哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

ムーミン展(THE ART AND STORY) @森アーツセンターギャラリー のこと

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ムーミンのFIKAセット

 六本木ヒルズにある、森アーツセンターギャラリーで開催中のムーミン展(2019年4月9日~6月16日)に行って参りました。その際に感じた、会場である森アーツセンターギャラリーに思うこと、および、ムーミン展の感想を、大いに語ります。
moomin-art.jp

■森アーツセンターギャラリーに思うこと

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 森アーツセンターギャラリーは、六本木ヒルズ森タワーの52階にある、美術館であるが、正直いまいちな部分がたくさんあるのである。このムーミン展にしても、まず一般1,800円という入場料金が、他の美術展等と比して、割高のように思うが、これは場所代なのだろうな、と思うのである。そして、それだけの金額をとる割には、展示品目録のような資料がないのである。

 またなんとなく係員が横柄なのである。エレベーター前で誘導する警備員も、場内で線をはみ出さないようにと案内する係も、どことなく声が険しいのだ。それはまあ、色々な人がわらわら押し寄せるのであろうから、指示が高圧的になるのも仕方あるまい、と思う。

 そういった人的な要素に加えて、場内のレイアウトが、一本道の様な順路だてた展示となっていた。これは、私が観覧した日はそこまで混んでいなかったので、すいすい自分のペースで見れて良かったが、混んでくると大行列大渋滞が発生する並びだ。狭い展示室に、多くの展示を上手く配置しているようで、決して楽しくはならない。なんか見せられている感がぬぐえない配置である。点数を減らしてでも、もう少しのびのび見れて、寛げる美術館だといいのになあ、と私としては思うのだ。

 これらは、もう少し人の少ないところにある、落ち着いた雰囲気の美術館と、ある種イベントスペースの様な、こちらの違いなのだろうと思う。だから、決して、それを直せとも言わないが、私自身はその展覧会に行くかどうか、この会場であれば確実に割り引いて考えるな、と思う。

 そういう意味で、同時期に、同じだけ興味のある展示を行うとして、私が選びそうな美術館は、まず千葉市美術館である。これは単純に、自分の住んでいる市内にあり、そこまで混雑しないという、立地的な問題である。その次に、私のお気に入りは、日本橋三井記念美術館である。さして広い美術館ではないが、スペースを上手く使って、少ない点数を綺麗に見せる、また解説もわかりやすい、良い美術館である。日本橋という立地も落ち着いていてよい。もう一つ、あげるのであれば、広尾の山種美術館を推す。こちらもこじんまりと、落ち着いて時間を過ごせる美術館だ。これらの美術館は、展示のテーマにプラスして箱の魅力を加味するだろうな、と思うのだ。

ムーミン展のこと

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 さて、肝心の展示はというと、非常に面白かった。

 まずムーミン童話の発刊順に、その表紙や挿絵の、原画やスケッチ等が、順々に展示されている。原画も、当初はインクの濃淡を使って描いていたものが、細かい線で陰影を表す、トーベ(ムーミンの作者、トーベ・ヤンソン)らしい画風になって、大変興味深い。その濃淡を使って描いた、最初期のムーミン谷の彗星の挿絵は、なんとなく日本のアニメ(セル画)に近いような風合いで、もともと、ムーミンという題材が、コミックス向き、アニメ向きのキャラクターであったのかも、と思わせる。

 またそういった挿絵の原画に、普通に修正液の様な白消しが使われているのが、興味深い。確かに、印刷してしまえばわからないものなので、書き直すよりそちらの方が簡便なのであろうが、なんとなく芸術作品、と身構えて観に行ったものに、そうした事務的な痕跡が見られると、拍子抜けしてしまう。

 むしろ、より関心をそそられたのは、直接の原画ではなく、習作のスケッチの方である。色々描いてみて、良いものを原画としているのだろうな、と思う。同じ、例えばムーミンならムーミンの絵を、色々なアングルや表情で描いていたり、えんぴつで細かなメモがされていたりする。もっとも、メモの方はスウェーデン語なので読めない。また、話の流れに沿って、大まかなイラストをマンガのような形で、構成というか絵コンテの様なものを作っているのも、制作過程を感じることができて、面白かった。

 その後、展示は、絵本のこと(そういえば、コミックスのことはあまり触れられていなかった)、ガルムの挿絵や表紙でのムーミンの登場のこと、日本とトーベの関係のこと等、様々なことに触れるのだが、私の印象に残っているのは、フォーレニングス銀行の広告にムーミンが使われたときのものである。

 ムーミンが花の配達をするなどしてお金をためて、貯金をする、という物語のようであるが、ムーミンとお金、というのが、なんとなくミスマッチで、興味深いと感じたし、今普通に日本ではムーミンがCMのキャラクターとして登場する(東洋大学日本ハムキシリトールガム、スズキ、いすみ鉄道)わけだが、今から60年以上前のフィンランドでもムーミンが広告塔になっていた、というのはなんだかおもしろい。

 またムーミンの絵本にはほとんど触れていなかったのだが『ムーミン谷へのふしぎな旅』について、大きく触れられており、ちゃんと読んでみたいと思った。トーベ版、不思議の国のアリス、といった趣である。ちなみに、トーベもアリスの挿絵を描いたことがある。 

  そんなわけで、展示の内容としては、とてもよかったです。ムーミンをキャラクターとしてだけ知っている人も、きちんと童話のあらすじ付きで展示されているので、お気軽にお楽しみいただけると思います。併設のカフェTHE SUNでの限定コラボメニューも可愛いよ。高いし、接客態度悪いけど。という、勧めているんだか貶しているんだか、よくわからんお話でした。