哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

能楽どうでしょう005「2023年5月21日 第23回吉次郎狂言会」のこと

能楽どうでしょう005「2023年5月21日 第23回吉次郎狂言会」のこと


リコプア(東京都渋谷区)

 2023年5月21日、渋谷区千駄ヶ谷国立能楽堂で催された「第23回吉次郎狂言会」を拝見したので、感想を記す。

【第23回 吉次郎狂言会】

●とき/令和5年5月21日(日)

●時間/午後2時開演

●場所/国立能楽堂

●番組

入間川

シテ(大名)善竹十郎
アド(太郎冠者)上田圭輔
アド(入間某)野島伸仁

「居杭」

シテ(算置)大藏基誠
アド(居杭)大藏章照
アド(何某)大藏彌太郎

「河原太郎」

シテ(太郎)大藏教義
アド(妻)善竹大二郎
アド(立衆)榎本元
アド(立衆)吉田信海
アド(立衆)小梶直人
アド(立衆)大藏康誠
アド(立衆)上田圭輔

素囃子「神楽」

大鼓/大倉栄太郎
小鼓/田邊恭資
太鼓/桜井 均
笛/熊本俊太郎

「八尾」

シテ(閻魔大王)大藏吉次郎
アド(罪人)大藏彌太郎

終了午後4時30分頃

●あらすじ

■「入間川」「入間の逆言葉」と言って、YESと言えばNOであり、NOはYESである。そんな逆言葉を使って、大名と何某の逆言葉対決?が始まる。

■「居杭」 姿が消える頭巾を手にした居杭。居杭を探し当てる算置(占い師)。見えないことを良いことに、散々いたずらしてしまう居杭ですが…。

■「河原太郎」 妻が商売している酒を飲もうとするも断られる夫の太郎。腹いせに散々悪口を言って悪態をつき、なんとか酒を飲ませてもらうが、「滝飲み」をしているうちに…。

■「八尾」 八尾の地蔵から文を持ってあの世へやってきた罪人。そこへ閻魔王が現れ地獄へ落とそうとするが、罪人は八尾の地蔵からの文を差し出すと、閻魔王はタジタジ…。地蔵と閻魔王の関係やいかに?

大藏流吉次郎狂言会 (kichijirou-kyougenkai.jp)

●第23回吉次郎狂言会のこと

 狂言方能楽師は大きく二つのグループに分けられる。大蔵流和泉流だ。さらに大蔵流の中でも宗家である大藏彌右衛門家、茂山千五郎家茂山忠三郎家山本東次郎家善竹彌五郎家の五家に別れ、本公演は二十四世宗家大藏彌右衛門の弟、大藏吉次郎と子息の大藏教義を中心に、大藏彌右衛門家、善竹彌五郎家のメンバーが出演する公演である。個人の感覚になるが両家の印象はとにかく笑顔で楽しそうで幸福感高い舞台を演じる、というもの。今日拝見した感想もまさにその点を強く感じ、大変楽しい舞台だった。

 「入間川」では序盤、大名が都から国元へ帰る道行を演じるのだけれど、大名役の善竹十郎は私が大好きな大ベテラン。富士山を見てここは駿河の国か、武蔵野を見てここは武蔵の国かと、旅の様子を表現してくれるのが、リアル。実際は能舞台上をぐるりと回るだけなのだけれど。舞台ワキ柱(上手)に入間の人、橋掛リ(下手)に大名と家来と分かれて話をするシーンは、間に本当に川が流れているように思える臨場感である。「居杭」では、大藏彌右衛門の子息、彌太郎と基誠が演じる大人を、彌太郎の子息章照演じる子どもが大いにからかう話。狂言の面白いところは、実際の親子やおじおいという関係の親族が、舞台上でも大人と子供、親子やおじおいを演じるところで、現実とリンクするかのようで面白い。

 「河原太郎」では酒屋の夫婦を大藏教義と善竹大二郎が演じる。狂言の女性は、男性が女性を演じる(能では役職、流儀によって女性プロが存在するが、狂言では原則的には女性プロが認められていない)にあたり、まるでリアルを追求せずに笑いを狙いに行っている感がある。それにしたって、爽やかイケメンの大藏教義の妻役に善竹大二郎はズルい。大柄で優しそうなビジュアルの大二郎が女性の格好をすると、いかにもたくましいおかみさんに仕上がる。その見た目だけで目を引く。

 素囃子(お囃子だけの演奏)「神楽」を挟んで「八尾」。罪人を地獄へ責め落とそうとするシーンは、動きがあって格好良かったが、能仕立ての後半はちょっと、私には難しい。

 

●誠翔会のこと

 また大蔵吉次郎の甥にあたり、上記吉次郎狂言会にも出演していた、大藏基誠が 7月17日(月・祝)に自身の会を、同じく渋谷区内のセルリアンタワー能楽堂にて開催するため、以下に公演詳細をご案内する。初めてでも気軽に楽しめる三演目なので、ご興味を抱いた方は、ぜひ足を運んでみては。

誠翔会
大藏基誠を中心に活動する誠翔会
未来を担う狂言師の育成を図るべく誠翔会主催で狂言会を開催いたします。
大藏基誠の一番弟子である冨田昌美に狂言師としての最初の難関である演目
「末広がり」を披かせます。
まだまだ修行途中ではございますが初々しい姿をお楽しみ頂けたらと存じます。

日時/7月17日(月・祝)14:00 – 16:10

場所/セルリアンタワー能楽堂(〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町26−1 地下2階)

番組/
[お話し]  大藏基誠
[痺痢]   浅野蒼啓 小梶直人
[末広がり] 冨田昌美 大藏康誠 吉田信海
-休憩-
[棒縛]   田中惇之 大藏教義 大藏基誠

狂言「誠翔会」 出張公演や稽古場など (kyogen.info)

 

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