哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

STAR WARS Identities: The Exhibition @寺田倉庫G1 のこと

STAR WARS Identities: The Exhibition のこと

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  天王洲アイルの寺田倉庫G1にて開催中の、STAR WARS Identities: The Exhibition 通称スターウォーズ展に行ってきた。 私が興味を持ったのは、映画で実際に使われた道具等を展示しているという点に加えて、展示を見ながらリストバンドを使って質問に答えて、自分だけのオリジナルキャラクターを作ることができる、という点。そんなことをネット記事で拝読し、さっそく足を運んだ次第である。

 さて、この展示を拝見するにあたり、まず思ったことは、寺田倉庫ってなんだ?というところであった。調べてみると、寺田倉庫社長の中野善壽氏がかなり興味深い方で、彼を主体に寺田倉庫として天王洲アイル周辺の街づくりをし、現代アートパトロンとなっているそうで、この展示施設もその一環なのだろう。

 この展示、まず予約がよくわからない。1時間ごとの時間指定で、ネットでの事前予約を受けて付けており、チケットは紙があるわけではなく、スマホで表示をさせると、入場時にもぎりのスタッフが使用済みの処理をしてくれる。めっちゃハイテク。

 そんなわけで13時スタートのチケットを予約したのだけれど、チケットの注意事項や公式サイトから、果たして13~14時で、一同まとまって鑑賞するのか、13時から入場まで並ぶことになるのか、13時以前に来場して待機したほうがいいのか、14時になったら出なきゃいけないのか、色々分からない。わからなかったけれど、とりあえず予約の13時の10分強前に到着すると、ありがたいことにまったく混雑はしておらず、13時の予約の人も入場できるとのことであったので、エレベーターで5階の会場に上がり、少し待たされた後、全員レンタルすることになる、イヤホンガイドとリストバンドを装着して、それらの使い方のレクチャーを、同じ時間帯に入場してきた20名程で受けて、そこからは勝手に鑑賞して、勝手に帰ってね、という、いわば私のよく知る美術館・博物館と大きな違いはなかったので、すこし安心した。14時に来場する人が来たから出ていけ、と言われることもなく、割とゆっくり、全作品をきちんと見て、2時間くらい、楽しくすごすことができた。

 

●あたなただけの『スター・ウォーズ』ヒーローと出会えるインタラクティブ体験

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 さてソレでである、自分だけのヒーローを作ることができるという、アレである。コレは前述のリストバンドを使って、ナニするのである。 このリストバンドはシリコンでできていて、中にICチップみたいなものが入っていて、まあつまりSuicaとかICOCAみたいなものなのだろう。まず最初に、自分のヒーローの種族を選ぶ質問がある。私はチューバッカみたいな毛むくじゃらな男性が好き、というわけではないのだが、ウーキーを選択する。ウーキーのイラストの下のアレにリストバンドをナニすると、私が何を選んだかが、何らかの箱に記憶されて、そのデータが積み重ねられて、最終的に我がヒーローとなるのであろう。

 質問の中には、こうした自分の好みを単純に選ぶものから、リストバンドをタッチしたうえで、タッチパネル式のディスプレイで自分の出身惑星や、その惑星で休日に何をやっていたかを選ぶような質問、さらにより複雑な、自分の価値観や生い立ちを答える質問も存在する。

 こうした質問が10ステップあり、それに関連したテーマの展示がなされる、という流れである。例えばこうした種族を選ばせる質問の後に、スターウォーズの世界に登場する、様々なエイリアンやドロイドが紹介されるのである。

 中でも難儀した質問が、自分の仲間について問うもので、友達と同時に二つのアレをタッチしてね、というものである。おひとりさま来場者に対する挑戦である。孤高の聖人に対する宣戦布告である。と憤っても仕方がないので、その辺りできょろきょろしていると、見ず知らずのやはりソロ活動中のおっさんが、やろうぜ、と話しかけてきたので、十年来の友達の様な雰囲気で一緒にリストバンドのタッチを行い、しかる後、別れる。

