哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

絵画等のこと③「能をめぐる美の世界」@静嘉堂文庫美術館 他

 あやしうこそものぐるほしけれなので、2020年11月の徒然なる絵画等のことを、大いに語ります。

■絵画等のこと③

●「成田美名子原画展」@有楽町マルイ8Fイベントスペース

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 有楽町で開催された、漫画家のの成田美名子の原画展。整理券制で15分ほど待たされ、また狭い会場内であったのでそれなりに混雑していたが、とはいえお客さんの回転も早く、比較的スムーズに鑑賞できた。

 作品は少女漫画なので、おっさんである私は成田美名子については詳しくない。ただ唯一、私が仕事で能に関わることがあった際に、友人が勧めてくれて、『花よりも花の如く』を途中まで読んだ。

 なので、原画展もたくさんの作品の原画が展示される中で、お目当てはそれだけ。でも、どの作品も描き込みが細かく、楽しめた。丁寧で繊細で美しい。

●「宮島達男|クロニクル1995-2020」@千葉市美術館

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 千葉市美術館JR総武線の千葉駅から、徒歩15分程のところにある。前述の成田美名子原画展と同日のダブルヘッダーで訪問した。Webページを見ると、”美術館の骨格を形成するコレクションの収集方針は、「近世から近代の日本絵画と版画」、「1945年以降の現代美術」、そして館が立地する「千葉市を中心とした房総ゆかりの作品」の3つを大きな柱としています。”との記述がある。その方針通り、房総にゆかりの作家の作品や近代絵画が取り上げられる中で、突如現代アートが出現してしまうのが、私の大好きな千葉市図書館のおちゃめな点である。
 この度の特集は、「生と死を表現するため、9→1にカウントダウンして、かつ0は永遠に訪れずに輪廻する」みたいな趣旨の作品を多く発表している宮島達男。
 何度も千葉市美術館で目にしている「地の天」は改めて見ると、そのデジタルのカウンターが何千年も前からあったかのような感覚になり、悠久の時を感じることができて良いのだ。
 あとは、3ヶ国の人々がそれぞれの言葉で、カウントダウンを行い、0になるとワインに顔を沈める様を映像にした、「counter voice in wine」が良かった。

 また展示の中で宮島が時の蘇生・柿の木プロジェクト - 平和と命の大切さを学ぶアートプロジェクトという、長崎で原爆から生き残った柿の木の子どもたちを世界中に届ける活動をしていることを知った。世界に平和に近づく、よい試みであると思う。

 常設展では宮島の先生であったという、榎倉康二がフィーチャーされていて、参考になった。

●「能をめぐる美の世界~初公開!彌之助愛蔵から120年・新発田藩主溝口家旧蔵能面コレクション~」@静嘉堂文庫美術館

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国立能楽堂舞台模型

 世田谷区の静嘉堂文庫美術館にて開催されている、能面を中心とした展示。私は東急田園都市線二子玉川駅より、20分程歩いて、途中迷子になりつつ向かった。遠い……。

 展示内容は面白く、能面だけでなく伎楽のお面も多く、勉強になった。伎楽とは7世紀の推古天皇の時代に中国(呉国)より伝わった芸能で、散楽・猿楽(能)・雅楽への影響や、現在には各地の獅子舞等でその痕跡が残っているそう。

 能面については、一面一面に解説があり、わかりやすかった。あれだけ、女性面なら小面、万媚、曲見、増等と、並べて解説されると、はあ、なるほど違うねーという気持ちになるものである。

 また初世梅若万三郎の舞姿をモデルにしたという、刺繍の絵が素晴らしかった。そこに描かれる装束も、梅若六郎家伝来の実在のものであるという。静嘉堂文庫を開いた岩崎弥之助は弥太郎の弟で、三菱財閥2代総帥。謡では初世梅若実や子の万三郎に師事していたという。

 勉強になったこととして、平太(へいだ)の面のモデルが荏柄平太胤長(和田胤長)で、彼は鎌倉時代初期の御家人で、和田合戦を起こした和田義盛の甥であるということ。同時代人で、浄瑠璃「ひらかな盛衰記」で描かれる梶原源太景季は能では「箙」に登場するが、この時かけられる面はやはり平太。有力御家人たちの勢力争いが絶えず、やがて北条氏が権勢を握っていく時代である。

 また、長霊癋見は中癋見と小癋見の間くらいにインパクトだなどと思ってみていたら、源義経に討たれた大盗賊である、熊坂長範の役に使うのだと言う。言われてみれば盗人風で、無精髭を生やしたおっさんのような風貌であられる。

■2020年11月の徒然なること

 本屋エッセイ賞2020を書きたいが、中々手が回らず。年賀状も書かなきゃ。多忙です。
 このところは、年末に向けて本業が忙しくなってきている。元々、月に一度程度は土日の出勤がある(もちろん、月内に代休はもらえるが……)のと、繁忙期で残業する日が多くなってきているのとで、まとまって身体を休めてリフレッシュする時間が確保しにくく、疲労が溜まりがちである。
 まあ、そうはいっても、これだけ休みの日に外出して、美術展示巡りができているのだから、元気なのだろう。新型コロナウイルスの新規感染者がこのところまた急増してきている。私も今後しばらくは、用心しようと思う。皆様もご自愛ください。

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