哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

第6回善之会「蛸」「茸」他 @梅若能楽学院会館 のこと

■2021年11月17日(水)第1回伶以野陽子後援会主催公演 @梅若能楽学院会館 のこと

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 梅若能楽学院会館は能楽堂であることが巧妙に隠され、住宅街に潜んだ立地……、というか、いささか潜みすぎてるのでは?  本当にここ? はい、そうです、臆せず進みましょう。そもそもこちらは、能楽堂を作ろうとした土地が都市計画上住居専用地域となっており、劇場としての建築が不可能であったため、学校として舞台を作ったという経緯を聞いたことがある。そのため住宅街に埋もれているのは、致し方ないのかもしれない。

 さて、拝見したのは第一回伶以野陽子後援会YOKOクラブ主催公演。能「屋島」シテ(主役)の伶以野陽子さんによる迫力の舞は素晴らしかったし、伶以野さんの師匠で人間国宝梅若実さんの地謡(コーラス)を聴けたのも良かった。
 一管(笛のみの演奏)「獅子」は能「石橋」の笛の一節で、こうして笛だけを抜き出して聞くと、能の音楽がとても変化に飛んでいてメロディアスだということもわかり、面白い。また冒頭の解説おはなしでは、事前に来場者からの質問を受付け、囃子方の出演者たちが登場して回答する、という珍しい趣向。出演者が舞台前にこうして自然体で話している姿は拝見する機会は少なく、舞台を観ながら、あ、さっき話していた人だなと思いながら集中して観ることができるので、とても素敵な試みだと思う。

■2021年12月21日(火)第33回久習會 @国立能楽堂 のこと

 狂言名取川」(野村太一郎)に続いて、能「藍染川」(荒木亮)。どちらも川を舞台とした作品。

 「名取川」は物忘れの多い僧が、つけてもらった名を忘れぬよう、両袖に書いてもらうけれど、川を渡ろうとして名前を忘れてしまい、袖に書いたものも流れてしまい……、そんなに遠くまで流れていないはずだから掬いに行こうという素っ頓狂なお話。

 対して藍染川は都で契りを交わした相手(父)である神主を訪ねて、母子が太宰府までやってきたところ、神主の妻の妨害にあって母が藍染川に身を投げてしまう、という昼ドラのようなドロドロした内容。非常に上演の稀な曲ですが、見どころが多く大変楽しめた。
 久習會は、約一年前にがんのために亡くなった宮内美樹さんのいらした会で、三途の川を思わせる川づくしの番組、身投げした母の復活を描く藍染川の内容、宮内さんの愛弟子であられる子方の根岸しんらさんの美しくパワフルな謡と、宮内さんの師である荒木さんが演じた後シテ(後半の主役)の天神様と以前に宮内さんが演じた「雷電」の後シテの雷神とが私の中でリンクしたこと等、宮内さんのことを思い出しつつ拝見した。

 揚げ幕ではなく、作り物の中から登場する後シテの姿はかっこよく、特徴ともなっている手紙を用いた所作はどれも面白い。神主の嫉妬深い女房役(アイ)で、野村萬斎さんが出演されていて、本当に短い時間の出演だが、女から自身の亭主への手紙を破り捨てて投げる動きが、真に迫りつつもコミカルで、流石の存在感があった。神主(ワキ)の福王和幸さん、左近尉(ワキツレ)の知登さんとも、スラリとし格好良く、深みのあるお声で素敵あった。

■2021年12月25日(土)第6回善之会 @梅若能楽学院会館 のこと

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 狂言方大蔵流の善竹大二郎さんによる、善之会公演。本当は翌日の二日目、新作の音楽狂言を拝見したかったが都合がつかず一日目へ。
 大二郎さんと同級生の40歳(1981年度生まれ?)になる能楽師によるバラエティ豊か、盛りだくさんの内容。独鼓、小舞、仕舞、素囃子、一調と、能や狂言の名曲の見どころ、聞き所を、「謡と楽器一つ」「楽器だけ」「謡と舞だけ」でそれぞれ数分程度で演じるもの。恐らく演目を選ぶ時点で、動きの多かったり、囃子の手の複雑なものを選ばれるのであろう、どれも観ていて飽きが来ない、ダイナミックな内容であった。
 狂言はいずれも大二郎さんをシテ(主役)に、「蛸 古式」は舞狂言(能がかり)と言われる、夢幻能(霊的な存在が登場し、その最期を語り舞い、成仏していくような話)を模した狂言で、諸国一見の僧(大藏教義)が蛸の霊(善竹大二郎)を弔うと、蛸の幽霊が在りし日の姿で現われて、その最期の様子を舞ってみせる、というもの。今回は大二郎さんの曽祖父様が古い演出から蘇らせたという、非常にリアルな蛸を表現した蛸頭巾を使用しての上演で、奇抜な蛸の出立も見ものでしたし、なんまいだぶなんまいだぶ(南無阿弥陀佛)がなまだこなまだこになっていたりと、面白く拝見した。昨年、新型コロナウイルス感染症による敗血症で亡くなった大二郎さんのお兄様である、善竹富太郎さんを偲んだ上演、とのこと。
 またもう一曲は「茸」。何某(善竹十郎)の家に生えた茸、山伏(善竹大二郎)がおまじないで退治するが、次々と生えてきてパニックになる、というとにかく楽しい作品。茸を子方がつとめ、これは狂言の家の子供以外に、能を演じるシテ方の家の子供らも参加しているそう。子どもたち+何名か大人の狂言師による茸達が20人くらい、舞台上が茸まみれに。子方が多く出るせいか、お客様も小さな子供が多く、賑やかな舞台であった。和風で楽しいクリスマスである。
【その他、出演者と拝見した感想は以下】
独鼓 四海波  木月 章行・林 大 和
→謡も小鼓もパワフル。
小舞 御田   大藏 教義
→田植えっぽい動きなのでしょう、多分。
仕舞 舎利   新井麻衣子・河井 美紀
→アクロバティックな動きで見ごたえがある。
仕舞 船弁慶  佐野 玄宜
素囃 早舞   熊本俊太郎・大山 容子
 子      佃 良太郎・林 雄一郎
→スピード感がありギターの速弾きのようでかっこよい。
狂言 蛸古式  善竹大二郎
一調 屋島   今村 哲朗・佃 良太郎
→大鼓が力強い。
仕舞 玉之段  多久島法子
→写実的。きびきびした印象の舞。
仕舞 小袖曽我 金春 憲和・中野由佳子
狂言 茸    善竹大二郎

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