■2022年11月の徒然なること
新宿歌舞伎町能舞台
冬に向かって寒さが強まる今日このごろ、皆様いかがおすごしでしょうか? 私は肩から背中、腰がバリバリにコっており、身体の冷えを感じていますが、身体のコリは年中無休という気が、しなくもない。
●Arche Species -種-Chapter 2「パンタレイ」@BUoY(北千住)のこと
予期せぬ、しかし統率された動きをする集団が、これほどまでに気持ち悪い存在だということを、改めて思い知らされた。2020年にイスラエルのプロダンスカンパニー”MARIA KONG”から帰国した井田亜彩実が旗揚げしたダンスカンパニー”Arche”による、Species -種-Chapter 2「パンタレイ」でのことである。
会場となった北千住のBUoYの地下は元銭湯を改装したものだそうで、なるほど、舞台の後方には湯船やカランがそのまま残っていて、不思議な印象を与える。
舞台美術や共同演出として、現代アート作家の大小島真木が参加しており、ダンサーの身体に加えて、舞台下手(向かって左)に映し出された映像や小道具大道具をフルに活用して、パンタレイ(古代ギリシャ哲学者ヘラクレイトスの万物流転のことだそう)を表現している。
70分程の舞踏劇の中に一貫した物語があったのかもしれないけれど、私にはそれを読み解くことはできなかった。六人のダンサーは皆、裸を思わせる茶色の全身タイツを纏っていて、初めは一人、うねうねと這いつくばるダンサーが出てきて、それが一人また一人と増えていく。舞台は奥の方に湯船やカラン、その手前の正方形(約六メートル四方)の床がメインのステージ、上手(向かって右手)には客席、下手にはスクリーン。正面の客席の上手側の空間が大きくあいていて、盛り土とオブジェが置かれている。舞台を正面だけでなく真横からも鑑賞できる張り出し舞台構造や正方形の大きさから、私は能舞台を想像していた。そうそう、それでそのうねうねしたダンサーは、上手の客席の両サイドから登場してくるので、そちら側に座った方々がちょっとうらやましい。と言っても、私も正面側の最前列(座布団の席、腰が痛くなった)から見たので、かなり間近にダンサーの動きを楽しめたのだけれど。
そのうねうねが不意に統率のとれた、素早く、不意な動きをする。虫を連想させる。徒党を組んだゴキブリのようで気持ち悪い、しかし見入ってしまう、動きが綺麗に揃っていてすごい、次第にダンサーたちはくんずほぐれつしながら、血管を思わせる赤いチューブを纏ってみたり、広げたスクリーン(白布)の下に潜り込んで、さながら大きな存在に捕食されてしまい、より大きな生き物に生まれ変わったように見えたり、照明(太陽か月か神か)に向かって手を振り上げたり、死んでしまった?仲間を弔って泥にまみれたりしながら、次第に初めのうねうねに戻っていき、そして世界は暗転する。物凄く駆け足で説明すると私が見たのはそんなものであったと思う。
その中に、生と死であったり、生殖、捕食、信仰、混沌と秩序、そんな表現が紛れ込んでいたのではないか、と感じた。かなりの運動量のダンスだと思う。男性ダンサーのソロパートになった時、音楽が弱まり、ぽたぽたと汗が滴る音が聞こえた。光と影の舞台の上にキラキラとした水滴が落ちた。終盤、女性ダンサーの吐息がはっきりと聞こえ、私の耳目を惹きつけた。そうしたダンサーの生体反応は多分、ある種脚本を越えた演出、生身の人が演じる舞台ならではの物であり、表現される生と死や人間の身体とは、といったところをより濃厚に感じさせられた。
大変面白かった。古典芸能ばかり見ていたけれど、やはり現代の最先端を表現するものの切れ味良い表現も注目しないとと感じた。
●絵画等のこと11.02「ブラチスラバ世界絵本原画展 絵本でひらくアジアの扉−日本と韓国のいま」他@千葉市美術館
・ブラチスラバ世界絵本原画展 絵本でひらくアジアの扉−日本と韓国のいま
しおたにまみこ『たまごのはなし』自我を持って動き出したたまごの話。でもキッチンにいる他の卵やら時計やらは動き出した彼に賛同してくれなくて、みっともないとか言ったりする。動き出して、屁理屈をこねたり、面倒くさいことを言うたまごに私自身を重ねながら拝見し、それでも周囲の物を尊重するたまごに尊敬の念を覚えた。自分の我を通すばかりではなく、たまごのように大人になりたいと思う。
降矢なな『ヴォドニークの水の館』水の世界に人間を連れ去ってしまうヴォドニークの不思議な話。さっと読んだだけで読み飛ばしているかもしれないけれど、ヴォドニークが多くの人間を捕まえて、魂を閉じ込めている理由は述べられていない。寂しいのだろうか。であれば、あの終わり方はヴォドニークが可哀想でもある。
・新収蔵作品展—現代美術の作品を中心に
宇佐美雅浩
宇佐美雅浩「宇佐美正夫 千葉 2021」様々な地域や立場におかれた人々とその人物の世界を表現するものや人々を周囲に配置し、仏教絵画の曼荼羅のごとく1 枚の写真に収める「Manda-la」プロジェクトの一つ。密を避けてマネキンを多用したとのこと。緻密にデッサンを描いて写真作品として作り上げていることに感動した。
本城直季「small planet ZOZOマリンスタジアム」千葉の街が玩具のようで面白い。最初の商業出版された写真集である『Small Planet』がリトルモアから発刊されたのが2006年だそうで、私が2007年(~2010年)に書店でアルバイトをしていた時に話題になっていたので、なんとなく懐かしいのである。
北城貴子「Resonating Light 1」木々から漏れる光が綺麗であった。
・千葉市美術館コレクション選 特集:板倉鼎/三国志と武者絵の世界/特集:大近松全集/特集:李禹煥
・つくりかけラボ09 大小島真木|コレスポンダンス/ Correspondances
前回お伺いしたのはイベント(万物は語る)開催日であったが、今回は何もない日だったので、展示やアトリエの様子もじっくり見学できたし、ワークショップにも参加してきた。人間以外のものになって、人間への手紙を書く、というもの。面白い企画でついつい私は仕事に絡めて考えてしまうので、長い年月を生きてきた能面や能装束が人間に向けて語りだしたら、とか考えてしまうのだけれど、今回はそうした仕事とは全然関係のないある感情をなり切って、人間に手紙を書いた。感情は人間ではないのか、というNGが出そうではあるけれど、感情は少なくとも人間そのものではないと思う。私の中にあって私の他者でもあると思う。他者としての感情について深く考えたときに、自分自身のことを深く見つめなおす機会となったことが大変面白く感じた。