哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

ミッドサマーのこと

■ミッドサマーのこと

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 話題となっている映画「ミッドサマー(ディレクターズカット版/R18)」を鑑賞してきたので、その内容をここに記す。

 そもそもこの映画は、スウェーデンのいずこかでコミューン(共同体)を作って暮らしている人々の、90年に一度の夏至祭に、そのホルガ村出身の学生ペレが、留学先のアメリカの学生たちを誘って出かけていく話であり、その祭りで行われる儀式等を通して、次第に主人公のダニーと恋人クリスチャン、そして友人たちやその他の人々が狂っていく(いる?)様を描く、ホラー映画である。

www.phantom-film.com

●物語の流れ【の断片】

 映画を鑑賞して帰ってきた私は、すぐにパソコンを開き、うろ覚えながら、物語を順番に箇条書きで書き出してみた。多分、シーンの細かな順番は絶対に間違っている。それくらい、様々なシーンをぱっぱとテンポよく見せられ、彼らの狂気に満ちた気持ち悪い認知の中へ、私たち観者も引き込まれて行ってしまう、そんな作りになっている。

 そして、そんな書き殴りの流れを、こちらに掲載するにあたり、多分これは未視聴の人には見せれてはいけない、と言うところを次々と削っていったところ、下記の様な形になった。全然、意味不明だと思うのだが、これだけ語るべきトピックのある映画であったのだなあと、なんとなく察していただければ幸いである。

  1. タペストリー。……。
  2. 冬。ダニーが実家に電話。妹からの意味深なメッセージ。恋人クリスチャンへの電話。ダニー、抗不安薬を服用。
  3. クリスチャンと友人たち(マーク、ジョシュ、ペレ)。……。……。ダニーの妹の無理心中(妹と両親が死亡)。
  4. 季節は初夏へ。ダニー、目覚める。クリスチャンとパーティへ。マーク、ジョシュ、ペレと、夏の予定を話す。スウェーデン行きが決まる。ペレ、夏至祭の写真を見せる。メイクイーン(ダンスをして優勝した女性)。両親が死んでいることを話す。ダニーを慰める。……。
  5. ……。車、ペレの運転。ジョシュ、ルーン文字の資料を持っている。ジョシュの論文のテーマ(夏至祭)。……。……。
  6. 草原。イングマールとイギリスの友人のサイモン、コニーと出会う。ドラッグをする。白夜。……。……。……。
  7. ホルガ村へ到着。……。
  8. 寝床の案内。……。ただの熊。
  9. 広い体育館の様な寝床。18歳までが春、36歳までが夏(巡礼)、54歳までが秋(労働)72歳までが冬。……。……。……。……。……。
  10. ペレより、ア……(Ä……)のことを聞く。……。
  11. 食事。……。……。……。……。……。……。……。……。……。マーク、よくわからないポルノの話を聞きながら、皆を出迎える。ジョシュとクリスチャン、論文のことで口論になる。……。
  12. ……。……。
  13. 川岸にて、……。……。……勇敢さを讃えられる。
  14. ダニー、ジョシュに睡眠薬をもらう。……。
  15. 翌朝、ジョシュがルーンをペレに見せる。村のことを論文に書いていいかを、ペレに確認すると、答えを保留される。……。
  16. ……、ウルフが激昂。
  17. ……。……。……。
  18. 食事中、マークは女に連れられて消える。……。……?
  19. 再び、ジョシュに睡眠薬をもらうダニー。……。……。……。
  20. ……。……。……。……。……。ダニーはダンスをする。……。
  21. ダニー、……。ニシンを拒む。……。……。……。
  22. クリスチャン、……。……。……。……。……。……。……。……。ダニー、吐く。
  23. クリスチャン、……。……。
  24. クリスチャン、……。……。……。……。……。……。
  25. ……。……。……。ダニー、……。

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●感想【以下、物語の核心に触れる部分があるので、視聴後に読むことをオススメします】

 私の友人の間で、良いか悪いかは別として、何やら評判となっていた本作である。これは公式サイトのネタバレありの解説ページで見たことだが、この作品はフォークホラーに分類されるのだという。特徴としては異教信仰や精霊信仰等をテーマに、その土地の神を宥める/人間が罰を受ける、しかしその土地の風景は美しい手法で描かれる、等だそうである。

 それ以外にも、諸々とモチーフが共通している作品に、ウィッカーマン (1973年の映画) - Wikipedia があげられるそうである。私は観たことがない。ちなみに、私自身は視聴前は、北欧の土着の人々の話という点で、 映画『サーミの血』公式サイト のようなイメージを持っていったのだが、ミッドサマーはそうした土着民たちの信仰を見せたいのではなく、そうした(どこまで本物かわからない)モチーフを使って、ダニーやその友人たちの関係性(が、壊れていく様)を描きたいのだなと思う。また観ていて感じたのは、 ヴィレッジ (映画) - Wikipedia との雰囲気の類似であった。最もヴィレッジの共同体はさほど歴史のあるものではなく、また外部の人間がやってくるわけではなく、内部の人間がその共同体の不思議さに気がつく話であるが。

