■映画等のこと⑤2021年6月までの連ドラたち
最近(2021年4~6月頃に放送終了した作品)もたくさんの連続ドラマを見た。「おちょやん」(NHK)「コントが始まる」(日本テレビ)「特捜9 season4」(テレビ朝日)「珈琲いかがでしょう」「生きるとか死ぬとか父親とか」(以上、テレビ東京)「イチケイのカラス」「大豆田とわ子と三人の元夫」(以上、フジテレビ)。この中から印象に残った作品を、オススメの三選として、以下の通り紹介したい。
ところで、前回の三選の候補に「麒麟がくる」(NHK)を入れ忘れたことに、今更ながら気がつく。大河ドラマは毎回、楽しく拝見しているので、あげておきたかった。また前回の三選、およびそこから漏れた作品たちが比較的僅差という印象であった反面、今回は一強である。今クールでは抜群に面白く、最終回を心の底からしんみりと観た作品があった、その点は申し添えておく。
●珈琲いかがでしょう(テレビ東京・主演:中村倫也)のこと
漫画『珈琲いかがでしょう』(コナリミサト/マッグガーデン)を原作とした作品。たこのマークのフードトラックで移動珈琲店を営む青山(中村倫也)が、珈琲とその語りで、社会に適合しきれない疲れた人々を癒していく、というただのハートウォーミングストーリーかと思いきや、青山の過去を知る人物が現れ次第に……、といった内容。
見るべきポイントは、中村倫也がクールでかっこいいことである。
●大豆田とわ子と三人の元夫(フジテレビ・主演:松たか子)のこと
坂元裕二のオリジナル脚本による作品。大豆田とわ子(松たか子)はしろくまハウジングの女社長で、バツ3。一番目の夫との間に生まれた一人娘の唄と暮らしている。一人目の元夫がレストランオーナーの田中八作(松田龍平)、二人目の元夫がファッションカメラマンの佐藤鹿太郎(角田晃広)、三人目の元夫がしろくまハウジングの顧問弁護士である中村慎森(岡田将生)。
この元夫たちが三者三様に、ちょっと残念な所を持っているのがいい。いや、見るからにちょっと残念な部分のある鹿太郎と慎森と違い、八作の欠点というか何故、とわ子と八作が結婚生活を続けられなかったのかは、物語の後半で語られるが、いずれにせよ、みんながみんなダメなりにとわ子のことを別れた今も大切に思っていて、大豆田とわ子は最高だ、と思っている点が良い……、というか彼らのコミカルにゆがんだ愛情が、物語を推し進める原動力となっている。
またこのドラマの特徴は、伊藤沙莉の歯切れのよいナレーションで、とわ子の一週間をダイジェストで見せたうえで、その細部をドラマ本編で見せる、という構成である。毎回毎回、頭に次回予告を見せられているようで、そこでドラマの世界に一気に惹きつけられて、物語が展開する、面白い試みだと思った。伊藤沙莉のきびきびした語り口がその内容にとても合っていて、このドラマの小気味良いテンポを加速させている。あとくだらない話、鹿太郎と慎森が肩ロースとシンシンを食べているシーンが、妙に印象に残っている。
●コントが始まる(日本テレビ・主演:菅田将暉)のこと
金子茂樹のオリジナル脚本による作品。菅田演じる春斗と、仲野太賀演じる潤平、神木隆之介演じる瞬太の三人による、コントトリオ「マクベス」を中心に、この一年ほどでマクベスの熱狂的なファンとなった、ファミレスアルバイトの里穂子(有村架純)とその妹でスナックに勤めるつむぎ(古川琴音)、潤平の彼女の奈津美(芳根京子)らを描いた、青春群像劇である。
マクベスは結成から間もなく十年、春斗や潤平は、両親との約束の中で、十年で売れなかったら芸人を諦めるということになっていたそうで、このドラマでは、いまいち売れていないマクベスが、このまま終わっていってしまうのか、三人がどういうその後に進んでいくのか、っていうことを描いていくわけなのだけど、なんともその描かれ方が爽やかである。その爽やかさの根源が何なのか、その一端はなんとなく彼らがみんな、ちゃんと何かに真剣向き合っているからかもしれないな、と思う。みんなそれぞれの場所で必死に頑張っているからこそ、その姿が美しく見えるのだと。ものすごく語彙力のない言い方をしているが、それが全てのようにも思われる。
中でも里穂子は異色で、新卒で入社した会社で活躍する中で、ある種、板挟みのような状況になって職場を追われる。廃人のような生活をしていたところを、つむぎに助けられて、ファミレスでアルバイトを始めて春斗たちと出会う。私はいわゆるサラリーマンであって、仕事を変えた経験があって、だからこの、結構癖のある生き方をしている若者たちの中で、一番里穂子に親近感を抱いていたかもしれない。物凄く無責任な言い方をすれば、彼女はステレオタイプ的な大人の生き方をしようとしている人だから。
でもそういう型にはまった大人の生活の中にも、彼女ならではのこと(このドラマでは学生時代に彼女が取り組んでいた生け花がキーとなる)があって、真摯に何かにチャレンジすることができるのだと、そして破天荒な生き方をしているその他の人々も、何かの型にはまってもその人として生きていけることができて、また里穂子以上に型にはまった大人として登場する奈津美でさえ、時には破天荒なことをするのだ、というのがなんとも心地よい。
このドラマは各話で、モチーフとなるコントがある。水道修理や池の女神、野良猫を描いたもの等々。それらはマクベスの演目であり、同時に各話を象徴し、そしてそれが……、というネタバレはすまい。このコントも一つ一つが結構練られていて面白く、それについての裏話がドラマ本編で描かれるわけで、本当に芸人たちの舞台裏を見ているかのような構成の妙味もある。ぜひご覧いただきたい、一作であった。