哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

2023年8月の徒然なること

■2023年7月の徒然なること

 練馬で大小島真木さんの作品を鑑賞したり、代々木で古今亭文菊師匠の落語を堪能したり、初台で柿内正午さんの日記を読んだりする日々について、詳説いたします。

●絵画等のこと14.01「練馬区立美術館コレクション+植物と歩く」@練馬区立美術館

 練馬区立美術館にて「練馬区立美術館コレクション+ 植物と歩く」を拝見した。(会期は8月25日までで終了済み)

 NHK連続テレビ小説「らんまん」で、神木隆之介演じる万太郎のモデルとなった牧野富太郎は、練馬区ゆかりの植物学者。本展では富太郎が採集した植物標本、植物画から、現代の画家達による植物を題材とした表現まで、およそ100点ほどを展示。

 植物学の世界から、美術の話に入っていくのが面白い。ドラマでも万太郎の緻密な植物画や、印刷所に通い詰めて石版印刷をものにする様子が描かれるが、実際の『大日本植物志』の富太郎による植物画も、非常に細かい線で精密に描かれてる。これをただ絵として紙に描くだけでも私には無理、ましてや石版に描いて印刷してという技術を習得するとは……。ドラマでも描かれている植物採集の力、植物を観察する目といった、学者としての資質に加えて、画家の才能と技術者の才能を持ち合わせていたのであろう。

 気になった展示は須田悦弘の木彫。木からチューリップやイヌタデといった植物を掘り出した作品。千葉市美術館でもしばしば登場する作家で、花が散る瞬間を描いた「チューリップ」のように作品として展示されるものもあるが、『本草図譜』や植物標本と関連して、展示室の隅にひっそりと植えられた「イヌタデ」のような展示のされ方が定番である。リアルであり、また楽しい展示。もう一人、倉科光子による「ツナミプランツ」の作品群も、リアルで美しかった。

 そして今回のお目当ては昨年、千葉市美術館でも展示・ワークショップをなさっていた、大小島真木による「胎樹」と「エンタングルメントハート」シリーズの展示。

 インドネシアのなくなった赤ん坊を木に埋葬するという風習も参照しているそうで、「エンタングルメントハート ベイビーツリー」はまさに木の中に宿る赤ん坊といった作品。「胎樹」もまた、木に宿る胎児が細胞から胎児へと成長しているような絵画で、練馬区立美術館35周年に際して公開制作されたものだとか。きちんと見ると木に宿った細胞や胎児、人間の臓器、瞳、それに言葉(アルファベット)なのだが、パッと見、私は宇宙が描かれているのかと感じた。ふわふわと浮く丸い瞳や細胞が、惑星に見えたのである。なんとなく、人体と宇宙は似ていて、人体が多様な部品で一人を構成しているように、宇宙もひとつなのかもしれない、などと考える。

 

www.neribun.or.jp

 
 
 
 
 
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●寄席ばいいのに1.03「第六回文菊千景」@代々木能舞台

 2023年9月2日(土)、お友達が主催なさっている、古今亭文菊の独演会(落語会)を聴きに、代々木能舞台に行ってきた。
 文菊は登場人物の演技がとても上手で、いつも噺の世界に引き込まれるし、その場の様子を見つつ演じてくださるので、初心者でも楽しめるのだ。

 一席目の「金明竹」はおじさんの店で店番をする、とんちんかんな与太郎が笑わせてくれる前半と、店を訪れたお客の早口、関西なまり、符丁だらけの口上が聞かせどころの後半からなる噺。落語はそこそこ聞くので、噺の中身自体はなんとなく覚えているが、演題が覚えられないことが多く、こちらも噺をききながらタイトルが思い出せず。確か馬が出てきて「骨◯」とか? と思いながら聴いていたが、「金明竹」で出てくる動物も猫で、大ハズレ。それでその馬だの骨だのがどこから出てきたかというと、本作の前半部分は狂言の「骨皮」が元となっているそうで、こちらはにわか坊主が大事な傘を貸してしまったことを老僧に叱られ、風で骨は骨、皮は皮になってしまったと言って断るように言われ、次に馬を借りに来た人にそのように断ってしまい……、という内容。納得。

 二席目は「明烏」。Eテレ「カラーで蘇る古今亭志ん生」<2023年9月17日(日)14:00~14:30>の収録が前日にあり、志ん生の孫弟子である文菊も出演したとか。それで、志ん生師匠が廓噺を得意としていたことにちなんでの口演。堅物の若旦那が初めて吉原に行く噺。マクラでは吉原に至る道や、大門をくぐった先の様子など、細かく話してくださり、勉強にもなるし噺の臨場感も増す。寄席ではよく聴く小噺であるが、狐狸と花魁(おいらん)はともに人を化かすが、狐狸は尾で人を化かす、花魁は色気で人を化かす。尾はいらない→尾いらん→おいらん、という由来なのだとか……とふって納得した初心者に、きちんとジョークですよと説明してあげている。

●2023年8月の徒然なること

 先日初めて、初台にある本の読める店 fuzkueへ行った。店内は落ち着いた書斎のような雰囲気。席料2,000円程で、食事や飲み物を頼むとその分席料が安くなっていき、結果的に大体2,000円くらいになる、というすごいシステムのお店である。メニューとご案内のzineにお店のルールが説明されていて、安心してすごせる。ゆっくり読書するためにスリッパ等も借りられる。長時間のスマホやペンの利用はNG、基本的には読書するか(食べるか)しかできないので、読書が捗る。私はせっかくなのでお店にあった柿内正午の『プルーストを読む生活』を拝読したが、もちろん持ち込んだ本を読んでもOK。素敵なお店である。

 『プルーストを読む生活』は筆者が『失われた時を求めて』を読みつつ、その読書に関することや関しないことを綴った日記。脱線が多い。友田とんの『百年の孤独を代わりに読む』に影響を受けているとか。本書の中で、書籍の著者名は基本的には敬称略だけど一度でも会ったことがある人は呼び捨てが忍びない(故に友田とんにはさんが付いている)ので、表記が統一できない、と述べているがこれはまさに私が悩んでいる点でもある(本記事では全て呼び捨てにしているが、過去には日和って書籍の著者や美術品の作者、舞台の出演者にさんやら先生やらを付けていたり、付けていなかったりする)ので、大いに共感した。

 ちなみに今回はハードカバーのp.52まで読めた。またfuzkueに行ったら、途中から読むのである。

 

fuzkue.com

■ちょっと関連

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