 そんなこんなで苦心の末に完成した私のヒーローは、ナブーで農民をしているのに何故かクワイ=ガン・ジンの指導を受けており、フォースはまるでないのに何故か皇帝から勧誘されたのを拒絶したウーキー族という、ヘンテコな人である。楽しい。

●200点以上の膨大なオリジナル・コレクション

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 さて、そんな物珍しい企画もあっての本展であるが、その展示品も目を引くものがたくさん展示されている。その全てが映画制作時に描かれたコンセプトアートであったり、小道具や衣装、人形で実際に撮影に使われたか、同じものが撮影に向けて複数用意されたものの一つか、であり、つまりどれもこれもが、実際の映画制作時の必要に応じて作られた物品、ということである。

 中でも様々なキャラクターの、構想当初の姿というのは面白い。ジャバ・ザ・ハットのビジュアルの点は有名な話だが、今でこそ、あのなめくじの様な姿を現実に目にしているから、あれが正解のように思われる。しかし、ああいったエイリアンを一から想像して考えだす、それも映画撮影をするという技術的な制約もある中で、ということの苦労はいかばかりであっただろうと思う。他にもチューバッカのビジュアルも当初は違っていたし、あのルーク・スカイウォーカーでさえ、異なった人物設定がなされていたりと、世界が形作られていった経緯を見ることができることは、本展の楽しみの一つである。

 また先に記した通り、本展では来場者全員がイヤホンガイドをつけている。ヒーロー作りの10のステップに関連した、ルークとアナキンのバックボーンや決断を対比した、ショートムービーが鑑賞可能な他、展示の各所に解説が流れるポイントがあるので、それを聴きながら作品を楽しむことができる。これは他の美術館・博物館でよく見かける、作品の脇についたキャプションを読むことに比べて、作品を眺めながらまさにその作品の解説を聴くことで理解が進むし、キャプションと作品とで視線を行ったり来たりさせる苦労もなく、人々が滞留することも防げ、かと言って会場の誰もが視聴できるようなビデオを流すことで、遠くの人の耳を煩わせて他作品の鑑賞を邪魔することもなく、なまらスマートである。

●総括 

  この展示は上記のような形で、一言でいえばハイテクである。入場料金3,000円超えという、いささか高めのプライシングであるが、こうした今だからできる技術をふんだんに使った展示を体験できることを考えれば、決して高すぎるとは思わない。今後、こうした展示は、中途半端な価格設定で点数ばかり多く、人込みにもまれる満足感の低いものよりも、こうした高めの価格設定で、その分、鑑賞のしやすさや見どころを重視したプランが流行るのではないか、と思う。

 しかし、そうしたハード面以上に、本展が素晴らしいのはそのテーマ設定である。スターウォーズという映画において、アイデンティティという点は、重要なポイントであるけれど、マストではない部分だ。そういったとっつきやすいテーマを設定したことにより、スターウォーズの世界にも深みを与え、スターウォーズを例えば旧三部作を見ていない人などにも理解しやすいような、間口を広げた形で紹介することができているのではないかと感じた。

 ルーク・スカイウォーカーアナキン・スカイウォーカーの生い立ちであったり成長過程、経験、決断、彼らを取り巻く人間関係を抜き出したことで、スターウォーズの物語を読み解く一つの視点を与えることができるし、その結果として、紹介した通りのリストバンドを使った、新たなキャラクター、自分のヒーロー、つまりもう一つのアイデンティティを作り出すという目玉企画に繋がっていく。

 恐らく今の時代、スターウォーズスターウォーズとして展示しただけでは、それはスターウォーズの世界だけの出来事に終わってしまう。しかし、それにプラスしてアイデンティティというテーマを設けたことで、この展示は本当に広く色々な人に見てもらいたい内容になったと思う。そういうわけで、とてもオススメでありました。

■参考資料

www.starwarsidentities.jp

gendai.ismedia.jp

www.recruit.co.jp

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