哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

武田神社薪能のこと

武田神社に行ってきた!

 十一時丁度之梓十一号デ私ハ私ハ私ハ私ハ旅立ツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ。人気デュオのハンターズの歌声がラジオから流れていた。

  平成三十一年五月二十五日、夢の中では妙なことに、元号が令和というものに変わっており、何らかの政変が起こったことを感じさせた。私は時折、こういう夢を見る。夢の世界は非常にリアルで、私の知っている日本と地続きのようで、しかし決定的に違っていた。

 例えば大河ドラマで足袋屋を演じる俳優が、違法薬物で降板し、別人に入れ替わっている。それが何らかの世界の歪みなのか、私の精神的ななにかが、彼を拒否して降板させるストーリーを描いたのか、それはよくわからない。

 夢の中で乗った梓号は、全座席にコンセント設置、全席指定席、そして座席の頭上に、赤、黄、緑のランプがついて、その座席の予約状況を知らせてくれる、非常に親切設計になっており、この世界がやはり、何らかの近未来世界であることを感じさせた。

 いずれにせよ、私は夢の中で、山梨県甲府市にある、武田神社に行ってきた。

 

■武田の杜薪能のこと

 閑話休題。ホンの冗談である。薪能のチラシを見直したら、元号が平成になっていたせいで、つい色々と妄想を……。

 縁あって甲府市武田神社で毎年催される、薪能に行ってきた。山梨県に住む友人が、武田神社能舞台があることを教えてくださり、調べてみたら今年は神社鎮座100年の記念すべき年で、公演も道成寺という重い曲をやるとのこと、しかも狂言能楽界きっての人気者で、東京五輪開閉会式の総合演出を務められる、野村萬斎師がシテを勤めると、非常に興味をもち、その友人にお付き合い願い、はるばる下総の国より、甲斐の国へ、赴いた次第である。

 上演に先立ち、道成寺地謡を務めるシテ方能楽師中森貫太師による解説が付き、この日の演目の簡単な説明を聴くことができる。とても分かりやすく、聞きやすかった。道成寺の乱拍子から急の舞への移行のことなど、鑑賞の助けになった。これは開演時間前の十分程のこと。

 開演後は偉い人たちの挨拶、火入れと続く。舞台の浄めや火打ち石などの儀式があるのが、通常の能楽堂での公演とは趣が異なり、勉強になる。ちなみに私は薪能が初めてなら、萬斎師を生で観るのも、道成寺を生で観るのも初めてである。

 最初の演目は、シテ方能楽師たちが、動きをつけずに謡を披露する、素謡の神歌。能にして能にあらずといわれる、極めて祝祭性の強い曲、翁のとうとうたらり……、で始まる謡を披露する。観世喜之、喜正両師が、翁と千歳。一気に、気持ちが高まる。

 ついで狂言、二人袴はシテ(主人公)である過保護な父親を野村萬斎師、その子どもを、実の息子である裕基師が勤める。二人の息もぴったり、萬斎師はやはり、狂言の型にしっかり乗っ取っているはずなのだけれど、しかしどうしても萬斎師であり、オーラを感じる。声、表情、ちょっとした隅々が、なんとなく過剰で輝いて見える。ちなみに、能は恐らく拡声しないのが普通かと思うのだが、この公演では拡声されていたので(薪能は拡声するのが普通なのかしら?)、まあとにかく、台詞はやたら聞き取りやすい。その分、妙な衣擦れの音とかも拾っていたけれど……。そうだよね、千人の人が集まる野外で、生音は無理だよね。

 そして休憩を挟んで、能の大曲、道成寺。シテを勤めるのは、観世喜之師ご一門の、佐久間二郎師。甲府市出身で、甲府での能の普及、稽古などに、ご熱心な方、とのこと。

 この道成寺は、案珍清姫の伝説の後日談であり、 前シテ(前半の主人公)である白拍子(芸能を披露する女性)が鐘に入って、蛇体に変身した姿が後シテとなるのだが、今回は小書(特殊演出)で赤頭というものがついており、後シテが真っ赤な長髪となる。私は小書なしの通常の道成寺は映像で観たことがあるが、武田の杜の木々を背景に、パイプ椅子が並べられた客席は夜のとばりがおり、辺りからは鳥や虫の声が聞こえてくる中、唯一照明で明るくされた舞台に、赤い髪を振り乱すシテは、本物の鬼のようで、とても美しかった。道成寺という演目のおもしろさ、演者たちの真剣さも感じられたように思う。

 こうした野外の舞台で、道成寺の鐘が吊るされることは、そうないと思うし、狂言鐘後見の深田博治師はつま先立ちで頑張って鐘を運んでいたし、そういう意味でも、とても貴重な舞台を拝見させていただいたのだと思う。

 私はその後甲府に一泊して、翌日は甲府駅からバスで三十分強、昇仙峡で岩と滝を眺めて、マイナスイオンをびんびんに浴びてきた。そういうわけで大満足の甲斐路の旅を終え、半島に帰りましたとさ。

 

f:id:crescendo-bulk78:20190525105107j:plain

f:id:crescendo-bulk78:20190525105228j:plain

f:id:crescendo-bulk78:20190525105313j:plain

f:id:crescendo-bulk78:20190526155827j:plain

f:id:crescendo-bulk78:20190526160056j:plain

 

f:id:crescendo-bulk78:20190526160145j:plain

 

www.takedajinja.or.jp

www5e.biglobe.ne.jp