった。悲しみの私のもとへ、主催者からアンケート回答を求めるメールが来た。これまでに読んだことのある村山作品や、村山さんへの質問を事前に募集する、とのことであった。私は考え抜いて、5つ質問を書いて、指示通り優先順位で番号を振った。まあ前半の中でも、優先度が低いものは触れられないかもという話があったので、上の2つ目くらいまで触れてもらえればいいやと思っていたら、翌週の後半の部、結果的に全てに丁寧に回答いただいた。嬉しい。回答くださった村山さんはもちろん、司会の瀧井さんの回し方が上手い。いろいろな話を関連付けながら、スムーズに進行していく。そしてこの質問については、3つ4つ書いている人はいたが、中には1つに絞っていらっしゃる方も多く、そんな方よりは遥かに多く私の名前が呼ばれ、発言を促される。憧れの作家を前に何か喋り給えと促されるのはありがたい反面、同じくらいファンの人々が見守る中で、私などがこんなに何度も喋ってていいものか、かたじけない。

 ちなみに、私がした質問は以下のようなものであった。

  1. 辻や大杉などにモデルはいるか。執筆の際に、実際の知り合いをモデルにすることがあるか。
  2. 野枝と大杉のような恋愛をするにはどうすればよいか。
  3. 膨大な資料を整理する方法。
  4. 大杉のことをどう思うか。
  5. 評伝小説の執筆はそれ以外の作品と比べて、楽しいか。 

 実際には、作品に関連付けてだらだらと質問文を書いたが、要は上の通りである。中でも、2番について、私は恋愛をすればするほど、という経験があるわけでもないのだが、学生時代に本当に恋人のことが第一で、ある種執着していた頃と比べると、今はそうした一途な情熱が湧き上がってこないと感じていた。それは学生時代の破局の悲しさが、以後の私に対して過度に人を愛しすぎないようにブレーキをかけているようである。

 野枝とその周囲の恋愛を見ると、そんなことはない。野枝と結婚したことで、辻は教師の職を失うし、野枝は辻を捨て、友達から非難されながら、大杉の元へ走る。大杉は野枝にのめり込んだことを恨まれ、神近に刺されてしまった。そこまで激しい、何かをあるいは全てを失ってでも、彼(女)の元へ走っていくという衝動はいかにして生まれるのだろうか。

 村山さんは、必ずしもそういう恋愛はしなくてもいいのではないか、自分自身の愛し方で愛せればそれでもいいのではないか、と仰ってくれた。周りに迷惑かけるだけですよぉ、と笑ってくださっていた。作品のこと、執筆の過程等、たくさんのお話を伺った中で、その時が一番、あぁ憧れの人と対話しているなぁと、実感した瞬間であった。

 なお、その後半の部には、前半の部の12名に、版元である集英社より2名、作者の村山由佳さん、および村山家の愛猫、銀次くんとお絹ちゃんが参加して、可愛らしい姿を見せてくれた。

■敷設のこと③

 私はパラレルキャリアとして、人と本に関わる何かを始めたいと思っている。今回の読書会参加も、私の人生の複線敷設工事の一環として行われた。複線を敷設していくと、その結果はどうあれ、過程で色々な出会いや経験が待っていることを感じた。引き続き、安全第一で敷設を進めます。

■ちょっと関連

村山由佳が伊藤野枝の生涯を描く 『風よ あらしよ』刊行記念インタビュー(Book Bang) - Yahoo!ニュース

村山由佳の新境地!『風よ あらしよ』自由を貫いた闘士・伊藤野枝を描いた評伝小説 | ほんのひきだし

PickUPインタビュー村山由佳さん『風よ あらしよ』

連載 村山由佳 命とられるわけじゃない|HB ホーム社文芸図書WEBサイト

 

【作者】村山由佳(時々もみじ) (@yukamurayama710) | Twitter

【進行】瀧井朝世 (@asayotakii) | Twitter

【企画】木村綾子 (@kimura_ayako) | Twitter

【講座紹介】「贅沢な読書会」とは? | BUKATSUDO 

 

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