哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

オンライン・サイエンスカフェ「海の生きものの大切さ〜ラッコと海牛類から学ぶ〜」(菊池夢美、京大野生研・マナティー研究所)のこと

■オンライン・サイエンスカフェ「海の生きものの大切さ〜ラッコと海牛類から学ぶ〜」(菊池夢美、京大野生研・マナティー研究所)のこと

f:id:crescendo-bulk78:20210703190134j:plain
すみだ水族館(東京都墨田区

 一般社団法人マナティー研究所代表理事・菊池夢美)によるオンライン・サイエンスカフェ ―海の環境問題― 海と日本プロジェクト のうち、2021年6月19日(土)の「海の生きものの大切さ〜ラッコと海牛類から学ぶ〜」(菊池夢美、京大野生研・マナティー研究所)に参加したため、その感想を記す。

 まずこのイベントの流れであるが、講演者による発表の動画(のURL)がイベント当日の一週間程前に送られてくる。参加者はそれを視聴したうえで、講演者の問いかけに対する反応や質問を、指定されたチャットを使って返答する。当日はZOOM経由で講演者と司会者の映像を見つつ、参加者はカメラ・マイクはオフのまま、追加の意見や質問をやはりチャットを通して発言をして、講演者や司会者はチャットの内容を拾いながら、発表の動画の内容を深めていく。

f:id:crescendo-bulk78:20210703234219p:plain

 さて、発表の動画はどんなものだったのだろうか。まず①「乱獲と環境変化」として、ラッコ(絶滅危惧種)が取り上げられる。彼らは1741年からの140年の間に、毛皮を目的として90万頭が捕獲されたそうだ。途方もない数字である。また1911年オットセイ保護条約の頃には、個体数は2,000頭以下に減っていたとされる。いずれにせよ、ラッコが乱獲されていた、という事実があり、またラッコは可愛らしい外見と裏腹に(というべきか)、毎日体重の23~25%程度の食事をとるそうであり、ウニや二枚貝、アワビを食べるそうだ。ラッコがいなくなった海はウニが増えすぎて、そしてウニが食べてしまうためジャイアントケルプ(海藻)が育たなくなる。ジャイアントケルプが海から消えウニが大量発生することが、良いのか悪いのか私にはわからないが、このままラッコがいなくなってしまえば、こうした環境変化が各地の海で起こることは確実なのである。

f:id:crescendo-bulk78:20210703234040p:plain

 次に②「短期間での絶滅」の例として、ステラーカイギュウについて説明される。海牛類は大きくマナティー科とジュゴン科に大別されるそうで、現在ジュゴン科に分類されるのはジュゴンのみだそうだが、ステラーカイギュウはジュゴン科に属していた、そうである。彼らは今から300年程前、寒いベーリング海にてジャイアントケルプを食べて生活していた。彼らからは、人間三十三人が一か月間食べられるだけの量の肉が取れ、また保存食への加工もできたそうで、結果乱獲が進み、1741年の発見からわずか27年後の、1768年には絶滅してしまったそうである。とにかく無限にいるのではと思われていたようで、食べようと思って捕まえたが、加工もされずに廃棄されてしまったものも多かった、ようである。講演者はこうした生き物の満足な情報がないまま(ステラーカイギュウの場合は全身骨格もないそうである)、その種を失ってしまって悲しいと、そして生き物を失うということは、それによってどういう影響が出るかわからないから恐ろしいのだ、と仰っていた。

f:id:crescendo-bulk78:20210703234134p:plain

 最後に③「海牛類のいま―共存にむけて―」として、マナティーたちの現在、講演者が携わっている活動が紹介される。講演者は現在、カメルーンでのアフリカマナティー保全プロジェクトに携わっているそうである。彼らは魚を獲る網に引っかかって(混獲)しまうことから、魚を狙う害獣と思われていた。網の修繕は漁師たちにとって重い負担になる。そうした漁師たちにそもそも草食のマナティーが魚を盗むことはあり得ないこと、またマナティーがよく移動している浅い水深のところには網を張らなければ混獲が防げること等、正しい知識を伝えることで、マナティー保全の協力を呼び掛けているそうである。

 以上の発表を受けて、参加者は質問をする他、マナティー保全のためのエコツアーへの意見出しを行った。例えばVRを使った事前学習(ちなみにアマゾンマナティーにはVR教材を作成済だそうである)の提供や、里親制度(フロリダのウエストインディアンマナティーにはそうした制度があり、また大層フレンドリーな種なのだという)の導入、助けたマナティーたちのお世話のボランティア体験、等の意見が出て、私は大変興味深くイベントに参加した。

 今回のイベントを通して、まずは知らないことがたくさんある、という事実に気がつく。例えば冒頭のラッコが絶滅危惧種であることは、全く知らなかった。そして彼らがいなくなることで、あたりの環境が大きく変化してしまうという可能性についても。知ることは、行動への第一歩になる。そうした多くの生き物が絶滅の危機に瀕していることを知らなければ、保全のために何ができるかは、考えないのだから。その点で、とても有意義なイベント参加であったと思う。

 

ところで、

クラウドファンディング に挑戦します
7/13(火)12:00〜 (ready for)
マナティーと共存できる未来へ|アフリカマナティー保全プロジェクト

とのことである。ご興味を持たれた方は、是非。

 

■ちょっと関連

www.manateelab.jpphilosophie.hatenablog.com