哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

能楽どうでしょう004「2023年4月8日 第9回花乃公案」のこと

能楽どうでしょう004「2023年4月8日 第9回花乃公案」のこと


ナンバーセブン ポッケンロール(中野区中央)

 東中野の梅若能楽学院会館にて催された、第9回花乃公案 公演を拝見してきた。午前11時開演は千葉県民にはややつらい。上演は「蝉丸 替之型」シテ 浅見慈一、馬野正基 「寝音曲」シテ 高澤祐介 「船弁慶 前後之替」シテ 北浪貴裕。

 能「蝉丸」、ストーリーは存じていたが初めて拝見した。醍醐天皇第四子の蝉丸は盲目ゆえ簑、笠、杖を渡され捨て置かれる。そうした様を装束を脱がせるなどビジュアルで表現してくれるので、わかりやすく感じる。常の演出だと蝉丸はシテ(主役)に付き従うツレとして扱われるが、替之型という演出で、今回は姉の逆髪とともに、両シテとして扱われる。
 物語はそうして逢坂の関で侘住いをする弟蝉丸と、何故か髪が天に向かって伸びていくことで心を病んだ姉逆髪とが、めぐり逢い、そして別れていくというもの。蝉丸の浅見慈一、逆髪の馬野正基とそれぞれの演者の特徴がキャラクターに反映され、繊細な蝉丸、芯の強い逆髪が現出する。舞台を離れ姉弟の様子が眼前に浮かぶのは、演じ手の力量が為せる技であろう。物語の進行を助けるアイ、本曲では蝉丸を憐れみ藁屋を用意する博雅の三位こと、源博雅は史実では醍醐天皇の孫にあたり、逢坂の蝉丸のもとに通い詰めて琵琶の秘曲を授けられた雅楽の名手とのこと。

 狂言「寝音曲」は主人から謡を所望された召使いが、それに応えて何度も頼まれると困ると、女の膝でないと謡えないと逃れようとするが、主人の膝で謡うはめになるという笑える作品。最後に謡われるのが能「海人」の玉之段というシーンだったが、調べるとこれは和泉流の演出で、大蔵流だと「放下僧」の小歌なのだそう。

 能「船弁慶」はやたらと何度も見ている曲である。調べてみたところ、2019年5月31日第4回み絲之會(セルリアンタワー能楽堂)能 船弁慶 シテ 柏崎真由子、2019年7月31日エッセンス能 多様性(国立能楽堂)半能 船弁慶 シテ 髙橋忍、2020年1月18日 金春円満井会(矢来能楽堂)能 船弁慶 シテ 安達裕香、2021年3月31日第31回久習會(国立能楽堂)能 船弁慶 シテ 荒木亮、2022年5月8日 金春信高十三回忌追善 春黎会大会(国立能楽堂)仕舞 船弁慶 後 シテ 金春初音、そして今回の2023年4月8日 第9回花乃公案(梅若能楽学院会館)能 船弁慶 シテ 北浪貴裕と、能を習慣的に見るようになってから毎年一回は能にせよ仕舞にせよ、船弁慶に触れていることになる。
 私も大好きな作品で、きっと他の方にも人気の演目なのだろう。本作は頼朝から逃れるために旅をする源義経を中心に、前半は静御前が主人公で静と義経の別れを描き、後半は平知盛を主人公に義経に恨みをもち襲いかかる平家の武将たちと弁慶・義経の戦いを描く。静と知盛、全くの別人を一人のシテがつとめ、優美な女性の舞のようすと、勇壮な薙刀を振り回す戦いの様とを、演じ分ける点に眼目がある。後半、幕を半分だけ開けた中からの謡に続き、知盛が登場する。ダイナミックな舞がかっこよかった。義経は子方という、能の子役が演じる。武田祥照の長男智継(さとつぐ)で大人たちを率いて出てきたときから可愛らしい。調べたら5歳らしい。そしてさらに調べていたら、お父上が4歳のときに船弁慶の子方をつとめたさいの写真が出てきた。似ている!

 次回、節目の第10回公演は、2023年11月23日(木・祝)水道橋の宝生能楽堂にて午後1時より、能「鉢木」舞囃子「葛城」能「卒塔婆小町」、9月上旬のチケット発売の予定だそう。

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