哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

映画等のこと⑦「おかえりモネ」その他の連ドラたち

■映画等のこと⑦「おかえりモネ」その他の連ドラたち

f:id:crescendo-bulk78:20211105081350j:plain

 最近(2021年7~10月頃に放送終了した作品)もたくさんの連続ドラマを見たが、圧倒的に私が熱中したのが「おかえりモネ」(NHK)である。本作を中心にその他の連続ドラマについて述べていく。

おかえりモネNHK・主演:清原果耶)のこと

 「おかえりモネ」の主人公永浦百音(清原果耶)は宮城県気仙沼市大島をモデルとした亀島という離島の出身。ある嵐の日に生まれ、中学3年生の時に2011年の東日本大震災を経験する。ドラマで描かれるのはその後、高校を卒業した百音が登米市森林組合に就職し、祖父の友人のサヤカ(夏木マリ)の元で自分のやりたいこと=気象予報士という仕事に出会っていく様子、そして上京して気象予報会社で活躍し、「おかえり」すると……。

 以下、本作で注目した点をバラバラと書いていく。まずこの登米森林組合の至近にある、能舞台のこと。この能舞台は実在のモデルがあり、それが伝統芸能伝承館 「森舞台」。300年近い歴史と伝統を誇る登米能(とよまのう)のホームステージとして平成8年(1996)年にオープンしたとのことで、設計は隈研吾氏、鏡板の松は千住博氏によるものだそう。

 ドラマではサヤカの笛や森林組合の課長・佐々木翔洋(浜野謙太)の謡のシーンもある。作中、サヤカが大切にする樹齢300年を越すヒバのエピソードがあり、実在の森舞台もヒバでできているそう。能舞台というとヒノキが多いイメージであったが、それに限らないのか、というのは勉強になった。サヤカは舞を舞うことで、天の陰と陽が整って雨が降る、舞は雨乞いであるということを言う。能のルーツの一つは農耕民が大地に五穀豊穣を祈願する祭事であり、祈りの芸能であるため、そうした側面が作中に綺麗に描かれており、良い。

 登米で百音を気象の世界に導いていくのは気象予報士の朝岡(西島秀俊)と医師の菅波(坂口健太郎)である。特に朝岡との出会いによって気象の世界を知った百音が気象予報士試験に合格するよう付きっきりで勉強を教えるのが菅波である。当初、ぶっきらぼうでキツイ印象の菅波が、ややお節介にも勉強を教えだし、そして本当に医師なのかというわかりやすさ、詳しさで気象について語り始める(中高の理科の内容なのだろうが、謎なレベルで説明が丁寧である……)。難しい参考書から離れて絵本等のわかりやすいものでイメージを作ったらとアドバイスをしたり、百音の広がり続ける興味を、今はまずこれに集中してくださいと導いたりと、活躍する。実際、関心はあっても進むべきステップが見当たらないことはよくある、と思うので、菅波のような存在は貴重である。

 さてその後の本作であるが、百音が東京で気象予報士として活躍しているパートは、私としてはそこまでグッとくるものが少なかったように思われる。むしろ、百音がおかえりしてからがまた俄然おもしろい。彼女はあなたの町気象予報士『全国津々浦々計画』と題して地域密着型の気象予報を目指す。地元の漁協に売り込みをしたり、コミュニティFMで天気予報の番組を担当したりする。その中で気象予報で未来が分かっても、必ずしも人が幸せにならないことで悩んだりもするし(例えばこの先数年、雨量が少ないと言われても、農家はそこで生きていかざるを得ない)、また震災復興が道半ばであることも描かれる。

 震災のことは、百音の幼馴染の及川亮(永瀬廉)とその父新次(浅野忠信)の父子がよく物語る。亮の母(新次の妻)は震災以降行方不明。震災までは凄腕の漁師であった新次だが、震災で船を失って以降は海に出ておらず、そんな父を元に戻したくて漁師になって船を買おうと奮闘する亮。しかし、それじゃお前の人生じゃないと、また、元に戻ることが良いことばかりとは思えない、と言ってイチゴ農家の手伝いを始めた新次。亮の乗った船が嵐に巻き込まれたことをきっかけに、妻の死を受け入れた新次、ようやく自分を大切に思ってくれている百音の妹未知(時田彩珠)と向き合う勇気を得た亮。震災から立ち直れていない二人が、少しずつ動き出そうともがく様は、かっこ悪いようでものすごくかっこ良い姿なのである。

 朝ドラの中でもとびきり現代、この10年間を描いた本作。作中で描かれた問題や取り組みは、多くが本当の問題であり、気象や復興の現実である。多分、現実にこうして苦しんでいる人がいて、それは東日本大震災に限らず、作中でもそれをモデルとした台風が描かれるが、令和元年房総半島台風(15号)や令和元年東日本台風(19号)といった台風、令和3年7月伊豆山土砂災害等々、災害のたびにそうした苦しむ人が生まれ、今もいるのである。

 いつもの生活が突然無くなる、変容してしまうということは怖いことである。そうしたことを考える契機となる、素晴らしい作品であったと思う。

●その他の連ドラたち(2021年7~10月頃に放送終了した作品)のこと

 その他の連続ドラマについては、駆け足で。

 「シェフは名探偵」(テレビ東京・主演:西島秀俊)が良かった。主人公であるビストロ・パ・マルのシェフ三船が、事件というか客として訪れる人々の困りごと、を解決していく物語でお店の雰囲気が良く、「99.9-刑事専門弁護士-」(TBS・主演:松本潤)や「民王」(日本テレビ・主演:菅田将暉)でお馴染みの木村ひさし監督によるテンポの良い演出も見やすく、明るくて楽しかった。またお店の場所が、私の職場の至近にある千駄ヶ谷大通り商店街という設定、という点も興味深かった。原作は近藤史恵による小説『タルト・タタンの夢』他。

 「IP~サイバー捜査班」(テレビ朝日・主演:佐々木蔵之介)は京都府警のサイバー総合事犯係の活躍を描いた作品で、普段は瞑想室のような自室に閉じこもる安洛主任が自転車で疾走する京都の町が良い。扱っている事件はタイトルの通り、ディープフェイクやデジタルタトゥー等、最先端なものばかりでピンとこない感はあるが……。

 その他、視聴したのは、「正義の天秤」(NHK・主演:亀梨和也)「緊急取調室(4th season)」(テレビ朝日・主演:天海祐希)「ナイトドクター」(フジテレビ・主演:波瑠)。

■ちょっと関連

philosophie.hatenablog.com