■ado 1st Album「狂言」が2022年1月26日に発売予定、ところで狂言って何ですか……?
ある日の小学校の国語の授業が柿山伏という狂言について知る授業だったんですけど、とりあえず教科書をぼ~っと読み漁っていたら、シテ と アド という2つの単語が目にとまったんです。そこでアドを取りました……授業の内容を理解して取ったわけではなく、ただ単純に響が良くて取りました……
— Ado (@ado1024imokenp) January 4, 2020
歌い手ado、その名前の由来を彼女は上のツイートの通り説明している。これについて、ラジオ「SCHOOL OF LOCK!」(TokyoFM)のYouTubeチャンネルの動画「Ado × Neru 対談 【 Ado LOCKS! 】」において、狂言の主役を表すシテ、脇役を表すアド、シテだったら主役になれたのかも知れない、それでも後付けだけれど、歌い手の曲を聞いてくれた人の人生の脇役になって、その人を支えられたら嬉しい、という旨を話している。そういう意味でとらえると、なるほど素敵なお名前である。
ところで、アドは本当に脇役なのだろうか。そもそも狂言とは何かというと、奈良時代に中国からやって来たモノマネ等の芸である散楽と、日本の神社で行われていた儀式等とが、結びついてできたものが能楽であり、その内悲劇や歌舞を担当するのが能、喜劇であり語りを担当するのが狂言、と言える。
能におけるシテ(主役)とワキ(相手役)は患者とカウンセラーに喩えられるように、曲目にもよるが、シテの言動を引き出していくのがワキ役であり、現代的な意味での脇役(端役)とは印象が異なる。なお演じる能楽師も、シテ方とワキ方で、明確に区分されている。それ以上に狂言におけるシテ(主役)とアド(相手役)の区分はバラバラだ。演じるのはどちらも狂言方能楽師、舞台を観ていても、シテもアドもほとんど同じ分量で演技や台詞がある場合が多く、これまた曲目にもよるが、シテとアドの関係は、シテとワキのそれよりもずっと曖昧であり、格差のない関係に思われる。
なお対談相手のNeruは「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」(テレビ朝日・主演:米倉涼子)の第七シリーズ主題歌「阿修羅ちゃん」の作詞・作曲者である。
■「うっせぇわ」「阿修羅ちゃん」……、私が気に入った曲は?
矢来能楽堂(東京都新宿区)
adoの曲というと上記の「阿修羅ちゃん」ないしメジャー一作目の配信限定シングルである「うっせぇわ」が有名である。上記の「SCHOOL OF LOCK!」のYouTubeチャンネルでは、こちらの作詞・作曲者であるsyudouとの対談も「Ado × syudou 対談 【 Ado LOCKS! 】」として上がっている。
「うっせぇわ」の制作秘話について、元々女性用に高めのキーで作っていたものを、4つか5つ上げてほしいとリクエストが来て、どうやって歌うんだと思っていたら、サビの「うっせぇうっせぇ」のところを裏声にして、その後の「あなたが思うより」のところを地声で張る形になっていて、作曲者としてはそうした発想はなかった、という話があった。ado側も歌い手だからと言ってただ歌うだけではなくて、どうしたら伝わるかを考えるし、作る側も自分の作風とadoの雰囲気とがあって、作品を出してくるしという、あぁチームなんだなぁ、面白いなぁと感じた。私自身は本曲はその曲調、物騒な歌詞ともに好みではなかったけれど、そうした思いや工夫がこもった作品なのだなと、感心した次第である。
紹介した二つの対談、syudouとのものではadoから若いリスナーへの言葉として、自分がやりたいことがあったら、躊躇せずに好きなものをやってほしい、たくさん挑戦してほしいとのメッセージを、Neruとのものでは、自身が歌い手をやっている理由として、自分が歌っているのを人が聴いてくれたら、好きではない自分を好きになれるかもしれないと思ったとの発言を、残している。またこれらはSCHOOL OF LOCK! 内の期間限定開講ADO LOCKS! の二日目、三日目に放送された対談なのだけれど、それに続く最終日四日目の放送では、自分は自己肯定感が低いから、ファンが自分(Ado)みたいになりたいと言ってくれるのを理解できずに、ありがとうと受け止めきれないこともあるけれど、自分の存在が支えになると言ってくれる人がいるのであればそれだけで十分だ、と話している。
とてつもなく、まっすぐで正直というか、自分の弱さ、悩みをちゃんと隠さずに出してこれる人なのだな、と感じた。そしてそうした彼女の負の感情がぶつけられているのが「うっせぇわ」とか「阿修羅ちゃん」とかなのだと思うのだけれど、一方でこれらは凝った作りになっていて、いまひとつまっすぐさが伝わってこない。彼女が何らかの感情を脚色せずにまっすぐに表現したらどうなるのだろう、というのがとてもよく分かるのが、映画「かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜 ファイナル」(主演:平野紫耀)の挿入歌である「会いたくて」(作詞・作曲:みゆはん)だと思われ、これまでメジャーで発表された七曲の中で私は最も好きである。
adoの曲としてはもちろんなのだけれど、私はみゆはんについて失礼ながら、Youtubeで酒を飲んだり、ゲームをやっている人、という印象しかなかったため、こんな素晴らしい曲を作る人なんだと、びっくした次第である。なおadoを発掘して、事務所の代表に連絡を取るようにすすめたのは、みゆはんだそうである。そうした人間の繋がりはおもしろいと思うものである。