哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

人間関係論のこと

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■人間関係論~ヒトの各成長段階における代表的社交モデルの提示~

 人間はその成長段階の各過程において、様々な社交の形を取り結ぶことになる。例えば、社会に出て、サラリーマンとして働いている人間にとって、第一の枠組みとして会社の内と外、という形が考えうる。そのうえで、これは各会社、あるいは個人個人の性向によるものであるが、会社の中でも自身の所属する一部署の中で、その交友の輪が太く繋がり完結する人、会社全体、あるいは会社外へあまねく、人間関係の糸が伸びる人、時には、その糸が細く直属の上司、社外では親兄弟とだけと結ばれ、何ら広がりを見せぬもの、様々であろうと思う。

 そう、人間の、特に20代中盤以降、その社交モデルは非常に複雑化、多様化することになる。それは会社勤めかフリーランスか無職か、既婚か独身か、家族の有無、様々な背景がそのモデルに影響してしまうからである。

 一方で、10代の後半までのモデルは、ある意味でとてもシンプルだ。もちろん、そのシンプルな代表モデルに全ての人間が、画一的に収まる、と言うわけではない。そのモデルから外れる人間は当然に存在する。しかし、以後の社交モデルの多様性に比べれば、その特異な人間は少数である、というのはまた事実であり、それらの人々を決して軽んじているのではなく、まずは代表事例の提示を行った上で、後にそこから外れた人々の研究に着手したい、という意図をもって、この場を借りて、人間の10歳以下、10代前半、10代後半~20代前半の、代表的社交モデルの提示を行いたい。

 

●第一期

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図1

 人間の成長過程ごとの社交モデルの第一期(6歳~10歳頃を想定)の模式として、図1をご覧いただきたい。丸、四角、三角は、人間のキャラクターの特徴を表す。今回の分析においては、あくまでモデルとして、この世界には三種類の人間がいると、いささか乱暴ながら仮定している。そして丸族が多数派、次いで、四角、三角の順に、社会における各キャラクターの人数が多い、という設定としてる。

 この際、寄せ集められた人々は、おおむね一つの党を結成する(党を結ばない、と言ってもよい)。そして、その大きな集合の中から、基本的には丸族を中心に、首脳陣が結成されることになる。いや、このモデルにおいては、あらかじめ、丸、四角、三角を定義したが、むしろ現実社会においては、この時に結成された首脳陣(選民)とその周囲にいた人が丸族を形成し、そこからの離れ具合によって、四角族、三角族が形作られる、と言って差し支えない。

 いずれにせよ、この段階において、人間のポリシーに大きな個体差がないともいえるし、そもそもポリシーが存在しないともいえる。一党制、ひとまとまり故の、あやふやさが、人々の周囲を取り巻いている。きわめて平和な世界と言えるのがこの時期である。

 

●第二期

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図2

 人間の成長過程ごとの社交モデルの第二期(11歳~15歳頃を想定)の模式として、図2をご覧いただきたい。 この時期において、前期における選民を中心とした丸族は大きな党派を形成し、主流を形作ることになる。一方で、それに入りそびれた、その他の四角と三角とは、その差異には目をつむる形で、非主流をを形成する。ただし、そういった政治信条を棚上げした、対主流としての党派形成である故、その内部は何ら整理されたものではなく、各人がその時々に応じて自由に結びつく、混乱状態となることが多い。一方の主流においては、前期の選民を最右翼(タカ派)として、非主流に対して融和的な左派(ハト派)と中間派が形成され、この各派は時に応じて、その政治信条の微妙な差異に基づき、近づきつつ離れつつ、しかし大筋は主流としての既得権益を守り享受すべきという点では合意しつつ、時に非主流を支配することになるのである。

 

●第三期

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図3

 人間の成長過程ごとの社交モデルの第三期(16歳~22歳頃を想定)の模式として、図3をご覧いただきたい。 この期においては、二つの崩壊が前後して訪れる。まず主流派の崩壊、そして非主流派の崩壊、である。これらはまとめて、主流非主流別の崩壊ともいえる。それぞれに見ていきたい。

 まず、主流派においては、前々期の選民の流れをくむタカ派と、非主流に近いハト派と、その中間派が前期より存在していた。それらの微妙な政治信条の差異がついにこらえきれなくなって、分裂するのがこの時期である。前期において、主流は非主流に対する数的優位を当然に主張するのであるが、それは主流の中においても同様であり、タカ派は他二派に対する数的優位を主張してきた。ただし、タカ派単独での過半数の確保は難しく、微妙な集合と離散を繰り返す中で、主流三派は分解するのである。ここに及んで、主流は非主流に対する、数の理論による支配が不可能となるのである。

 そういった主流の分裂期に、時を同じくして、非主流も分解をすることとなる。分裂した主流に対して、非主流が大同団結して数的優位を主張することももちろん可能なのであろうが、もともと非主流は主流に入らなかったという点のみの緩いつながりであったため、こうしてタカ派、中間派、ハト派の小規模多党が分立する中で、より個々人の差異に着目して、小さな派を形成する必要が出てくるわけである。

 そうして、前期における非主流の中の四角族は、その四角界に引きこもるオタク化(原理主義化)の道を歩むこととなる。その四角族との差異に目をつむりつつ、団結してきた三角族は、一方で一部が無頼派として、党を結ばぬ、あるいはごく小規模の党派を形成する、過激派として活動する。一方で、かえって前々期における選民から最も遠かったはずの三角族の一部が、この期に及んで、丸族の各派のうち、政治的信条の近い党派に接近する、という動きを見せる。

 この期の特徴はこうした、党派規模の縮小と多党分立、そしてそれらの微妙なパワーバランスの移り変わりを称して、一言で、固定から流動へ、という変化が起こる期である、と言える。

 

●総括

 以上、 駆け足ではあるが、人間の各成長過程における、代表的な社交モデルを概観してきた。その歴史は、第三期の解説でも多少述べたが、おおむね混沌状態から秩序状態への固定化の流れと、その反動としての流動化、秩序の崩壊といった、二つのダイナミズム、振り子運動であると言える。

 そうして人間は、冒頭で述べた通り、以後はより一層複雑な人間関係モデルを見せることになるのだが、しかし、その23歳以降の人間を想定したモデルにおいても、おおむねはこの秩序化と混沌化の繰り返しが、局所的に行われるだけであり、結局はすべては流転し続ける、ということが重要である。

 今どれだけ虐げられている人がいようとも、それは決して固定的な全体ではない、流動的な部分に過ぎないのだ、ということを示唆して、この論文を終えたいと思う。