哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

第20回記念 吉左右会 @セルリアンタワー能楽堂 のこと

 
QUEEN THE GREATEST POP-UP STORE / 右 渋谷区立松濤美術館

 午後6時30分開演の「第20回記念吉左右会」を拝見するために半休をとった。せっかくの半休なので、渋谷のセルリアンタワー能楽堂に赴く前に、所用で原宿の街をぶらぶらしていたら、アンノン原宿に「QUEEN THE GREATEST POP-UP STORE」(~12月11日)が出現しており、ちょっとだけ散財した。このところ私は、よく散財している。先日もAmazonブラックフライデーセールにて、いるんだかいらないんだかよくわからないものを、たくさん購入してしまった。いずれいるようになると良いな。

 ともあれ、原宿での用事を済ませて、渋谷へ移動した。渋谷区立松濤美術館ではしばしば「館内建築ツアー」を開催していて、この日もたまたま開催日であった。ツアーは午後6時からなので、本当に冒頭(外観の説明)だけ拝聴させていただいた。白井晟一による建築に触れることができるようである。楽しそう、絶対改めてお伺いして、フルバージョンを聞こうと思う。

●2022年11月25日(金)第20回記念 吉左右会 @セルリアンタワー能楽堂 のこと

 

 名乗るほどの者ではない。ただ私は長年山に籠り修行を積み、麓の村の人々の困りごとを解決してきた山伏である。

 私の目の前には、まだ少年と言っても良い若者が座っている。ぐったりとして、元気がなさそうである。何でも山に入って梟の巣を下ろして以来、物の怪に憑かれた如く、調子が良くない、とのことであった。恐らく、山の梟に憑かれたのであろう。少年を連れてきた兄は心配そうな顔をして私を見ている。大丈夫、そんな気持ちを込めて私は兄に微笑みかける。

 とはいえ、やってみないことには術が効くのか否か、わからない。簡単な印を結び物の怪に対抗することにして、私は呪いを唱え……ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜ほぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜んん!!! 弟が一鳴きすると、周りに激しい衝撃が走り、私もそばで見守る兄も吹き飛ばされそうになる、何のこれしきと私はなおも術を続けると……、ほーーーーーーああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!! 次の弟の一鳴きに私も兄も吹き飛ばされてしまった。

 すぐさま立ち直った私は、よろめきながら倒れている兄に近づく。大丈夫か!? 声をかけ、兄の頬を二、三度ぺちぺちと叩くと、目を見開き、ほーーーーーーぅ! ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぅぅぅ!!

 いかんいかん、兄にも症状が伝染ってしまった、かくなる上は、私はより強力な印を結び、呪いを唱える。これで! ほーーーーー、ほーーーー! ほっほーーー、ほほーーーー!! 兄弟はもはや絶え間なく鳴き叫び、羽ばたくかのように両手を広げて森の奥深くへ進んでいこうとする、ほっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜っぅぅぅ!!!

 私はまた吹き飛ばされ、印が解ける、まずい私の周りを取り囲んでいた結界が破られ、何かが身体に入り込んできたのを感じる、私の中に入り込んできたソレは、腹の中から喉へと上がり、私はその吐き気を必死に、堪え、喉が、苦しい、吐き、出る!!! ほーーーーーーーーーーっ、ほぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜ぅぅ!!!!!!!!! ほっほぉぉぉぉぉぉぅぅぅぅぅぅ!! ほぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!!!

 

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 ざっと、こんな内容である。パニック映画のようだ。吉左右会で拝見した狂言「梟」の話である。吉左右会は狂言方大蔵流の大藏吉次郎御一門のによる狂言の会であり、吉次郎のご子息である教義によるおはなしと「笑い」から始まる。以前はみんなで笑って始める会だったそうだが、新型コロナ感染症予防のため、教義の一人笑いである。

 この会、私はこれほどまでに行き届いた能楽公演に初めて参加した。上にYouTubeの動画を参考として上げたが、丁寧な(上演と同じくらいのボリュームの)事前解説動画があり、当日の無料配布のプログラムもあらすじや出演者紹介等、かゆいところに手が届く内容で素晴らしい。

 狂言ばかり三番、この日の演目は「末広がり」「梟」「武悪」である。

 「末広がり」は狂言師にとって一つの節目となる演目だそうで、そうした作品で初めて主演することを、披キという。今回は上田圭輔にとって「末広がり」披キの上演であった。上田は現在30代半ば、共演した大藏康誠は10代である。若々しい、緊張感溢れる、良い舞台であった(他に大藏彌太郎が出演)。「梟」は前述の通りのとびきり不思議な話。山伏役の榎本元を相手に、大藏章照・榎本朔太郎と、やはり若い二人が活躍した。

 そして「武悪」である。主君に背く武悪とその首を取りに来た太郎冠者という、狂言にあるまじきシリアスな設定。教義の武悪と基誠の太郎冠者がバチバチと非常に緊張感溢れるシーンを演じたかと思えば、主人の吉次郎が加わり、やがでコメディパートになる。緊張と弛緩、狂言の表現の幅の広さを感じたし、三人の息のあった演技の素晴らしさを目の当たりにした。とても面白かった。次回もぜひ、伺いたいと思いました。

 

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