哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

映画等のこと③2021年3月までの連ドラたち

■映画等のこと③2021年3月までの連ドラたち

f:id:crescendo-bulk78:20210403100647j:plain

 最近(2021年1~3月頃に放送終了した作品)もたくさんの連続ドラマを見た。「六畳間のピアノマン」(NHK)「相棒 season19」「にじいろカルテ」「24 JAPAN」(以上、テレビ朝日)「俺の家の話」「天国と地獄~サイコな2人~」(以上、TBS)「おじさまと猫」(テレビ東京)「監察医 朝顔season2」(フジテレビ)。この中から印象に残った作品を、オススメの三選として、以下の通り紹介したい。

 ところでこうして振り返るに、つくづく私は心が休まる、ほっこりした作品が好きなのだなあ、ということを実感する。小説やその他の文芸作品でもそうだと思うが、特にドラマは激しいアクションや人の死や病気、災害、別離を描くことで、衝撃を与えてくるものが多い。私はそうした要素はあまり好きではない。小説でも基本的にそうなのだが、いかにその世界観が好きか、そこに入り込んでいたいかが私にとっての重要事項である。そしてそうした楽園の美しいバランスが、登場人物の死によって崩されることは、私にとって大層つらいことである。

 良い作品は良い作品であればこそ、私がいつでも遊びに行ける、帰っていくことのできる、チャンスを残してほしい、そう切に願う。

おじさまと猫テレビ東京・主演:草刈正雄)のこと

 漫画『おじさまと猫』(桜井海/スクウェア・エニックス)を原作とした作品。
 草刈正雄演じるピアニストの神田冬樹はあるトラウマから舞台に立てなくっていて、それでも猫のふくまると同居を始めて、また音楽教室の先生として勤め始めて、優しい人々と出会い前に進んでいく、という心温まる物語。ふくまるの声を神木隆之介が熱演しており、音声を聞いているだけだと、神木隆之介が猫語で草刈正雄に「パパさぁ~~~~ん、んにゃにゃにゃにゃ~~♫」とか言って甘えており、妖しげな内容にしか思われないのも魅力。
 各エピソードとも小さな試練や苦労があって、それをみんなの優しさで乗り越えていく、という内容の繰り返しで、それは単純だし幼稚な世界観とさえ言えるのかもしれないけれど、私はそういう世界をほんわかと眺めているのが好きなのである。

監察医 朝顔 season2(フジテレビ・主演:上野樹里)のこと

 漫画『監察医 朝顔』(原作:香川まさひと/作画:木村直巳/実業之日本社)を原作とするドラマのシーズン2であり、またこのシーズン2は2クール通しで5ヶ月間、19話の放映となった。
 原作とは大分設定を変えているようで、ドラマでは東日本大震災で母を亡くした監察医の朝顔役を上野樹里が、その父で刑事の平を時任三郎、夫でやはり刑事の桑原を風間俊介が演じている。
 彼らは色々な問題を抱えていて、本シーズンでは桑原がある事件をきっかけに処分されて単身赴任を余儀なくされたり、退職後の平が認知症を患い、生活に困難をきたしていったりと、苦難があり、理想的に思われる家族であってもそういう事情があって、でもきちんと乗り越えていくんだなあ、ということが感じられる作品。
 同時期、「俺の家の話」では西田敏行演じる能楽師人間国宝)の観山寿三郎の認知症(老父の介護)が描かれ、『にじいろカルテ』では若くしてまだら認知症を患い、数か月に一度夫の顔さえも忘れてしまう橙田雪乃を、安達祐実が演じた。
 忘れるということは悲しいことである。私は三十代前半なのだけれど、それでもふと思い出せないことがあったり、学生時代に必死に勉強した物事をすっかり忘れていることに気がつくと、不安で嫌になる。先月百歳を迎えた私の祖母も、新しいことを覚えるのが苦手になってしまった。2021年3月の徒然なることで触れた「六畳間のピアノマン」では記憶喪失で悪人から善人になった人が描かれる。記憶が人のアイデンティティ(自己同一性)の全てではないけれど、仮に私が記憶を無くしたら、私にとってはそれは私の死なのではないか、と思う。

俺の家の話(TBS・主演:長瀬智也)のこと

 能楽師(観山流宗家)の家に生まれ、家出してプロレスラー(ブリザード寿、後に、スーパー世阿弥マシーン)になり、父で人間国宝の寿三郎の介護と家の継承のために戻ってきた観山寿一。今回で芸能界の表舞台からは身を引くことになる、長瀬智也が演じた。
 素人目では、能楽・プロレスに対して真剣に向き合い、それらを上手く物語に組み込みながら笑いも提供し、流石宮藤官九郎作品、という印象を受けた。もちろん、突っ込みどころは沢山ある。能面を若き日の寿一がスケボーで飛び越えたりと、道具・舞台に対する扱いが雑なことや、能楽師の家の継承をあまりにもドラマ向けに描きすぎている。
 しかしそれを踏まえても、描かれた題材、日本の伝統芸能である”能楽”を知らない人に、その世界に興味を持ってもらうきっかけとして、素晴らしい作品だったと思うし、ラストの大どんでん返しもきちんと能「隅田川」の内容に沿いつつ、長瀬智也を新たなステージに送り出す、クドカンの素敵な演出であったと思う。

◆「俺の家の話」作中で描かれた曲の上演予定

(私がWeb検索で見つけられた限りにつき、漏れがたくさんあります。ご参考までに。)

◇羽衣(序盤で観山家一同が突然謡い出してたあれ)
2021/7/25(日)若竹能(鈴木啓吾・矢来能楽堂
2022/1/3(月)正月特別公演(久田三津子・名古屋能楽堂
2022/1/30(日)能を知る会鎌倉公演(中森健之介・鎌倉能舞台

高砂(序盤で寿一が稽古していたあれ)
2021/10/21(木)外国人のための能楽鑑賞教室(大村定・国立能楽堂
2022/1/30(日)能を知る会鎌倉公演(中森貫太・鎌倉能舞台

道成寺(ほら、鐘に入るやつ。寿限無がぶちギレてたあれ)
2021/6/20(日)能を知る会東京公演(中森健之介・国立能楽堂

◇土蜘蛛(最後の方、踊介が稽古してた紙テープのあれ)
2021/5/30(日)はじめての矢来能楽堂Special(駒瀬直也・矢来能楽堂
2021/6/27(日)京都観世会例会(大江信行・京都観世会館)
2021/8/28(土)親子で楽しむ能の会(藤波重彦・国立能楽堂
2021/12/18(土)青山能MIRAI(谷本悠太朗・銕仙会能楽研修所)

隅田川/角田川(ラスト数話のモチーフ。金春流でのみ角田川と表記)
2021/5/22(土)林定期能5月公演(林宗一郎・京都観世会館)
2021/05/08(土) 硯修會第3回公演(狩野了一・宝生能楽堂
2021/6/26(土)金春円満井会定例能(本田芳樹・矢来能楽堂
2021/7/31(土)第5回金春流能楽師中村昌弘の会(中村昌弘・国立能楽堂

■ちょっと関連

philosophie.hatenablog.comphilosophie.hatenablog.com