哲学講義

仇櫻堂日乗

【まえがき】会社勤めの傍ら、趣味で文章を書いています。私の日常での出来事や考えたことに加えて、読んだ本、鑑賞した美術などの展示、コンサートや能楽公演の感想、それに小説などの作文を載せます。PC表示ですとサイドバーに、スマホ表示ですと、おそらくフッターに、検索窓やカテゴリー一覧(目次)が表示されますので、そちらからご関心のある記事を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

絵画等のこと②「ムーミン75周年ムーミンコミックス展」@松屋銀座8Fイベントスクエア

ムーミンコミックス展のこと

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moomin-comics.jp


 松屋銀座8階にあるイベントスクエアにて2020年9月24日(木)~10月12日(月)で開催中の「ムーミンコミックス展」を鑑賞してきたので、その感想を記す。

 そもそもムーミンフィンランド人(スウェーデン語話者)の画家であるトーベ・ヤンソンが、雑誌「ガルム」等の挿絵で登場させたキャラクターで、トーベ自身の分身であったと言われている。ファシズム等の当時の世相を風刺した内容で、このころのムーミンスノークと呼んでいたそうだが)はよく怒っていたとも聞いたことがある。

 そして1945年の終戦直後に、トーベはムーミントロールを主人公とした児童文学『小さなトロールと大きな洪水』を発表する。ムーミンはそこから、絵本やコミックス、アニメの世界へと羽ばたいていったのである。

 コミックスは1954年よりイギリスのイブニング・ニュースに連載開始、12歳年下の弟ラルス・ヤンソンが英訳やアイデア出しを行う共作、60年以降は多忙となったトーベに代わって、ラルスが単独で作画まで手掛けるようになり、75年まで連載を続けた。

 今回は、そのコミックス全般についての展示で、初期から順番に、各ストーリーから何枚かずつ、下絵(スケッチ)や原画、キャラクターデザイン等が展示されている。
 下絵から原画で変更された点(例えば4コマの枠を、その場に登場するハンモックを吊る木の幹に置き換えて、画面に工夫を加える等)をとりあげてコメントが付いてたり、下絵を鉛筆でばってんに塗りつぶしたあとがあったりするので、制作の過程を覗き見ることができて楽しい。
 また、トーベからラルスへ引き継がれたのちは、ムーミンたちの世界(我々人間界と遠い世界)から飛び出して、人間に近い世界でのスリリングな内容が加わったように感じる。そういった作風の変化を楽しむこともできて、興味深かった。

 ムーミンのアニメは、日本で制作されたフジテレビ系列のカルピス劇場で放送された「ムーミン」(いわゆる昭和ムーミン)や、テレビ東京系列の「楽しいムーミン一家」(平成ムーミン)が有名である。最近ではイギリス・フィンランド共同制作のCGアニメ「ムーミン谷のなかまたち」(日本語版では、俳優の高橋一生さんがスナフキンの声を担当している)もある。

 私は平成ムーミンのリアルタイムの視聴者ではないが、再放送で子どものころからずっと親しんできた。平成ムーミンは、トーベとラルスが監修に携わっていることもあり、こうしてみると確かにアニメの元ネタがコミックスの中にあったり、そのエッセンスのようなものを感じることができる。そういう意味でも幼い日に見たアニメのストーリーと今度はコミックスで再会できて嬉しかった。
 また展示されているコミックスの中には、日本語で刊行されていないものもあり、初めて見る作品多く、充実の内容であった。

 展示は今後、日本各地を巡回する。関東圏でも茨城県・神奈川県・東京都と展示が予定されているため、急いでみる必要はないのかもしれない。新型コロナウイルス感染症対策として、この松屋銀座での展示では、日時指定での事前予約券が販売されており、会場内の混雑状況を確認しながらの入場案内であった。私が鑑賞したのは土曜日であったためか、会場内は列になっていたが、見にくいという印象はなかった。いずれにせよ、ボリューム十分で鑑賞後のグッズ購入も楽しく、大満足の展示であった。

■「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展@銀座メゾンエルメスフォーラム のこと

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 上記の通り、銀座に行く用事があったため、2020年8月27日(木)~11月29日(日)で開催中の馬や馬と寄り添って過ごす人々を記録した展示、「 シャルロット・デュマ展ベゾアール(結石)」を見に、初めて銀座メゾンエルメスフォーラムを訪れた。

 やたらんとお洒落な空間に、オランダ・アムステルダムを拠点に活動する写真家・アーティストであるシャルロット・デュマの作品が、空間を贅沢に使いながら配置されている。蹄鉄の代わりに馬に履かせる藁の馬沓や、与那国馬の映像・写真、腹帯や、馬をかたどった埴輪や木馬である。どれも馬と人との生活の痕跡だ。

 なかでも私の印象に残っているのは標題ともなっているベゾアール(結石)だ。彼女は会場で配布されたリーフレット『馬とオブジェに導かれて―シャルロット・デュマによる散文―』にて以下のように記している。

――思うに、結石とは水分の不足、すなわち死に直結しているのだろう。その証拠にパリで目にした結石は大きく、その重さに耐え、生き延びた馬はいない。結石は神秘的なオーラを放っている。その表面は惑星にも似てそれ故、動物の腹の中からやって来たのに、宇宙からやって来たようにも思われる。これは、石を抱えていた動物が命懸けでこしらえた生涯の作品であり、抵抗の証でもある。命とはかくも無常であることを、想起せざるを得ない。

  結石は近代ヨーロッパの初頭、魔力を持つものとして解毒剤として使われたそうである。多くが馬の胃から取り出されたという結石を、パリにある獣医学博物館で見た時を振り返り、そのサッカーボール並みの大きさを驚愕的であると書いている、私もその大きさに驚いた。そんなものが馬の体内に入っているということを思うに、不安や痛みの感情を禁じえない。

 銀座の路地裏、こちらの展示は入場無料である。馬と人、生活と生命に思いを馳せに立ち寄られるとよいだろう。

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