■絵画等のこと⑫
千葉市美術館にて令和5年2月26日(日)まで開催していた「没後200年 亜欧堂田善 江戸の洋風画家・創造の軌跡」を拝見したので以下に感想を記す。
●「没後200年 亜欧堂田善 江戸の洋風画家・創造の軌跡」@千葉市美術館 のこと
亜欧堂田善は1748年に現在の福島県須賀川市に生まれた画家で、当時はその技法すら広まっていなかった銅版画を習得し、活躍した。本名は永田善吉、兄の丈吉も崑山という号で絵を描く人だったそうで、田善も家業の染物業の傍ら、絵を描いていたそう。そんな田善が画業に転身するのは四十七歳の頃。白河藩主松平定信に取り立てられて、絵師・谷文晁に学ぶほか、銅版画の習得を命じられる。この事実は私を大いに勇気づけるものである。私自身こうして書くことが好きで書いているけれど、本業は別にあるわけで、それでもある日その才能が殿様に認められて転身する可能性があるわけである(多分ない)。
銅版画については医学書など学術書や地図に正確な図を載せるために期待されたもので、田善は六十代にして、初の銅版画による解剖図『医範提綱内象銅版図』や幕府初の世界地図『新訂万国全図』の発行に携わって名を残す。もちろん芸術分野でも大いに活躍し銅版画や洋風画の作品を多数残している。そんな展示作品の中で、特に気になった作品を以下に記す。
- 白雲「岩瀬郡須賀川町耕地之図」
田善の故郷を浄土宗の僧が描いたもので、その名の通り、行政資料として耕地の様子を記録するのに使われたものだそうであるが、鳥瞰図で細やかに土地の様子が描かれていて、大変面白い。 - 昇亭北寿「甲斐国猿橋ノ真瀉之図」
猿橋は日本三奇橋の一つだそう。 - 亜欧堂田善「山水人物図」
油彩画による山水画で珍しく感じた。 - 亜欧堂田善「花下遊楽図」
福岡柳川藩伝来の作品。犬もいて御殿山で花見をしている様子。 - 鍬形蕙斎「江戸名所之絵」
非常に細かく良い。 - 亜欧堂田善「二州橋夏夜図」
爆発をしたような花火の描写が面白い。ところで、田善は煙を気に入って、描写にこだわる人だったそうである。 - 亜欧堂田善「大日本金龍山之図」
浅草寺である。仁王門の周りの兵を撤去して西洋画のような広大さを出し、本来観音勢至の二菩薩がいる場所に、阿弥陀如来一人を描く等、現実にアレンジを加えているとのこと。後述の「ゼルマニヤ廓中之図」とは日本と西洋の景色を描いた姉妹作と言われている。 - 亜欧堂田善「新鐫総界全図・日本辺界略図」
かっこよい。 - アワウテンセン「スサキヘンテン」
不気味で面白い。アワウテンセンについては後述。 - ウマイル:亜欧堂田善「曳馬図」
田善初期の銅版画作品で、この頃ヨハン・エリアス・リーディンガー ほか による「プロシア馬/トルコ馬」といった、各国の馬と人を描いた銅版画をお手本に制作に取り組んでいたようで、馬の出てくる作品が数多くあるようだ。本作では大型のやや怒った顔の馬を曳馬している。かっこいい。 - ウマイル:亜欧堂田善「江戸城辺風景図」
後ろのほうで馬に走られている感じの人がいる! - ウマイル:昇亭北寿「江之嶋七里ヶ浜」「武州千住大橋之景」
日本初の腐食銅版画作品である「三囲景」の作者である司馬江漢は一度田善を破門したことがあるそうだが、後にその才能を認めて後悔したとか。司馬江漢による油彩画「七里ヶ浜図」は多数の絵師にお手本とされていたそうで、田善は実際の景色に近い江漢のそれから富士山と江の島の並び(レイアウト)を変えて「七里ヶ浜遠望図」を描いている。「江之嶋七里ヶ浜」は昇亭北寿がその江漢の絵を浮世絵として描いたものだそう。 - ウマイル:亜欧堂田善「銅版画東都名所図 桜田馬場射御之図」
馬いる! - ウマイル:亜欧堂田善「ゼルマニヤ廓中之図」
ヨハン・ニューホフ『東西海陸紀行』、ジャック・リゴー ほか「パリ市庁舎眺望」および「古代ローマ繁栄の図」等を基に描かれた壮大な作品であり、丁寧で見ごたえがあった。このように田善は様々な海外の絵画・銅版画からモチーフを組み合わせたり、絵画や地図に描かれたデザインの一部を流用したりしている。そうする中で独自の技術を磨いていったのだと思う。何かを習得する際に参考としたい方法である。
田善にはテンセン、アワウテンセン、アヲヲテンセンという署名の作品が残っている。これらが本当の田善の作品なのか、大変興味をそそられた。キャプションでは田善の作品よりも人々の風俗に主題が傾いている点や、技量が稚拙に感じられる点が指摘されていた。これは私の妄想であるが、田善を騙ることで作品を売ろうとした贋物がいたのかもしれないし、あるいは田善が別人のふりをして新たな作風を模索したのかもしれない。それは私にはわからない、調べていけば何か手がかりがあるのかもしれない。けれど、贋物・贋作ということには大いに関心を抱かされる。今後も色々と調べたり、考えたりしていきたいと思う。