■絵画等のこと④「大・タイガー立石展 POP-ARTの魔術師」@千葉市美術館
千葉市美術館と著者
千葉市美術館にて2021年7月4日(日)まで開催中の「大・タイガー立石展 POP-ARTの魔術師」を拝見したので、感想を記しタイガー。
●タイガー立石のこと
タイガー立石(本名立石紘一)は1941年、九州・筑豊の伊田町(現・福岡県田川市)に生まれた画家・漫画家・絵本作家・陶芸家である。石炭産業で栄える、炭鉱の町であったそうだ。
1964年に中村宏とともに観光芸術研究所を設立、1968年にはタイガー立石に改名し漫画家として活躍した。1969年に突如、イタリア・ミラノに移住、イタリア以外も含め13年間のヨーロッパ滞在でコマ割り絵画等を発表。1982年に帰国、1985年には千葉県夷隅郡夷隅町(現いすみ市)に拠点を移した。1990年には立石大河亞に改名、1998年、肺がんのため56歳で逝去。
●「大・タイガー立石展 POP-ARTの魔術師」@千葉市美術館 のこと
タイガー立石のことを、私は何も知らなかったが、千葉市美術館蔵の作品で、マッチ棒が虎に変化する不思議な世界を描いた「封函虎」は度々、同美術館で目にして気になっていたので、タイガー立石なるプロレスラーのような名前にだけは聞き覚えがあった。
今回の展示ではまず「ネオン絵画 富士山」が迎えてくれる。こちらは写真撮影可の作品で、店の看板等で目にするネオンで富士山が描かれている。
ネオン絵画 富士山
アイデアは面白いが、シンプルだし今の時代に見ても凄さがピンとこない。ただしこの富士山を描くために、ネオン会社に就職して、構想を練ったというエピソードが興味深かった。仕事というのは、そんなものなのかもしれない、つまり何かを勉強するため等、自身の目的のために選んで、要らなくなったら捨てて良いものなのかもしれない。そう思って大層刺激を受けた。
立石はこの他にも多く、富士山をモチーフとした作品を作成している。「ミクロ富士」は、絵画の中の箱庭の中の箱庭の中の箱庭の中の……、という、無限さを感じさせる作品。また「車内富士」は富士山に向かう車内が富士山になってしまう、なんだか気持ち悪い作品で、どちらもアイデアが素晴らしく、面白い。そもそも自画像的な作品「富士のDNA」にも自身のいくつかの作品モチーフとともに富士山が描かれており、タイガー立石という人物を象徴する主題の一つであったことがわかる。ただし、同じようなベストアルバム的な作品では、世界の窓のようなイメージで私としては部屋に飾りたいと感じた「瓢箪と龍虎」が気に入った。
彼の初期(1964年)の作品に「立石紘一のような」というものがある。これはまさに彼自身を宣伝するような作品であり、ただただカッコいい。芸術家というのは、自営業者というか、自分の名前という看板を背負って、社会と対峙しているのだなぁと感じられ、組織の中にいて組織の名前で仕事している自分が、なんとなく卑小に思えてくる。
同時期(1963年)の似たような雰囲気の作品に「フン」がある。ポップに飾り立てられた"糞"の字がなんとも勇ましく、思わず笑ってしまうような作品である。 自分の故郷である千葉県にゆかりのある人物で、こんなに軽やかに発想力豊かに作品を発表し続けた人がいるのは驚きであり、誇りである。故人ゆえ新しい作品は当然生まれないが、折に触れて既存の作品に注目していきたい人物である。