 さて、本作で私が興味を抱いたのは、果たしてこのホルガの風習はどれだけ本物か、という点である。例えば日本にもその信憑性はともかくとして、姨捨(山)という伝説があるわけであるが、このミッドサマーにおいては、 Ättestupa - Wikipedia という老人が自ら命を落とす(生命は輪廻するため、新たに生まれた子どもが、その名前を引き継ぐ)、という儀式・伝統が出てくる。もちろん、今はこうした風習はないのであろうが、過去にこれやその他の儀式が、(それに類似する・モチーフとなるものでも)あったのか、それとも全くの想像なのか、そこが気になるところである。

 映画を観ていて考えていたことであるが、私には人が何を信じているか/いたかを知りたい、という欲望があるようである。作中、アメリカに帰りたがるダニーに対して、クリスチャンはまだ来たばかりだから、自分たちが異質だから馴染めていないだけだと言って、宥めていたと思う。これは苦し紛れであったが、決して的外れではない。ホルガの人々を見て、集団洗脳やドラッグ漬けの人々の妄想といった、嫌悪感をいだきつつも、そうでなくて本当に、人間はある年齢に達すると不要になり、自ら喜んで命を土地に返し、そしてまた新たな命となって還ってくるのだ、と信じている人がいるとして、それを否定することができるかというと、できないのである。生まれ変わることなんてありえない、死んだら地獄ないしは天国に行くのだ、という(キリスト教的な)考え方も、一つの信仰に過ぎないし、それと同じくらい、死んだら身体は分解され(魂なんてものは存在しないし)、あなたはこの世から消えるのだ、新生児はあなたの生まれ変わりではなく、生物学的に発生するのだ、という科学的な見方でさえ、(我々の観察や推論、経験が正しいという)信仰に過ぎないのだから。

 そういう意味で、得たものもあるし、また作品自体の出来栄えも、テンポよく本当にそういう場所があるかのようなリアリティを感じさせられ、とても引き込まれるものであったが、とはいえ、好き嫌いのレベルでいえば、私は嫌いな作品にこれを分類するであろう。それはホラーであるという点から致し方ないことなのであるが、グロテスクな描写で多数の死人が出るためである。それでも、自分が何か凄いものを観た気がするのは何故であろう。特にストーリー的に感動させられるものではない。張られた伏線がきちんと回収される、丁寧な展開であったし、トリップした時の足が草に見える、花が動いている、などと言った細かな演出も見事であったし、メイクイーンを決めるダンスシーンも動きがあってよかった。白夜の短い夜、水辺(川?池?)で行われる、子どもと生贄に纏わる儀式(他人のブログを見ていたら、どうもこのあたりがディレクターズカット版で増えたシーンらしい)は、暗闇の中で私もダニーたち外部の人間になったつもりで、彼らの風習を見学する、つまりその儀式がリアルに存在しているかのような印象を受けさえした。それら一つ一つの細やかさは感じられたのだから良い作品なのであろう。それが何か凄いものを見せられた感覚に繋がっている。しかし、嫌いである。この作品への私の印象はこんな感じで、せめぎあっているところだ。

 あと、気になった点では、この祝祭が90年に一度のものという設定であったと思うが、そこの設定のところをもう少し詳しく説明してほしい。例えば、72歳に達した老人の儀式について、村人は何度もその年齢に達した人がいるたびに目にしていると証言しているのだから、この部分は少なくとも、90年周期は関係ないはずである。そもそもこの村の考え方として、90年という周期は長すぎるのである。90年もたてば前の祝祭を経験した人がいなくなってしまうわけで、それを昔のままの形で承継することは困難であるはずである。承継という点では、途中、ただの熊だと言われた檻に囚われた熊が、ラストで再登場するのは上手いと思った。また、メイクイーンの写真が、夏の家?(寝床)に沢山飾られている。ペレも自分のスマホに、前回のメイクイーンの写真を持っている。つまりこのメイクイーンを決定するダンスは、夏至の度か少なくとも90年よりは短い周期で行われるものであるようだ。であれば、この90年周期の個所は、いったい総体の中のどこなのか、私は見落としてしまったようなので、誰か教えてほしい。

  以上が、私がこの作品を鑑賞して24時間内で感じた諸々である。これからいろいろな人の考察を見て、事柄を検索して、理解を深めたいと思うが、私はこの作品が嫌いである。


2020.2.21(金)公開『ミッドサマー』予告編