哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

2020年8月金春円満井会定例能のこと @矢来能楽堂「葵上」

■2020年8月金春円満井会定例能のこと @矢来能楽堂「葵上」

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●2020年8月金春円満井会定例能第3部「葵上」のこと

 去る8月10日(月・祝)、東京・神楽坂にある矢来能楽堂で催された、金春円満井会定例能を拝見してきた。これは当初、4月18日(土)に開催を予定されていたものの延期公演である。新型コロナウイルス感染症の影響で2020年3月~6月頃、ほとんどの文化イベントが中止・延期となっている中で、こうして公演が再開できていることは喜ぶべきことであるが、販売席数は半分で一席おきでの着席であるため、主催者(出演者)の負担はいかばかりかと心配にもなる。とはいえ、ひとまず再開おめでとうございます。

  • 通常、同公演では能3番に、狂言や仕舞等がついて、昼過ぎから夕方まで、入替なしで5,000円ポッキリあったが、今回は3部制とし各部能1番のみ(ないし能+狂言)のショートコース、完全入替制で2,000円であった。ひいきの出演者の能のみで退場という来場者も多いことを考えると、気軽に来場しやすくなったともいえる。仕舞は重鎮の出演者もなさっているので、それが拝見できなかったのは残念であるが。
  • 正面玄関の前にて検温とアルコール消毒・マスク着用の徹底。能楽師の辻井八郎さんが、暑い中玄関前に立って、指揮を執っていらっしゃった。
  • 先述の通り、販売席数は半分。普段通り自由席であるが、一席おきに着席するように、座れない座席には紙が貼付してある。
  • 地謡(コーラス)は8人→5人に。奈良の春日若宮おん祭で奉納される芸能「細男(せいのお)」から着想したというマスクを着用。

 以上の様な感染症対策がなされていた。正直、観能は不要不急の外出である。だから感染者が急増し続けているこの時期、行くべきなのかよくわからないところではある。
 1時間程度、適度な空間を開けて、マスクを着けて黙って座っている人たちの空間というのは、少なくとも、ぎゅうぎゅう詰めになって、マスクを着けていない人さえいる毎日の通勤電車よりは、感染のリスクは少ないと思う。とはいえ、仕事と観能(プライベート)は違うのであるから、単純にそのリスクの大小で比較することはできないし、プライベートで私が電車に乗ることで、結果的に仕事で出かける人の感染リスクをあげてしまう等、自分だけを考えていればいい問題ではない。

 さて公演であるが、私は第三部の「葵上(シテ:村岡聖美さん)」を拝見してきた。
 改めて書くが、能は女性がプロとして活躍できる芸能である。今のところ、歌舞伎や文楽では女性プロは認められていないが、能では流派や家による温度差はあるにせよ、戦後早い時期から女性のプロ入りが可能であり、重要無形文化財総合認定保持者の女性もたくさんいる。今回の舞台は、シテ(主役・六条御息所)ツレ(照日の巫女)地謡5名全員が女性である。

 「葵上」はタイトルの通り、『源氏物語』を題材とした内容で、病で臥せっている葵上に取り憑いた悪霊を呼び出して、退治する話であるが、葵上本人は舞台の前方に置かれた装束に象徴されるのみで、役としては出演しない。
 主人公は葵上に取り憑く生霊である六条御息所、年増の女性の面(おもて)で登場するが、演目の中盤、舞台上で後見(黒子役であるが、シテに何かあった際は代役も勤める)の助けを受けながら、般若(悲しむ鬼女の面)に変えて再登場する。カッコよい。

 私自身は、この日が新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言以後、初めての生の舞台観劇であった。やはり生の舞台は清々しく、特に矢来能楽堂はこじんまりと素朴で、外の光が取り込まれて適度に日常との地続き感があって、とても良い。気持ちよく拝見した。

●金春円満井会のこと

 能で主役を勤めるシテ方には5つの流派がある。今回観能した金春流は「聖徳太子に仕えた秦河勝を家祖とすると言われ、現家元金春憲和で八十一世を数える能楽最古の歴史を有する流儀であり、旧くは円満井座と称した」そうである。
 その金春流能楽師たちによる団体が、金春円満井会であり、「中堅能楽師を主軸とした年4回の円満井会定例能を行い、能の普及と芸の研鑽に励んでいる」とのことである。
 金春流の御宗家(家元)である金春憲和さんのYoutubeチャンネルには、能に手軽に触れられて、わかりやすい動画が公開されているので、ご興味のある方はぜひご覧いただき、また能楽堂にも足をお運びいただきたい。


能楽 金春流リモート素謡 鍾馗(しょうき)

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