哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

2023年3月の徒然なること

■2023年3月の徒然なること


銀座 朧月(東京都中央区

 この記事を執筆しなければならない、3月26日(日)の午後、仕事の疲れから大爆睡した。はてさて、書き終わるのか。いや、書き終わらせるのである。

●Echoes of Calling– rainbow after– のこと

 振付家・ダンサーの北村明子が四年に渡って取り組んできた長期国際共同制作の舞台プロジェクト『Echoes of Calling 』の最終公演『Echoes of Calling– rainbow after–』を拝見した。
 大変迫力があり興味深かった。ウズベキスタン叙事詩語り部(バフシ)であるアフロル・バフシ・ホーシュワクトフ、アイルランドの伝統的な歌唱シャンノースの歌手ダイアン・キャノンらによる歌唱と、エチオピア出身のアイルランドのダンサー・振付師であるミンテ・ウォーデらによるダンスはどれも圧巻であった。
 といいつつも、北村の企画・演出を理解できたというよりは、何か感じるものがあった、ダンサーたちの躍動する肉体に大変感心した、というところで、正しく楽しめているのかはわからない。能楽を始めとした古典芸能を拝見することが多いのだが、昨年11月のパンタレイ以来の現代舞踊だった。
 何か見えない力に引っ張られているかのようなダンサーの表現、言語を失い意味をなさない言葉を発しながら踊る日本のダンサー六人の前に、アフロル・バフシが現れ「だいち」「そら」を教え、ダンサーたちと異なる雰囲気を出したウォーデがニコニコと舞台上を歩き回り、キャノンが歌う。次第にダンサーたち同士がお互いの形を確かめ合うように、接触が増えていく。
 企画のテーマである日本とアイルランドを両端にユーラシア大陸を貫くという点、まさに異文化が出会うときの手探りと、互いの歴史や文化を伝えていく営みが舞台上に表現されているように感じた。

 日本のダンサーでは、動き回る西山友貴のものすごい身体能力と、川合ロンの雰囲気、表現力がとても良かったこと、近藤彩香が踊っている様子がやたら楽しそうだったことが印象に残っている。良い舞台であった。

●絵画等のこと12.01「AUGMENTED SITUATION D」@シビッククリエイティブベース東京 他

 吉田山らによるXR(VRやAR)を駆使した展示「AUGMENTED SITUATION D」を拝見した。

 メイン会場のシビッククリエイティブベース東京(渋谷東武ホテル地下2階)で拝見できるgodscorpionの「無始無終」はヘッドセットをつけて楽しむVR作品で、能「卒塔婆小町」をモチーフに、僧と蛇、道具が禅問答を繰り広げる等の不思議な世界へ、没入して楽しむことができる興味深いもの。シュレディンガーもモチーフの一つだとか。

 渋谷区に猿楽塚があることが作品背景の一つであり、私は渋谷区内に勤めて、能楽(猿楽)に関わる仕事をしていながら、まるで知らなかった。そうしたリアルな情報を、VR内のキャラクターに教えられるというのも不思議な体験。能というと特徴的な屋根と柱のついた真四角の能舞台や能面といったビジュアルが思い浮かぶが、本作では能で語られている精神性のエッセンスを、VRの映像に翻訳した感じで、面白い。

 


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 また会場を飛び出して、渋谷各所ではスマホアプリSTYLYを用いてAR作品を鑑賞できる。そうした一連の展示全体にも、ワキ(相手役)がしばしばこの世のものではないシテ(主役)と遭遇するという、能の代表的なプロットをモチーフにしているとか。

 私はまだ、こうしたXR技術一つ一つに驚いてしまっている。しかしそれは作り手の本意ではないのだろうとも思う。彼らにとってARやVRというのはあくまでも表現の媒体、これまで人々が書く、描く、奏でる、写す、等々で表現してきたものを、彼らはXRという道具を使って行っている。そう考えると私の、ARでこんなことができるのか! という驚きは小説を読んで、文字なんてものがあるんですね! という頓珍漢な反応をすることに、少し似ている。

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