哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

頼政・葛城・百万のこと

f:id:crescendo-bulk78:20191107233852p:plain百万……?

 能を見る前は、できるだけその演目について、知ってから鑑賞するようにしている。特にこのところ大切に感じているのは、詞章を読み込むことである。能の詞章(セリフとウタイ)は、室町時代の文語で書かれているので、意味がパッと分からないことがある。パッとは分からないが、テキストとして読む分には、全くわからないのではなく、調べながら読めば、きちんと言いたいニュアンスは分かる。また当日の演目においてそれを耳にした時には、能面の中でくぐもった声、意図的な低い声となるため、そもそも聞き取ることさえ難しくなる。そんなときに詞章をあらかじめ入手して、それに目を通しておき、公演中もちらちら詞章を確認すると、大分話の流れが分かり、楽しく能楽鑑賞ができる。あらすじだけ調べておけばOKという人も多くいらっしゃると思うが、今のところ私にはそれは馴染まなかった。能という芸能は、そもそも途中で眠るものである。そうなったときに、 あらすじを知っているだけでは、自分がどこからどこまでタイムリープしたのかわからなくなるが、詞章があれば多少は安心である。だから私は詞章に目を通すのである。そして以下は、次回の能楽鑑賞に向けて、私がその日の演目と格闘した、メモ書きである。

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頼政のこと

・なほ行く末は深草や: 小町の百夜通いで有名な深草少将(「通小町」「卒塔婆小町」)の屋敷は深草の里の欣浄寺京都市伏見区)にあったとされる。

・恵心の僧都:『源氏物語』に登場する横川の僧都のモデルとされる。

勧学院の雀は蒙求を囀る:勧学院の雀は、学生が「蒙求(易経の一句)」を読むのを聞き覚えて、それをさえずる。ふだん見慣れ聞き慣れていることは、自然に覚えるというたとえ。門前の小僧習わぬ経を読む。

喜撰法師六歌仙の一。宇治山の僧。

・朝日山:平等院山号平等院は元、光源氏のモデルとされる、源融(「融」)の別荘。

・蝸牛の角の争い:つまらない争いのこと。

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■葛城のこと

葛城山大和葛城山奈良県御所市と大阪府南河内郡の境にある金剛山地の山の一つ。かつては金剛山を含む葛城山脈を総称して、葛城山と呼ばれていた。

・笑止:困っていること。困っている様。

・岨:山の崖が切り立って厳しいところ。

・常陰:山間のいつも陰になって日の当たらないところ。 

・無影の月:コトバンクによると、無影=「影のないこと。光のないこと。また、光のうすいこと」どっち?どっちなの、月が真ん丸なの? それとも光ってないの? 能ドットコムのストーリーペーパーは、「影のない月」だと言っているので、そういうことでしょう。

・標:「細長く伸びた若い木の枝(学研全訳古語辞典)」という意味では、「楉・細枝」をあてるように出てくるが、まあこのことでしょう。(Web検索したら、ちょっと素敵なお店が出てきた。→標 しもと

・大和舞:国風歌舞。大和地方に伝わったもの?(雅楽 GAGAKU|文化デジタルライブラリー

・しもとゆふかづらき山に降る雪の間なく時なく思ほゆるかな:古今和歌集の一。

・高間山:奈良にある金剛山の異称。

・五障の罪:仏教において、女性が負うとされた、五つの障害。

・三熱の苦しみ:竜や蛇が受けるとされる、三つの苦しみ。熱風・熱砂に身を焼かれる、悪風に衣服・住居を奪われる、金翅鳥(ガルダ=ナーガ(へび族)の敵)に食われる。

・索(さっく):仏像の持っている縄。

・五衰:天人の死期の五つのしるし。

・無常正覚:最高の悟り。

・法性真如:事物の本性。

・玉鬘:つた、つるの美称。

・小忌衣:神事等に使われる上衣。

高天原天照大御神天津神のすみか。

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■百万のこと

・嵯峨の大念仏:京都市右京区嵯峨の清涼寺(釈迦堂)で行われる、大念仏会。

・恋草を力車に七車積みて恋ふらく吾が心から:万葉集の一。

・女物狂:能の世界では(というか室町時代は)子どもがいなくなって母親が物狂(繊細、センシティブ)になりがち。再会できない曲に角田川とか、本曲と同様に再会する系だと桜川とかがあるが、母親が九州から茨城県くんだりまでいって物狂う桜川より、本曲の奈良→京都は、とっても省エネ。そういえば三演目の舞台が奈良、京都に集中しているのは、何かの策略だろうか。

・鸚鵡の袖:逢うむの袖?

・牛羊怪街に帰り鳥雀枝の深きに集まる:徳を積めば多くの人が徳を募って集まってくるたとえ。

・徒波:大して風もないのに立つ波。変わりやすい人の心。

佐保川奈良県北部を流れる一級河川

・安居:僧たちが遊行をやめて一ヶ所に集まる。主に雨期~夏、虫たちの活動が活発になる時期に彼らを蹴殺さないように、という目的らしい。さだまさしの小説『解夏』はこの安居が開けることの意で、当然この安居ごモチーフになっているが、しみじみととても良い。

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  と、以上が詞章を読みながら、私がWeb検索した言葉や、考えたことである。まだ観能まで一週間あるので、もう少し頑張る……。