哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

絵画等のこと⑬ 「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容 瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄 他@千葉市美術館

■絵画等のこと⑬

  
   
  

 千葉市美術館にて令和5年5月21日(日)まで開催中の「「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容 瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄実験工房の造形」他を拝見したので以下に感想を記す。

●「「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容 瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄実験工房の造形」@千葉市美術館 のこと

 以下、千葉市美術館のWEBページより、展示のリード文を引用する。

 本展覧会では、瀧口修造(たきぐち・しゅうぞう、1903-79)、阿部展也(あべ・のぶや、1913-71)、大辻清司(おおつじ・きよじ、1923-2001)、牛腸茂雄(ごちょう・しげお、1946-1983)の4人の作家の交流と創作を辿りながら、1930年代から80年代にわたる日本写真史の一断片をご紹介します。
 1930年代、技巧的な前衛写真が活発に発表されるなか、瀧口は、写真におけるシュルレアリスムとは「日常現実の深い襞のかげに潜んでいる美を見出すこと」と語りました。本展は、この思想をひとつの軸としています。
 瀧口とともに1938年に「前衛写真協会」を立ち上げた阿部は、瀧口に共鳴し、街の風景にカメラを向けました。また、瀧口と阿部に強く影響を受けた大辻は、「なんでもない写真」と題したシリーズを手掛けます。そして、大辻の愛弟子・牛腸は、「見過ごされてしまうかもしれないぎりぎりの写真」という自身の言葉どおり、独自の視点で周囲の人々や風景を捉えました。
 4人の作家の思想や作品は、互いに影響を与えあい、前衛写真として想起される技巧的なイメージを超えた「前衛」の在り方を示します。戦前から戦後へと引き継がれた、「前衛」写真の精神をお楽しみください。

 この1900年代の写真という芸術は、私にとっては最も縁遠く感じられる分野である。それはこうして、四人の名前が並んでいながら、寡聞にしてどなたも存じ上げないからという点も理由の一つだ。上の案内や展示のキャプション、あるいは今改めてWEBの情報を整理してみると、同じ写真分野で活躍した四人であっても、戦前より活躍し詩人としての作品もある瀧口(祖父の代から続く医者という家業を捨てて、また大学(慶応義塾大学文学部)への進学においても挫折を経験している点など、気になる点は多い)、絵画分野の背景を持つ阿部、二人に遅れて戦中・戦後から活躍し、教育にも熱心に取り組んだ大辻、そしてその大辻が見出した牛腸(幼少期の病により背中が曲がる障害を持っていたそう、また三十六歳の若さで夭折している)、それぞれに(当たり前であるが)キャラクターがあり、もっと彼らについて知りたいと思わせるエピソードがある。

 とはいえ、写真という芸術がいまいちピンとこない(作品から何を伝えたいのかが伝わってこない)感があるのも事実だ。もちろん絵画だって、彫刻だって、映画だって、必ずしもメッセージを感じ取れる必要性はない、目の前の風景の記録として眺めればよいのかもしれない。それでもやはり、写真を作品としてじっくりと鑑賞することが私は苦手である。

 そんな中で気になった作品は二点。一つは土屋幸夫の立体作品を阿部が撮影して、背景に雲の写真を重ねた「夜間作業-オブジェ」。すでに立体として製作された作品を、阿部は写真に収め見せ方を工夫することで「オブジェを発見」している=阿部により製作されている、のだという。なるほどと思う。写真を撮影するというのは、ただそのままを記録するのではなく、新たに製作する行為なのだ、と知った点で、印象に残る。

 もう一つは大辻による雑誌連載「大辻清司実験室」の一連の作品。特に「なんでもない写真」というタイトルが推されている。大辻が撮影した関連性のない二枚の写真が雑誌の見開きで掲載され、被験者である写真家としての大辻について、実験者として言葉を操る大辻が分析するというもの。企画が面白いなと感じた。

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●「つくりかけラボ11 金田実生 線の王国」@千葉市美術館 のこと

 参加者の手で、少しずつ作品ができあがっていく「つくりかけラボ」。今回は金田実生による「線の王国」(令和5年7月2日(日)まで)というタイトルで、毎週王様から出される指令に従って壁に線を描いていく、という内容らしい。五種類の線をという指令に従い、五種類の線(直線・太線・点線・波線・二重線)のいびつな五角形を描いてきた。また機会があったら、様子を見に伺いたい。

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●「千葉市美術館コレクション選 特集:遠藤健郎 市役所物語/伊藤若冲《乗興舟》―日本美術の光と影/写真の時代の浮世絵/特集:恩地孝四郎(1)/特集:北園克衛」@千葉市美術館 のこと

 戦後に実際に千葉市役所に勤めていたという遠藤健郎が、市役所で働く人々の様子を風刺的に描いた「市役所物語」は大変面白かった。机の上に積まれた書類の束は、その作成が手書きからPCに変わった現代であっても、その本質は変わらない。作り手の元を離れて、書類に判子をついて回される、その営みが電子決裁に変わろうとも、その精神は生き続けている。そんなことが確認できて、面白かった。

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