■ また新型コロナウイルス感染症に罹患したこと
疲れやすくなったな、と思う。もっともこれは後遺症ではなく、丸五日も自室に閉じこもっていれば、当然のことだ。部屋、トイレ、風呂、そのくらいの移動しかせず、部屋にいる時間の多くをベットで横になるか、椅子に座っていたのだから、当然体力は落ちる。
症状が出たのは、十日前のことである。職場にいた夕方、どうも喉がイガイガして声が出にくく、また寒気がした。風邪を引いたのだなと思う。帰宅途中の蕎麦屋で天せいろを食べて帰り、検温すると三十七度一分と微熱。結局、その日は風呂にも入らずに寝てしまった。
夜中、ふと目が覚めて改めて熱を測ると、三十七度四分、やや熱が上がってきた。
翌朝、明らかに体調が悪く、検温すると三十七度六分と出る。職場に休みの連絡を入れ、ヨーグルトを食べて、コンタックを飲んだ。
かかりつけの耳鼻咽喉科に行く。受付にて、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の検査の希望があるかと問われる。この日は金曜日。これまで私が病院で受けてきたコロナの検査はいずれも、翌日に検査結果が出るものであった。土曜日、日曜日で熱が引いて、月曜日に結果だけ聞かされるのもあほらし、と思ったのだけれど、確認すると十分程で結果が出るという。技術の進歩に喜びつつ、検査をお願いした。
こちらの病院では発熱者や、コロナの検査待ち者は、通常の待合室ではなく、フロアの外のベンチで待つように指示を受ける。私のすぐ前に受付を済ませた女性が、やはりコロナの検査をお願いしていたようで、検査待ちの席に座っていたので、彼女と反対端に座って三十分程待つ。
サンデーうぇぶりにて、フリーレンが黄金郷のマハトを撃破する様を、朦朧としながら読み終えた頃であろうか、医師が出てきて、私の前に待っていた女性の鼻に棒を突っ込んで、帰っていった。いよいよかと身構える私、数分して医師が戻ってきた。
マスクを少し下げて鼻を出す、口はマスクで覆ったままとの指示を受け、私も鼻に棒を突っ込まれる。苦しさはあるが、痛みはなく安心した。結果が出たら診察するという医師を見送って、二、三分たっただろうか、順番が前後しますとのお詫びとともに、前の女性に先駆けて、私の名前が呼ばれる。
コロナの検査で、順番を前後して早く呼ばれるのは何故だろう? 当然、早く結果がわかったためであろう。私はコロナの検査薬がどのような仕組みで作動しているのかは知らない。しかし恐らく、コロナのウイルスに反応する試薬を用いるはずだ。つまり、コロナのウイルスがない場合に反応する試薬を作るよりは、コロナのウイルスがいる場合に反応する試薬を作るほうが、ずっと簡単だろうなと思う。つまりこの場合、私の検体からの方が、早く確実にコロナのウイルスを検知できたため、早く呼ばれたのだろうな、と推察できる。コロナ陽性者を、必要以上に病院に留まらせておくことは、その他の患者への感染リスクをいたずらに高めることになるわけで避けるだろうな、とも思う。はたして。
医師が何と言ったか、正確には覚えていない。やたら軽く、コロナ陽性が告げられたような記憶がある。前日の発熱した日を〇日目、この診察を受けた日を一日目として、五日間、火曜日までは外出しないように、その後は熱が下がってたら外出して構わないが、熱がある場合は熱が下がってから一日持つように、と指示を受ける。昨年にコロナの感染症法上での扱いが五類になり、一年以上が経ち、コロナとの接し方もだいぶフランクになったように思っていたのだけれど、そんなことなかったと感じる。
市販の解熱鎮痛薬を飲むと良くない場合があるとのことで、カロナールを処方される。朝一でコンタックを飲んだことは、なんとなく黙っていた。確かイブプロフェンが入っていたような気がした。あとは普段処方していただいている薬を飲むように、との指示。え、それ、ただの鼻炎の薬だけど、と思いつつ、はあ、とうなずく。
