哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

絵画等のこと⑳ きょうはたのしいひなまつり

■ 絵画等のこと⑳


ひなまつり定食@鳩やぐら(東京都渋谷区)

 2024年3月31日まで静嘉堂@丸の内で開催中の「岩﨑家のお雛さま」と、4月7日まで三井記念美術館にて開催中の「三井家のおひなさま」を拝見したので感想を記す。

www.seikado.or.jp

www.mitsui-museum.jp

● 岩﨑家のお雛さま @静嘉堂文庫美術館静嘉堂@丸の内)のこと



 そもそも静嘉堂文庫は三菱第二代社長岩﨑彌之助と四代社長岩﨑小彌太父子による美術品のコレクションを保存し、世田谷区岡本にて公開してきたが、令和4年より丸の内の、建物自体が重要文化財という明治生命館に場所を移して、展示を行っているそう。丸の内に移ってからは初めて訪問したのだけれど、明治生命館そのものを覆うように施設が建っている感じで面白く感じたし、中の雰囲気も落ち着いていてとてもくつろげたのでおすすめである。

 今回は岩﨑小彌太と妻の孝子が愛でた、丸平大木人形店謹製の雛人形やその他の人形の数々を展示するというもの、展示の多くは携帯電話やスマートフォンでの撮影可とされている。
 小彌太の還暦を祝うため、孝子が丸平に発注したという、頭に兎(小彌太が卯年生まれということにちなんだものだそう)をつけた稚児や、七福神たちの行列が可愛かった。布袋様が小彌太、弁天様が孝子をモデルにしたとか。とても人数が多く、鯛を引っ張っているものや餅つき、お花見をしているものなど、様々であった。
 あとはお人形サイズの調度品がリアルで素晴らしい。写真に上げたのは雅楽器と貝桶と合貝。貝合わせは二枚貝が対のものしか噛み合わないことを踏まえた、神経衰弱のような遊びの道具だけれど、その特性から夫婦和合の象徴ともされ、上流社会の嫁入り道具の一つであった。また写真には上げなかったけれど、唐織をかけた衣桁や、文台と硯箱もとても可愛らしいかった。
 またお雛様と一口に言っても、丸々としたものから、災厄を海や川に流すのに使用された人形(ひとがた)に由来するとされる立雛と、その姿かたちは様々であり、勉強になる。総じて、華やかで楽しい展示であった。

 また、お人形とは関係ないが、小彌太が淀藩稲葉氏より譲り受けた国宝「曜変天目(稲葉天目)」茶碗も展示されていた。南宋時代に焼かれた非常に貴重な茶碗で、天下に三椀しかないものの一つだとか。青(群青)の釉薬に黒い斑点があり、光の加減でタマムシやモルフォ蝶の羽根のように輝く(構造色な)のだそうだが、展示室の光ではだめなのか、私には黒豆がポツポツ埋まっているようにしか見えず、その点はあまり感動なく。しかしその茶碗について天下の宝だから私に用いるべからず、といった理由から、小彌太が生前それを使ったことがない、というのはよいエピソードであると思う。

● 三井家のおひなさま / 特別展示 丸平文庫所蔵 京のひなかざり @三井記念美術館 のこと


 
 

 それで同じ趣向で、三井家の人々が愛した雛人形の中でも、特に丸平大木人形店の代々の大木平蔵の作に注目した展示が、こちらである。こちらでも一部の展示室は撮影が可能。やはりいわゆる雛人形以外の人形も展示されていて、「子供人形 ことろ遊び」では桜の木の下で遊ぶ稚児たちが描かれている。ことろ遊びとは鬼が、親を先頭に行列になった一番後ろの子を捕まえると、鬼が親になり捕まった子が鬼になるというルールの鬼ごっこのような遊びだそうで、楽しげ。注目したのは、桜の木の作り物にきちんと地衣がついていて、リアルであった点で、木にウメノキゴケ等の地衣がついていることが古い日本において縁起物であったというのは、過去に千葉県立中央博物館にて学んだ。その経緯は 2022年2月の徒然なること - 哲学講義 に詳しい。
 もちろん、本展示でも様々な種類のお雛様が登場する。享保年間から特に町人の間で流行して、男雛の装束の左右が跳ね上がっているところや、能面のように面長な造形が特徴の享保雛や、雛屋次郎左衛門が作った丸顔に引目鉤鼻が特徴の次郎左衛門雛等。また、雛人形の五人囃子というと能の地謡と囃子に因んだものが一般的なのだけれど、京都を中心に五楽人として雅楽の楽人を飾る雛飾りがある。そして本展示では更に珍しく、その両方を対にして飾っているものもあり、興味深かった。笙や鞨鼓といった楽器を持っている人形たちがいた。

 最後の展示室の「特別展示 丸平文庫所蔵 京のひなかざり」が、特に印象に残っている。慶應3年の三世大木平蔵による雛人形と、令和になってから七世(当代)により作られた雛人形が、同じケースで飾られていて、(もちろん古いものは着物などがそれなりに退色している様子はあるのだが、)江戸から現代までの雛人形たちが違和感なく並んでいる様子はたいそう見応えがあった。人形作りの技術、歴史が代々受け継がれているというのを感じ、なんとなく胸が熱くなる気持ちであった。

■ちょっと関連

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