哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

能楽どうでしょう001「2022年12月8日 第36回久習會」他 のこと

能楽どうでしょう001「2022年12月8日 第36回久習會」他 のこと

 

●これまでのあらすじ

第20回記念 吉左右会 @セルリアンタワー能楽堂 のこと - 哲学講義

第2回 伶以野陽子後援会 能楽公演 @梅若能楽学院会館 のこと - 哲学講義

むすびの会20周年記念事業「祈りの表現」@銕仙会能楽研修所 のこと - 哲学講義

第6回善之会「蛸」「茸」他 @梅若能楽学院会館 のこと - 哲学講義

【能楽どうでしょう】 カテゴリーの記事一覧 - 哲学講義

●2022年12月8日 第36回久習會「松山鏡」@国立能楽堂 のこと

 能「松山鏡(まつのやまかがみ)」は非常に上演が稀な作品だそうである。理由の一つは子方(能の子役)が難役とされていることだそう。実際に拝見して驚いた。能は通常、シテ(主役)とワキ(相手役)の問答を中心に話が進行するのだけれど、本作では70分の上演の内、最後の15分くらいしかシテが登場しないのである。ではその最後のシーンまで誰が話を進めていくのかというと、ワキと子方の問答で話が進むのである。

 ストーリーは母に先立たれた娘(子方 根岸しんら)と父(ワキ 福王和幸)が登場し、娘が継母(父の後妻)のことを呪っているのではないかということを父が問い詰めたところ、母から自身の面影を映すとして受け取った形見の鏡を、娘は父に隠れて覗いて母と会っていたのだと弁明する。舞台となる越後国新潟県)松之山は都の文化が届かない田舎であったため、鏡の使い方を知らない娘は、鏡に映る自らの姿を母の面影として見ていたという設定。誤解がとけたところでワキが退場(なんと切戸口から退場する! 私はワキの出入りは橋掛リからと思い込んでいたので、長身の和幸さんが身を折って切戸口から出ていくのを、唖然として見送った)し、代わりに母の亡霊(ツレ 雲龍櫻子)が登場する。鏡を介した母娘の再開を舞台上で再現する。そして最終盤、倶生神(くしょうじん・シテ 橋岡伸明)が登場してツレを地獄に連れ戻そうとするが、ツレは子方の祈りが通じて成仏していてめでたしめでたし、という展開である。

 倶生神について簡単に調べたところ閻魔大王の部下で、男と女一対の神らしく人間の両肩に乗ってそれぞれ生前の善行と悪行を記録していき、その人が死んだら閻魔大王に記録を報告して、死後に天国に行くのか地獄に行くのかの判断材料にするのだそう。能では一人の神として登場する。赤い髪を振り乱して舞う様が、単純に格好いい。

 能の舞台上でも例えば、地謡(コーラス)の謡は抜群に聞き取りにくい。何故あんなに聞き取りにくく謡うのかはよくわからない。一方で聞き取りやすいのがワキや狂言、子方の語りである。本作は途中までワキと子方がひたすら対話するシーンなので、とても聞きやすいのである。他の作品だと詞章(台本)で事前にあらすじを勉強して、舞台中も詞章をチラチラ見ながら同時に舞台上も見てという、集中しにくい観劇スタイルにならざるを得ないのだけれど、今回は舞台上をぽけーっと眺めているだけで二人の対話を理解できたので、視線・意識を舞台上に集中させることができた。

 子方は私がずっと活躍を追っかけている、根岸しんらさん。これまでの元気いっぱいの謡にどんどん響きの綺麗さが加わり、大変すばらしかったし、また本作はワキの大曲でもあるそうで、ワキの演技にも大注目であった。ツレの声の響きも綺麗であった。そして何よりシテが格好よかった。美しく荒々しい俱生神の舞には、能に対してしばしば用いられる「幽玄」という形容だけにとどまらない能の魅力がある。本作は普段のシテ中心主義が過ぎる能の印象を一新させる、ワキ・子方・ツレ・シテが同じだけ活躍する不思議な曲であった。ワキと子方による演劇的な面白さ、ツレの美しさ、シテの格好よさ。稀曲というとどうしてもつまらないからこそ上演が稀なのではないかと勘繰ってしまうが、本作に限っては本当に優れた演者が揃った時しか上演できないからこそ上演が少ないだけで、名曲だと感じる。

 名曲「安宅」(シテ 荒木亮)を舞囃子でコンパクトに見せて幕を開け、本作と同じく鏡にまつわる狂言「鏡男」(シテ 野村又三郎)に続いて本作、という番組構成も良かったと思う。

 【ご参考】久習會ホームページ

●2022年12月24日 み絲之會第6回公演 のこと

 これからの公演の宣伝である。シテ方金春流能楽師三人による会の主催公演が、クリスマスイブに東京・千駄ヶ谷国立能楽堂で開催される。

 武士を酒宴に誘った美女が実はその地で暴れる鬼の化けた姿で、武士と鬼の激しいバトルを楽しむことができる能「紅葉狩」(シテ 村岡聖美)など盛りだくさんの内容である。今回は特殊演出で本来は一人しか登場しない鬼が舞台上にぞろぞろと登場するため、見た目にも楽しめると思う。

 当日は私も見所(客席)で鑑賞する予定のため、私とクリスマスイブをすごしたい人はぜひご検討してほしい。

 公演の詳細はこちらをご覧ください。

●2022年12月25日 第8回花乃公案 のこと

 これからの公演の宣伝である。シテ方観世流能楽師三人による会の主催公演が、クリスマスに東京・千駄ヶ谷国立能楽堂で開催される。

 兄・頼朝と仲違いして追われる身となった源義経一行が、安宅の関(石川県)を越える際のエピソードを描き、歌舞伎十八番勧進帳」の元になった能「安宅」(シテ 馬野正基)など盛りだくさんの内容である。義経・弁慶ら一行十二人が舞台上にぞろぞろと登場するため、見た目にも楽しめると思う。

 当日は私も見所(客席)で鑑賞する予定のため、私とクリスマスをすごしたい人はぜひご検討してほしい。

 公演の詳細はこちらをご覧ください。

prtimes.jp

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