通常だと診察後はネブライザーでの吸入を受けるのだが、看護師より、今日はできないからと、速やかな帰宅を促される。スピーディである。これがコロナ陽性の力である。
薬局で処方箋を提出して薬をもらう。やはりこちらも、いつもよりも呼ばれるのが早かったようにも思う。こちらの薬剤師は、必ず症状や診察の内容を確認してくれるのだけれど、熱が出てるんですか? 検査しましたか? みたいなことを根掘り葉掘り聞いてくるため、はあ、ええ、まあ、みたいな曖昧な返事をする。他のお客さんの前で自分、コロナ陽性っした! と元気に宣言するのは、やや気が引けるものがある。
途中、コンビニに立ち寄り、昼食にサラダうどんとシュークリームを購入し、帰宅した。わーっと食べて、薬を飲み、私の闘病生活は始まった。
と言っても、特に何かと戦っていたわけではない。幸いにも私には同居している親族がいるため、自室の扉をきっちりと閉め、トイレと風呂以外では外に出ず、ただただ運んでもらった食事をとる以外は、ベッドで横になる。
眠るか、眠れなければ本を読むか、スマホで動画を観た。万城目学の『偉大なるしゅららぼん』を読み終え、YouTubeにて東海オンエアの「手作りいかだで川下り」シリーズを一から観直した。Netflixにて、「狼と香辛料」の最新話、「キン肉マン 完璧超人始祖編」と「しかのこのこのここしたんたん」の初回放送を観た。原作の初代『キン肉マン』が大好きで、制作がプロダクションIGとのことで、楽しみにしていたのだけれど、初回は第〇話として初代のストーリー紹介だったため、懐かしい反面少し物足りなさもあった。
症状は多少の頭痛と鼻水、痰、少し喉が痛む。熱も三十七度六分が最高値で、さして辛くはない。やや倦怠感があるので、もちろん起きているのは難しいのだけれど、ごろごろしている分にはあまり苦労することはなく……。昨年も七月にコロナに罹患したのだけれど、だいぶ違うのである。
一日目、二日目、三日目までは、そんな症状があったが、四日目となる月曜日は、熱も一日通して三十六度台であったし、症状も弱い頭痛と立ち上がった時のふらつきくらいであった。そのため、職場から宅配便で送ってもらったパソコンにて在宅勤務(リモートワーク)をしていた。五日目も同様であり、概ね普通の風邪と同じ、という印象の経過。
医師の指示より、五日経って熱が下がっていたため、翌六日目、水曜日からは普通に職場に出勤するようになり、今に至る。
そんなわけで、身体的にはそこまでのキツさはない、人生二度目のコロナであった。もっとも、昨年末から今年の頭にかけて、咳と発熱で長く臥せっていたことがあり、その時は年末年始で多くの病院が閉まっていたため検査をしそびれてしまったので、もしかしたら検査せずにコロナに罹患していたことはもっとあるかもしれない。
ともあれ、大変だったのは身体的なものではなく、精神的なものである。いくら同居親族がいるとはいえ、自室にこもって食事を受け取るときだけ顔を合わせる、その他の人とももちろん会話の機会がない、という状況は堪えるものがある。
別に電話でもなんでも、知り合いに連絡してみればという意見はお有りだろうが、私にはそもそも友達がいない。職場にいかなければ、寂しい人生だろうなと思う。実際、職場でだって、別に同僚として人と接しているだけなわけで、寂しいのに違いはない。ともあれ、仕事でもなんでも人と話す機会があるのと、ほぼないのでは、大いに違うのだ。
部屋にこもって一人でいると、心が疲れてくる。誰かに連絡をするのさえ怖くなるし、誰とも話していない状況に寂しさを感じながら、誰とも連絡を取りたくなくなってくる。正直、このまま職場にも戻れないのではないかとも考える。
まあ、そんなこんなで無事に職場には復帰できたのだけれど、そして念願の人との触れ合いは再開したのだけれど、別にだからといって職場にはなんの感謝もないのである。あったらあったで、職場の人間関係など、鬱陶しいだけなのであった。