哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

2021年5月の読書のこと「ワールド・カフェから始める地域コミュニティづくり」

■ワールド・カフェから始める地域コミュニティづくり:実践ガイド( 香取一昭・大川恒/学芸出版社)のこと

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 ワールド・カフェをご存じだろうか。カフェのようなリラックスした雰囲気の中で話し合う方法の一つで、これを使えば大人数での話し合いもまとめることができる。本書ではこの手法を通して、地域での21世紀型コミュニティ作りを行うことについて述べられている。

 21世紀型コミュニティとは「目的や興味を共有し帰属意識を持って参加」「自由意志で参加でき複数のコミュニティへの参加も可能」「組織をこえて共通の課題に取り組む」「自律的運営」「安心と信頼をベースとした関係」「地理的制約から解放され様々なコミュニケーション手段を活用」「多様性の尊重」「薄膜の境界(バウンダリー)」等々、といった特徴を持つそうだ。うん、これだけ列挙されていてもよくわからない。旧来型のコミュニティ、例えば町内会では、そこに住む人が強制的に加入し、その内々で課題に取り組み、他の町内会に重複して属すことはない。そうではない、ということであろう。例えば「子育て」のような目的のために、関心を持った人物が自由に集まり、産学官民と様々な属性を持つ人が、自主的にコミュニケーションをとって、課題を解決していく、そんなイメージだろう。

ワールド・カフェから始める地域コミュニティづくり: 実践ガイド

ワールド・カフェから始める地域コミュニティづくり: 実践ガイド

 

  ワールド・カフェは、1995年にアニータ・ブラウンとデイビッド・アイザックスが始めたそうだ。この手法を使うと、100名規模の大人数でも話し合いができるとのこと。具体的には、4~5名程度のグループを作り、グループごとにテーブルについて、第一ラウンドを行う。問い(テーマ)に従って自由に話し合う。問いは話しやすく、肯定的な意見が出やすいように設定すると良いらしい。その他、話し合いの中では何回喋ってもOKだが長々話さないことや、問いと大きくそれた雑談をしない、相手の発言に耳を傾けること、等がルールだ。テーブルには模造紙を置いて、メモを残してもらうと良い。30分程度で第一ラウンドが終わったら、グループの中から1人のテーブルホストを残し、他のメンバーは旅人として、別のテーブルへ移動する。そこで第一ラウンドの際に自分のテーブルで話されたことについて意見交換をしつつ、新たな問いで第二ラウンドを行う。最後の第三ラウンドでは、また元のテーブルに戻って、旅先で行われた会話をシェアしつつ、最後の問いで話し合いを行う。その後、振り返りや全体シェアをする、というのがワールド・カフェの大まかな流れだ。

 このワールド・カフェに加えて、しばしば併用されるというOST(オープン・スペース・テクノロジー)という手法についても、本書では説明されている。ワールド・カフェは結論にたどり着くことを目的としたコミュニケーションではないが、OSTはより具体的に問題解決に取り組む手法だそうである。

 本書ではワールド・カフェについて架空の事例を通してやり方を説明したうえで、具体的な活用例を紹介している。私は塩尻市役所の若手職員が、毎月の自主勉強会に上長たちを呼びつつ、ワールド・カフェを行ったという事例に興味を抱いた。

  1. 新たな賑わいを目指してビジョンづくり、そして実践へ:桜井市本町通・周辺まちづくり協議会
  2. 毎月開催! 市役所職員が未来をつくる「しおラボ」:塩尻市役所
  3. 「シゴト軸」のコミュニティづくり:非営利型株式会社Polaris調布市
  4. コスプレイベントで商店街活性化:チームこみぞー(宮代町)
  5. 日本全国各地に地域包括ケアの21世紀型〈地域コミュニティ〉をつくる:一般社団法人地域ケアコミュニティ・ラボ

●ワールドカフェ「千葉市100人未来会議」

  以上が本書で上げられている具体例である。自分の住まいする千葉市でもこうした試みが行われていないのか調べたところ、「千葉市100人未来会議」なるものが、2019年に行われていたことを知り、紹介したい。なお千葉市のWebページでは同ワールド・カフェの開催結果報告書が掲出されているため、詳細は是非そちらをチェックしてみてほしい。

 この試みは千葉市総合政策局総合政策部政策企画課が2019年8月に行った、2023 年度から始まる新しい基本計画(市全体のまちづくりの方向性を示した計画)の策定に向けた市民参加のキックオフイベントである。「15 歳以上の市内在住・在勤・在学の方」に参加者を募り、結果102名が参加したとのことだ。

 大きなテーマとして「未来の千葉市をこんなまちにしたい」を掲げ、アイスブレイク、熊谷俊人千葉市長(当時)によるインスピレーショントーク(平成の約 30 年間を振り返り 、この間に私たちの生活環境が大きく変化したこと、足元で進んでいる AI の進展などの未来の生活を想像することが楽しくなるような情報を紹介)に続き、問い①あなたの好きな千葉市の場所、問い②あなたが気に入っている千葉市の魅力、問い③私たちが望む20~30年の千葉ライフ、について話し合い、また最後には、「私が望む未来の千葉ライフ」について記入やシェアを行ったそうである。

 例えば私が好きな千葉市の場所は花見川(サイクリングロード)であるが、報告書を見ると3名がそう回答している。自分にとって身近な話題であるため、報告書を読むのが楽しい。

 このイベントでは模造紙ではなく、えんたくんなる円形のダンボール? をみんなで抱えて、そこに付箋を貼っ付けたり、書き込んだりして、話し合いをしたようである。えんたくんを見るとそのまま他のグループの話が分かる。上手い仕組みであると思う。

 アンケートを見ると、自分の意見を十分にあるいはおおむね発言できた参加者が9割に上る。ワールド・カフェという手法を使えば100人規模であっても、自分の意見をきちんと発言できる、ということがよくわかる結果だ。また、こちらに参加した理由(複数回答可)については4割ほどが、ワールド・カフェに興味があった、と回答。うん、そうだよね、知ってたら私も参加したかったな。

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