■絵画等のこと⑰
千葉県立中央博物館にて開催中の「令和5年度秋の展示 手のひらのメディア ー 吉澤貞一マッチラベルコレクション ー」を拝見してきたので、感想を記す。
展覧会情報
令和5年度秋の展示 手のひらのメディア
- 吉澤貞一マッチラベルコレクション -会 期 令和5年10月3日(火)~12月24日(日)
会 場 千葉県立中央博物館 第1企画展示室、第2企画展示室
休館日 毎週月曜日(祝日の場合は翌平日)
入場料 一般300円 高校生・大学生150円
※次の方は無料:中学生以下・65歳以上の方(年齢を示すものをご提示ください)・障害者手帳をお持ちの方(手帳もしくは手帳アプリをご提示ください)及び介護者1名
●令和5年度秋の展示 手のひらのメディア - 吉澤貞一マッチラベルコレクション -
説明に"国産マッチは、明治9年(1876)に東京本所の「新燧社」ではじめて作られ、その後日本各地にマッチ会社が作られ、マッチ製造は、一大産業になっていきます。"とあり、実際にその当時のマッチから昭和に至る様々なマッチラベルが拝見できる。新燧社のマッチラベルに馬を描いたものと、桜を描いたものがそれぞれ複数あった。私が好きな動物が馬であり、好きな植物が桜であることを知っての所業だろうか? そういえば、馬肉のことを桜肉と呼ぶ。能などで使われる大鼓、小鼓はしばしば桜製の胴に馬の皮を張る。色々縁があるのかもしれない。
当初はマッチ会社の商標やマッチであることを示すデザインがなされていたマッチラベルだが、段々と動植物等の手に取りやすいイラスト(マッチの販売促進)、世相を反映するもの(日英同盟の締結をつたえるものや、戦意向上、健康増進等を訴えるもの)、店や企業の宣伝等のデザインに移り変わっていく。
動植物のデザインでは、さすが千葉県立中央博物館での展示だけあり、隣に実際のジオラマを配して見比べることができたり、マッチラベルに描かれたカニやエビがどの種類にあたるのか、あるいは実在しないものなのかなどを同定していて、面白い。東欧ではきのこのイラストに、その毒性の有無等のきのこ図鑑トレカのようなマッチラベルもあったそうで、そちらにはもちろん、きのこのジオラマが並べられている。
また地元民としては、千葉県内の広告マッチラベルにて、地元の昔の姿を感じることができるのも良い。京成電鉄等の鉄道周辺の広告や飲食店の広告等。大きなところだと稲毛海岸や千葉銀行、ほてい家等。
別室の「マッチラベルを通してみる盛り場」では、マッチラベルがしばしばカフェ等の広告に使われていたことから、店で働く女給の労働状況、カフェ文化への当時の証言などをまとめており、勉強になる。当時のカフェといえば、いまのような珈琲や軽食をとる飲食店ではなく、そこで働く女給目当てに訪ねる水商売のようなものであった様子。証言を見ていると"エロサーヴィス"云々といった、露骨な表現が目に入る。
現代でも女性にせよ、男性にせよ、その性を売りにした水商売や風俗業があり、需要と供給のバランスが取れているからこそあるのだと思うけれど、当時のほうがそうしたことがよりオープンであったように感じ、また同時に売り手側が女性ということが大半であったのだろうなと、考察する。展示されている調査を見ると、女給を始めた理由は収入のためという回答が大半である。この仕事の良いところ悪いところについては、良いところはないあるいはやめたいといった回答が多いようで、具体的に良いところとして上がっているのは、社会の情勢や男の心情がわかるといったものが一定数、といったところ。現代の水商売などと比して、女性が働く場所の選択肢が少なかったこと、またこうして働きに出なければ、社会の情勢がわからない(女性が締め出されていたようである)ということを感じる。
余談だが資生堂パーラーが、薬局の始めたソーダファウンテンと紹介されていて(当時はそうした例が多かったそう)、そうか資生堂って薬局だったのかと、知った次第である。化粧品屋のイメージはあったけれど、そうかそうか。
ともあれ本展では、手のひらのメディアというタイトルのとおり、マッチラベルがいかに重要なメディアであり、広告塔であったかを概観できる。企画展は一時間ほどで回れるようにまとまっており(常設展含めて全館見ると一日がかりである)、よい内容だと思う。