■映画等のこと⑧「すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ」
2年ぶりに幼女に紛れながら、映画「すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ」を拝見した。前作「とびだす絵本とひみつのコ」は2019年に私が観た映画の中でベストだと思っているが、今作は2021年、今年私が観た映画の中で、ベストである。
※以下、ネタバレを含みます※
●すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ のこと
冒頭で可愛い魔法使いたちの姿が描かれる。わん、つー、すりー、ふぉー、ふぁいぶ、の五人。五年に一度の青い大満月の日に彼らはすみっコたちの世界にやって来る。すみっコたちは彼らのことを夢を叶えてくれる存在、と思っていたようだけれど、話が進んでいくとどうもそういうわけでもないよう。なんで来るんだろう……。
ともあれ、話はすみっコたちの世界に移る。前作はとびだす絵本の世界にすみっコたちが飛び込んでの大冒険という内容であった。今作はほぼ、すみっコたちの世界が舞台であり、魔法使いがすみっコたちの世界にやってくるお話。その分すみっコたちのほのぼのとした日常がたっぷりと描かれ、鑑賞中ほっこりしどおしである。
彼らは、とかげのお母さんであるスミッシーと再会したくて、すみっ湖にやってくる。喫茶すみっコからスーパーに行って食材を買い込み、電車に乗ってすみっ湖に到着。とかげは、本当はとかげではなくてきょうりゅうで、だけどそれがばれるとつかまってしまうので、とかげのふりをして生活している。そのことはすみっコたちにも秘密。ちなみにお母さんはもろにきょうりゅうの姿である。
それで、結局スミッシーに会えなかったすみっコたちは帰ってきて、上記、魔法使いに夢を叶えてもらえるという言い伝えを思い出して……、と、日常描写が長い! というのが本作の良さである。起承転結で物語を描くと良いと言われるが、多くの映画がいきなり転から始まっているような、最初から最後まで驚かされどおしの二時間、みたいなものもある中で、きちん起承に時間を費やし、ほっこりさせてくれる。素晴らしい。
さて、青い大満月の夜を楽しくすごしたすみっコたちと魔法使いたち。一番幼い、うまく魔法を使えないふぁいぶが、ひょんな事から取り残されてしまい、とかげの家で二人で暮らしながら、すみっコたちとすごすようになる。
すみっコたちはそれぞれに夢があって、彼らに優しくしてもらったふぁいぶは、お礼に彼らの夢を叶えようと思うのだけれど、魔法が苦手だからうまくいかない。でも、すみっコたちの夢は彼らのコンプレックスの裏返しで、例えばしろくまは寒いのが苦手だからこそ南国で暮らすことを夢みるし、ねこはスタイルが悪くて自信がないからこそ理想の姿になりたいと願う。
それでふぁいぶはもう一度、夢を叶えるのではなくてこのコンプレックスを消去することで、みんなに恩返ししようとする。この魔法は成功して、しろくまは暑がりになってしまうし、ねこは自信満々になってダイエットをやめてしまう。ふぁいぶから事情を聞いたとかげは、ふぁいぶやたぴおかたちと、あの手この手でみんなを元に戻すのだけれど……。
と、私が感じ入ったのはこのシーン。当たり前だけれどすみっコたちでなくとも、こうなったらいいな、これがほしいなという夢は、それが不足しているということの裏返し。私は人と話してコミュニケーションをとることが苦手だからこそ、そうした場を作りたい、話すトレーニングをしたいという思いを抱いている。あるいは、ねこのように太っているからダイエットしようと思ったり、わからないことがあるからこそ勉強しようと思ったり、満たされない部分を補いたいと思うからこそ、大なり小なり夢が生まれるということは、よくわかる。
そしてそうした夢は、ただそれが足りないから手に入れようということに留まらず、私のキャラクター全体に影響を及ぼすことになる。つまり、誰かとコミュニケーションをとろうと励んでいる私は、それだけでコミュニケーションに積極的な人という風に見られるし、自分自身の性格も話好きな方向に振れていく。実際に人づきあいが上手くなりたいと励んでいる中で、私はコミュニケーションが苦手で……、と他人に説明すると、全くそういう風に見えないと言われることもある。
つまり今の私を形作っているのは、私ができなかったこと、苦手だったことに取り組んできた軌跡なのだなと、そうした当たり前のことを思い出させてくれるのが件のシーンである。そしてこれからも自分ができないことは、自分に新たな個性を与えてくれるギフトとなってくれる、のかもしれない。
さてその後、ふぁいぶは無事に魔法使いたちと再会できるのか、とかげはお母さんと会えるのか、それはぜひ、映画をご覧になってほしい。子どもだけでなく、大人にも是非楽しんでいただきたい作品である。